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人類永約  作者: X-987
第一章:理想ある時
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第7話 警鐘

 ——レベルC:官僚内部の組織体系概略——


 

 ・評議会:各管轄区における最高の意思決定機関。各省庁のトップ(省長など)、および行政府の上級幹部によって組織される合議制の組織。議長および副議長は評議会内の選挙によって推薦される。


 ・議長:都市圏における最高指導者。類まれなる才覚を備えた人物として永約の規範として振る舞い、決断および決行における最高責任者。また、議長は全人類会議の一議員として参加し、永約の理念に従うこと。


【各省および主要機関概要(一部抜粋)】


 ・行政府:評議会および議長直属の、都市圏における運営を行う機関。

 ……運営庁:政策策定や調整を司る。(実働部隊:評議会親衛隊)

 ……宣伝局:人類の文化管理を担う。

 ……外務局:他都市との連携、また全世界規模での政策の懸け橋を担う。


 ・保安省:永約の安全を保全する機関。

 ……保衛庁:都市の安全を司る。

 ……公安局:不穏分子の監視・摘発を担う。(実働部隊:特殊部隊)


 ・法務省:永約の理念を執行する機関。

 ……司法庁:裁判および法執行を司る。(実働部隊:執行部隊)

 ……司書局:歴史保全とコネクトシステムの観察を担う。


 ・生命省:永約の医療および生命活動全般を司る機関。

 ……人類庁:全人類の治療および生命管理を司る。

 ……代人庁:プロキシの管理を司る。


 ・進歩省:永約の科学技術全般を司る機関。

 ……未来局:バタフライシステムの管理を担う。

 ……研究局:科学技術の発展を担う。(実働部隊:調査部隊)


 ・資源省:永約の物資調整を司る機関。

 ……原資庁:物資の分配を司る。

 ……材料庁:資源およびエネルギーの管理を司る。


 ・人事省:永約の教育および人材管理を司る機関。

 ……教育庁:全人類の教育を司る。

 ……人事庁:官僚の管理および地下都市の管理を司る。


 ・地上省:永約の地上の循環を管理する機関。

 (無数の内容があるため省略)



 ——IS-3401(オルフェオ):保安省——


 

 保安省に戻ってきた僕たちは、次の一手を模索している。ヴェリタスは帰りの車に乗った時から無言のままで、何かを考えているようだ。オアシスはヴェリタスを心配しつつ、自分の雑務作業に戻った。僕も気を紛らわすかのように別の事務仕事を始めた。ヴェリタスなら何か案を思い浮かべるかもしれない。

 ……もしパトス博士の仮説が本当だとすれば。もし本当に『天命の日』が訪れるなら。僕たちはどうすればいいのだろうか。その日まであと5日しかない。全ての状況を把握するにはあまりにも短かった。謎の宣言に、バタフライシステムの沈黙。これは僕たちだけでどうにかできる範囲をゆうに超えている。

 

 ヴェリタスは自分の椅子に座り、天井を見上げている。彼女はわざと息を吐いて僕たちに告げる。

「……何度も考えたが、これは私たちだけで留めておくべき事案ではない。あらゆる機関を総動員して対策するべきだ」

「同感です」

「私も。ただのいたずらだと思えなくなってきたよ。でも、評議会はすでに天命の日はないとの結論を出している。それを覆すことは至難の業……」

「オアシス、確かにそうだ。だが不可能ではない。私に考えがある」

「いったいどのようなものですか?」

「コンセル省長にかけあって、評議会に再びこの事案をとりあげてもらう。省長なら私たちの話も分かってくれるはずだ」

「確かに省長なら私たちの話を聞いてくれるだろうけど……。でも、説得材料があまりにも不足しているよ」

「そうです、パトス博士の仮説も仮説でしかありませんし」

「だが、この情報を一番知っているのは私たちだ。この件について任されているのも私たちだ。このまま何もしない状態でもし本当に何かが起きた場合、他の官僚や遊び人たちは何も知らず騒動に巻き込まれることとなる」

「そういう災害に備えた危機管理マニュアルがあるのでは?」

「そんなものはない。今まではバタフライシステムによって最適解が提示されていたから、汎用的な対策は形骸化していてないも同然だ。バタフライシステムの予言が消えた今、このままでは無策のまま突入することになりかねない」

「具体的にどうするのよ」

「それは……これからだ。これから考える必要がある」

 ヴェリタスは荷物を整え始めた。

 

「またどこかに行くのですか?まさか今から?」

「今から省長へ会いに行く。今日は部屋にいるはずだ」

「なにかしらプランを考えてからでもいいんじゃない?」

「すでにいうべきことも、するべきことも分かっている。細かい構築をする時ではない。今は時間が限られているのだから即決する方がいい」

 オアシスは少し面倒くさそうな顔をする。

 

「わかった。でも私は業務で手一杯だからパスで。新人君は一緒に行きなさい」

「しかし私も業務が……」

「これは私が何とかするから」

「でも……」

 オアシスが僕に懇願する目をしている。どうやら、僕に行ってほしそうだった。どうかヴェリタスが暴走しないように見張ってくれと。

 

「分かりました。私も向かいます」

「行くぞ。ついてこい」

 僕とヴェリタスはきびきびと部屋を出て行った。

 


 

「失礼します、コンセル省長」

 ヴェリタスは省長室に入った。金属の少し重ための扉だったはずなのに、彼女の焦りが力としてでたのか勢いよく開いて不気味な音を立てる。それにもかかわらず、省長は何事もないかのように座って何かの資料を読んでいるようだった。僕は彼女の後ろにこっそりついていく。

 

「ヴェリタス君、いきなりどうした?」

 省長は彼女に目を向けずに手元の紙を読み続ける。ヴェリタスは省長の机に近づいていった。彼女の履いているヒールの音が静寂の中に響く。僕は入り口で固まったままだった。

 

「突然の訪問ですみません。しかし、緊急の要件で参りました」

 省長はやっと資料を机に置いて彼女に向き合った。

 

「単刀直入に言います。『天命の日』について、今一度評議会にて審議するよう取り計らっていただけませんか?」

 省長はまるで彼女の言おうとしていたことが分かっていたかのようだった。彼は椅子の方向を90度左に変えてそっぽを向いた状態で言う。

 

「しかしなあ、ヴェリタス君。あれはデマだという結論が出ている。再度審議することはあり得ないだろう」

 ヴェリタスは省長に顔を合わせようと移動しながら言う。省長も彼女の視線を逃れるかのように椅子を回転させている。

 

「取り返しのつかない事態になるやもしれないのです」

「それは起こりえないはずだ」

「バタフライシステムが故障しているのは聞きましたよね?あれがあってなぜ再考しないのですか?」

「それはよくあるトラブルの一種だろう。万が一動かなければ行政府が平常通りのプランをたててなんとかするはずだ」

「それでは万が一に対応できません」

「万が一など起きやしない」

「さきほどパトス博士のお話しいたしました。彼の仮説だと、本当にそのような事態が起こりうるかもしれないとのことです」

「それはただの仮説だろ?パトスほどの人物であろうと、憶測で組織は動けるものじゃない」

「それでも十分にあり得る話です」

「まるで結論ありきではないか。本当にあの映像の言っていることが真実としたいのではないか?」

「そうではありません。私が言いたいのは、このままの状態では危機が訪れた時に全く準備ができていない現状に警告しているのです」

「……君が忠誠心にあふれていることは知っている。だがな、評議会の議決は変えることができない」

「それでも!」

「ヴェリタス君」

 省長はヴェリタスと顔を合わせ、これまで聞いたことがないほどに低く鋭い声を部屋に充満させた。

 

「これ以上詮索するな。戻って自分の仕事に専念しなさい。命令だ」

「……」

「これは君のためでもある。どうか降りてくれ……」

 ヴェリタスはこれ以上言っても意味がないと悟り、こぶしを握り締めながら部屋を出ていった。

 

 省長は残った僕を見つめる。何も言わなかったが、彼は申し訳なさそうに僕を見つめて、一度首を縦に振った。彼女のもとに行ってやれという願いだろうか。僕は省長に軽く会釈をして省長室を退出した。

 

 扉の外で、彼女は壁にもたれかかって下を向いていた。そして、小声で僕にだけ聞こえるように喋った。

「もし本当にことが起きたら、私はその存在を知っていたというのに黙っていたことになる。このままでは無駄な犠牲が出てしまうというのに」

 悔しそうな顔をした彼女は拳を壁にたたきつけた。

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