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不知火戦奇  作者: tsuru hiroki
98/210

八


険しい山中を悪兵衛と連者隊は進む。先行する者が「垂直に上昇する」

破双を駆使し、崖上に綱を張り、それを伝って隊士が駆け上がる。

ほぼ直線に山中を行軍する能力は不知火にもない。

無尽蔵にも思えるような体力で急な斜面をかけあがり、

樹木を利用して崖や河川を超える。そうかと思えば腰まで水に浸かり、

顎を地面にあてて泥塗れで進行する。

悪兵衛は麻生と隊士の補佐を受けながら進み、その能力に瞠目していた。

途中、早騨宿の街並みを眼下にし、本隊の行軍を臨む位置で連者隊は休止

する。

「この短時間でここまでの山中を踏破するとは。さぞかし厳しい訓練を

しているのであろう。」

悪兵衛は息をつきながら麻生に尋ねる。

「この程度ならば演習より楽です。」

麻生はややぶっきら棒に答える。悪兵衛は他の隊士にも声をかけ、労う。

腰帯より先ほど麻生から分けてもらった乾麺麭と呼ばれる糧食を

出して口にいれた。

「うまい。さくさくでうまい。」

呑気な言葉に隊士達から笑いが漏れた。

「まだ空腹ですか。」

麻生が困り顔で尋ねる。

「うーん、先ほど食べたのが、もう腹から無くなった。」

さすがに麻生も笑顔を浮かべた。片頬にえくぼが出来ている。

遠く、玄嶽の太鼓が響く。一つずつ、腹に響く音が断続的に響く。

「戦闘準備が整いました。」

麻生が表情を引き締めて悪兵衛に告げる。

「よし。合流地点を目指す。」

悪兵衛と連者隊は発った。



*



バルザックと十字朗、玄嶽本体は北の大門の手前に陣を整える。

先行隊に金砕棒を携えた屈強な突撃班、その背後に長槍を装備した支援班、

さらにその背後に魁音刀を装備した直接攻撃班。

不知火の二人は突撃班の背後に位置している。

支援班の背後の隊士が断続的に大太鼓を鳴らす。

「玄嶽太鼓」と呼ばれる地を揺るがす重い音響が隊士達を奮い立たせている。

「突撃班は大門前まで進行。その背後に不知火。間をおかず支援班。」

身体に刺さるような波形が通り、小早川の意思を伝える。

宗波であった。不知火では美浪結宇大尉のみ使役する魁音撃であるが、

玄嶽ではその戦闘形態から複数の者が使用でき、小早川もその一人である。

柔らかな美浪の意思と仲間を繋ぐ宗波に比べ、小早川のものは刺々しく、

思考に刺さるように伝えられ、その音量も大きい。

「小早川司令の宗波はうるさいな。」

「これは慣れないね。」

十字朗とバルザックの軽口に、後藤大尉は眉間に皺をよせ、睨む。

「宗波を受けた。首尾はどうなっている。」

悪兵衛の思考が不知火隊士に告げられる。

「三段構えの突撃班下に安曇、バルザック。一圓、一真?」

十字朗が応え、橘川兄弟に呼びかける。

「中盤、支援班の下に二人とも配置されてる。」

「我ら以外に射撃要員はいないよ。」

橘川兄弟の思考が応える。杖の弥者を警戒した布陣のようである。が、

その位置では弓士としての距離を稼いだ攻撃が出来るわけではなく、

かつ反撃の危険性も残る中途半端な位置であった。

小早川の策に首をかしげながら、悪兵衛は通信を終える。


「攻撃を開始いたします。不知火両名は大門前に展開。」

小早川の宗波に頷き、十字朗とバルザックはゆっくりと歩を進める。

濃緑と迷彩色の軍団から、純白の陣羽織に身を包んだ二人が現れ、

大門の前に立つ。扉がゆっくりと開いていく。

「これからもどちらかが死ぬまで隣で剣を揮う気がするよ。」

「十字朗もそう思うかい?」

二人は刀を抜く。十字朗は白い火花が飛び散り、バルザックは赤い火花が

爆ぜた。その眼前、扉の奥に男女の弥者が現れる。大柄な圧殺の男、

思考操作の女の二名であった。自らが「白虎」と呼ぶ宿敵の出現に

歯噛みしているように見える。


「宣戦布告。」

「吶喊白兵衆参、不知火。」

「ルートヴィヒ・フォン・バルザック中佐である。」

「同じく安曇十字朗少佐。」

「早騨宿の民間人を虐殺、蹂躙し、開津藩兵への攻撃を侵略と認め、

戦争行為を行う。報復、殲滅する。」

「いざ尋常に勝負」

「勝負」

朗々たる二人の声の後に玄嶽兵の鬨の声が続いた。


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