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不知火戦奇  作者: tsuru hiroki
96/210

六


玄嶽の大隊、最小数五十名の隊士が早騨宿に到着した。

丸二日間の移動にも関わらず、疲れも見せず無表情かつ規律の取れた

その動作はまさに陸軍の本丸を体現している。

桜花兜《おうかとう》と呼ばれる丸兜に全身を覆う鬼門甲、濃緑色と迷彩色を基調とした

陣羽織に身を包み、眉庇《まびさし》から覗く視線は鋭く、力に漲っている。

天幕にて小早川と共に大柄な坊主頭の中年男と、細身の女性が不知火を迎えた。


「本体を率いる、後藤安俊大尉と、別動隊の麻生叶《あそうかなえ》中尉でございます。」

「別動隊、不知火、播磨悪兵衛少佐である。」

「他、直接打撃兵二名、遠隔攻撃兵二名、待機しております。」

後藤と呼ばれた坊主頭の男は、額から顎までを分断するような刀傷をが

目立つ。小早川と悪兵衛に無言で敬礼し、天幕から出て行った。本隊と

バルザック、十字朗と合流する為であろう。

「麻生中尉は、特務機動隊を率いて頂きます。作戦指示は与えておりますのでご確認を。…まぁ、いらぬがね。」

相変わらず消えいりそうな語尾の言葉を残し、小早川は部下と共に机に向かう。

悪兵衛に麻生中尉が敬礼する。肩までの短髪に、鋭く、つり上がった瞳。

若竹のような引き締まった体躯で、身長は悪兵衛とほぼ同じ。年齢はわずかに

上に見える。

「少佐、別動隊と共に作戦行動の説明をいたします。こちらへ。」

硬く、きびきびとした声で麻生中尉は悪兵衛をまっすぐ見つめて言った。


「特務機動隊というのは…連者隊の事か?」

道すがら、悪兵衛は麻生に聞く。作戦行動、特別任務に秀でた物を選抜し、

戦略的に集合離散する部隊、通称連者隊の噂は聞いた事があった。

「左様です。少佐。特務連者隊として今次の作戦に従事します。」

冷たく一言一言が拒絶の印象を与える麻生の言葉の抑揚である。

六名の小隊で連者隊は構成され、不知火同様、肩までの鬼門甲に濃緑の長着に

袴と、本隊よりやや軽装の装備の者達であった。隊士は口を堅く結び、一様に

厳しい表情を崩さない。悪兵衛の挨拶に皆敬礼の姿勢をとる。

麻生中尉より作戦の説明がなされた。

本隊の西、村外れの断崖を作戦開始と共に登攀《とうはん》、山中を大門に向かい侵攻、

本隊の交戦中に指示と共に敵本丸に直接攻撃という手はずである。

敵中枢に弥者が確認されている以上、攻撃の要になるのは悪兵衛であった。

作戦開始は一刻後。悪兵衛は装備を整えに一旦不知火天幕に戻る。


すでにバルザック、十字朗、橘川兄弟は作戦説明を受け装備品の最終確認の

段階であった。それぞれの魁音刀は低い唸り声を上げている。

「作戦はいかがであった?」

悪兵衛が鬼門甲に手を通し、拘束金具を留めながら聞く。

「移動時間がある。先に発たねばならん。」

十字朗が刀を腰に差し、立ち上がる。

「移動しながらおいおい伝えるよ。」

バルザックが悪兵衛の肩に手を置いて十字朗に続く。

「小早川ってやつ、搦め手がすきみたいだ。」

「悪兵衛も気を付けて。」

橘川兄弟も天幕を出て行った。唐澤が悪兵衛の髪結いを手伝ってくれている。

「やっぱり、玄嶽のひとって素敵ねえ。あの大きな身体にへの字のお口。」

浮かれた唐澤の言葉に苦笑しながら、手元の白湯を一口飲んだ。

鬼門甲に炎之長着、足元を固めた不知火の姿で悪兵衛は天幕を出た。

厚い雲の下、篝火が焚かれ不気味に浮かび上がる大門が見える。

視線を左に流すと樹木の生い茂る山道に続く崖、その麓にいくつかの集落。

外れに早騨宿の西の門。その先の山中に突入する位置に、連者隊が待機して

いる手筈になっている。

見送る唐澤に一礼し、悪兵衛は小走りで村の西を目指す。

大門の向こう、遠く霞んで見える神尾山より遠雷が聞こえる。


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