五
不知火天幕。輜重隊長の唐澤が華やかな食卓を整えている。
鰆と鯖の棒寿司に貝の汁物、塩漬けの菜が並ぶ。
「村外れの炊事場を解放してくれたの。助かったわ。」
小早川の意外な配慮に苦笑する面々である。
「あ、寿司だ。やった。」
「お酒が欲しいね。」
卓につき、にこやかな橘川兄弟とバルザック。対して十字朗と悪兵衛は
眉を寄せて先ほどの一幕を話している。
「小早川司令と章さんはどうも知り合いみたいだ。」
「うむ。しかし灰音殿からそんな話は聞いた事がない。」
「作戦報告書でも、玄嶽との連携で小早川の名を見た事がないな。」
「報告書は…幕僚の検閲がある。我々に公開されるのは一部という
噂もあるんだ。」
「二人とも生え抜きとすれば…学生の時かもしくは本閥選以来と
いう事もあるな。」
「左様。だが…指令は灰音殿にあまり良い感情をもっておらぬ。」
「奇特だが風変りな男だ。感情なんかわかるか。」
悪兵衛の乱暴な物言いに十字朗は吹き出して笑った。
鯖の棒寿司に辛子をつけて、悪兵衛は頬張る。
辛味がつきぬけ、鼻を赤くして涙目になっている。
*
人並みな食事を終え、到着してから初めて一息ついた。
不知火の面々は翌日の作戦予定を反芻する。
個々の戦闘計画は悪兵衛が別動隊で行動する以上、その場での
判断になる。が、そこはバルザックと十字朗に任せ、悪兵衛は何も
言わない。二人が一流の戦士であり侍である事は重々わかっている。
弓士としての橘川兄弟の起用は、本隊を指揮する小早川に一任される。
悪兵衛の心配はそこにあった。
「指令は開津藩兵を犠牲にしてまで、敵戦力の査定をする男だ。」
「一圓と一真の使い所が気にかかる。」
「錫杖の弥者の的にされるか?撃ち返しなぞ、あたってたまるか。」
一圓が笑いながら言った。
「潰す弥者の的になるかもね。」
一真が返す。二人の表情に不安は無い。
「指令が先鋒として二名を指名した場合、一圓にバルザック、
一真に十字朗がつき、射撃中の護衛を頼む。」
悪兵衛の言葉に四名が頷いた。
「隊列の組成でどうなるかわからんが、そこはうまく軍規違反でもやるさ。」
十字朗の気楽な言葉にその場がなごむ。
唐澤が燗の酒を持ってきた。食後に一定量までは作戦前でも許されている。
バルザックと十字朗は笑顔で猪口を受け取った。
「後は悪兵衛の別動隊だね。」
「悪兵衛一人と玄嶽一小隊か。頼むぞ、諍いは起こすなよ?」
悪兵衛の喧嘩早さを知っている二人がのぞき込む。
「心配するな。玄嶽なんぞに負けん。」
「そういう事じゃないんだよ。」
バルザックがため息をつき、十字朗が額に手をあてている。
「玄嶽さん、素敵よね。あの坊主頭に仏頂面。」
唐澤が後片付けをしながら華やいだ声をあげている。
「なんで玄嶽の輜重隊に入らなかったの?」
一圓が声をかけた。唐澤は両手で顔を隠して腰を振っている。
「そんな。お仕事にならないわよ。」
早暁、玄嶽大隊着任の報を受ける。
本閥と弥者・狗族の全面的な戦闘が開始されようとしていた。




