五
「いやぁ、擦った。」
「不覚。」
仁悟朗と士道が大笑いしている。
「どうした。」
「どうしたも何も、賭け矢で負けた。」
「弓の張りも矢の重心もおかしい。あれでは当たらぬ。」
的にあたれば相応の掛け金が獲れるが、より賭け高のある「当て矢」
という、予め当てる的を申告する遊びに二人は夢中になり、金子を失った。
「小銭しか残っておらぬ。」
「俺もだ。」
呑気な二人に悪兵衛も笑ってはいたが、ぎくりとして聞き返す。
「待て、持ち金をほとんど使ったのか?」
「そうだ。お前の持ち分があれば帰りの費用位なんとかなるわ。」
「いや、俺の分は宿代と飯代として仁悟に預けた分がすべてだ。
後は手持ちしかない。」
「何。」
しばし三人は押し黙ったが、やがて大声で笑いあった。
「ま、居籠屋に事情を話せば融通してくれるだろう。」
「それもそうか。」
参道の向こう、櫓の立つあたりから呼び声が聞こえる。
剛力比べの参加の締めが近づいている。
力自慢の参加希望の者達が列を作り、そこに三人はなんとか並び、
締めに間に合った。
人々の騒めきの中、何度も聞こえるのが「力太郎」の名である。
椴松一家の代表として勝ち続けている男の通称であった。
無論今年も参加しているらしい。
やがてその名を呼ぶ声が広がり、前方の人だかりが分かれていく。
その中心に「力太郎」が現れた。
派手な振袖を着崩し、片腕をはだけた色白の若い男で
のっぺりとした顔に唇が赤い。絶えずにやにやと笑いながら
分れた人の中心を歩む。香水を嫌味な程振りかけているようで、女郎のような
匂いが残った。その背後には椴松一家の者達が付き従っている。
「奴がそうか。わかったか?」
「美浪のような能力が無ければな。」
「弥者かどうかわからん。兎に角、気味の悪い男だ。」
仁悟朗と士道は小声で語る。思い返したように悪兵衛が言った。
「まて、人間に擬態したままでは破常力は使えぬ。」
「む、そうか。奴らの本来の姿に戻らねば。」
「だからこそ、お上の捜査から漏れているという事か。」
しばし三人は考えるが、やがて仁悟朗が口を開く。
「悪兵衛、お主のかいな力の方がよほど人間離れしておるわ。
そういう者も世の中にはおるのだろう。」
悪兵衛は不満げな顔をしているが、士道は大声で笑っている。
*
大櫓のふもと、剛力比べの参加者の登録に三人はたどり着いた。
背後には三名程が並んでいるが、そこで人数の打ち切りにあっている。
ぎりぎりに間に合った形である。受付には村の若者があたっていた。
「こちらにお名前を頂きやす。そうして念書にも。」
署名には、剛力比べの間、いかなる怪我を負おうとも元締めにその責めは
負わせないという覚書が添えられている。三名はそれぞれ書き込む。
「結構でございます。それでは参加料で三名様、一分銀三枚で。」
「何、参加料を取るのか?」
「へい、そういった取り決めになっております。」
三人は顔を見合わせる。
「おい、そんな金は無いぞ。」
「すぐに居籠屋に戻るか。」
受付の若者が声を大きくする。
「お支払いできねえなら、参加は諦めておくんなさい。もう締めの時間で。」
「お武家さん、さっさとしておくんねえ。」
背後で並ぶ者から不満の声も漏れる。
「まずい。」
「参ったな。参加できぬぞ。」
三人の背後より声が上がった。
「私が払うよ。使っておくれ。」
遊女姿に扮した、副長、風祭玲であった。




