十一
御簾が真一文字に断ち切られ、下に落ちた。
斬った刃は奇妙な形をした短刀で、空中で回転し続けている。
座ったままの男は仮面でその表情は見えない。
金属の骨格のような衣でよろい、黒灰の帯には桜の文様が散っている。
その胸元、肩口、仮面の額に翡翠と思われる美しい青緑の宝玉が光る。
「七つ星。」
刑部は眉を吊り上げ、表情が引き締まる。
「ヤツヒロノイクサガミ、スバルノミコト。」
「八百万とシナツヒコの護り受け、ヤマトビトを討つ。」
弥者の最高位の者とされる一人、スバルノミコトは
片手を上げると空中で回転していた短刀がその手元に戻る。
スバルノミコトがゆっくりと立ち上がると、その腰元に装着された
短刀が左右に三本ずつ飛び上がり、空中で回転を始める。
蝋燭の炎が揺れ、スバルノミコトの影をゆらゆらと揺らしている。
「お前たちは何故、戦に否定的であった和平派の重鎮を暗殺した?」
刑部は下段に構えながらゆっくりと下がる。
スバルノミコトは答えず、御台から降り刑部と相対する。
「戦争を止めてはならない理由があるのか。」
「ハ ナ ニ チ ョ ウ」
スバルノミコトの呪詛が響くと同時に三本の短刀が回転しながら
刑部を襲った。圧のある風が刑部を直撃し、破双で飛びすさる。
その着地点を狙いさらに三本が真上から襲った。
刑部は破双の発動中にさらに破双を行い、左側の障子を突き破り、
中庭に飛び出した。
奥の間の燭台の灯は全て消え、暗黒の中からスバルノミコトは
ゆっくりと姿を現し、その左右に刀が回転し続けている。
刑部は本閥戦技の複数の発動により、体内の士魂の枯渇を感じている。
(残弾、一か。)
一人ごちて刑部はにやりと、笑った。
隠し廊下の先、雨戸を破って悪兵衛は中庭に飛び出した。
刑部のいる庭と母屋を挟んで東西逆に位置する。
庭の奥にユウギリノヌシが佇み、憎しみに溢れた視線を投げかけている。
口から鮮血を溢れさせながら、筝をかき鳴らす。
馳駆紫を抜いた美浪は素早く辺りを確認しながら声をあげる。
「悪兵衛、奴は」
「歌えまい。ならば自己強化の破常力を使役するはずだ。」
悪兵衛は無造作に歩みながら琿青を抜いた。
青白い火花が散り、悪兵衛の瞳に映る。全身から吹き上がる士魂と憎しみ
に魁音刀が答え、高い金属音を発している。
ユウギリヌシの筝の音が高まり、上半身が紫の炎に包まれた。その瞬間
悪兵衛が破双で突入する。
「旭光」
怒号と共に大地が衝撃でえぐれ、破壊の爆壁が形成され打ち上がる。
攻撃の範囲はユウギリノヌシには一歩届いていない。紫の炎の中で女は唇の端を
釣り上げて笑った。
瞬間、その両手の先は喪失し、手首を巻き込み身体が溶けていく。
ユウギリノヌシは恐怖の表情で声も無く絶叫を発した。
旭光の爆壁は発現したと同時に高速で回転している。
例え直撃でなくとも、接触に近い距離であれば目標物を巻き込みながら
破壊する能力を持つ。
対弥者討伐に於いて、絶対的な攻撃的優位性を持つと言われる所以であった。
ユウギリノヌシは肘まで魁音撃に侵蝕され、膝を落とす。
目の前で両腕が喪失し、割れて崩れる感覚を覚え、唐突に「ワリヂカラ」と
評される侍の異能力を実感した。
侵蝕されつつあるユウギリノヌシの腕が飛来した刃に切り落とされた。
空中の短刀が回転しながらスバルノミコトの手元に戻る。
それを自らの角に装着し、ユウギリノヌシの身体を抱いた。
「貴様」
「七つ星か。」
悪兵衛と美浪は驚愕の表情で刀を構え直した。
屋敷の奥から刑部が現れる。
「織田刑部、我が問いに答えたならば、お前の問いに答えよう。」
スバルは意識を失っているユウギリノヌシを担いだ。
「ビャッコを束ねている者なのか?」
「いいや、参謀だ。」
刑部はにやりと笑いながら中庭の白砂を鳴らして降り立つ。
「そうか。我々が討った者は和平派でも戦争派でも関係ない。」
スバルは言いながらふわりと空中に浮きあがった。
そのまま塀の先に消え、後には旋風が残った。
悪兵衛は膝をつき、怒りに燃え上がった眼でスバルノミコトの
消えた先を見つめている。
「念動で飛翔する事すら出来るのか。」
美浪は呆気にとられた表情をしている。
刑部は魁音刀を鞘に納めた。
屋敷の向こう、中間部屋の方向に火の手があがり、騒ぎの声が
響いてくる。朧丸による妨害工作である。
「撤収する。中間者と道場生を斬りたくはなかろう。」
刑部の穏やかな声で、悪兵衛はようやく立ち上がった。




