十
「死神といえど、消耗はするものだな。」
仮面の男は低い声で笑いながらいった。眼下では激しい戦闘が行われている。
「カミキリノナリムシの魂を半分、使いました。」
落ち着きを取り戻したモガミが震える声で告げる。
「奴らのワリヂカラは残りわずかと見える。」
瞬く光で仮面が照らされる。低く轟く音と共に旭光が炸裂した。
直後、六本の光の刃が阿修羅を貫くのが見えた。
「烈火のワリビトの力は三度までと聞く。今ので最後か。」
「ではソウケンノヌシ」
「うむ。我らの勝ち、だ。」
崖下より別の男がソウケンノヌシと呼ばれた弥者に声を掛ける。
「アメノミカドの刻だ。」
「しかし」
「モガミ、捨て置け。」
弥者達の影は岬から消えた。
*
星巡の間隙、消耗した桃乃介は足がもつれる。
眼前から透明になって姿を消した阿修羅がその背後に音もなく現れ、
その指で桃を捉えた。食うまでもなく、縊り殺すつもりで胴が締まる。
死を、覚悟した。
「擂嵐」
バルザック最後の魁音撃が阿修羅の腕を根元から破壊する。
白煙をあげて後ずさりする異形。だが一歩踏み出した時に
その腕は元に戻っている。
「治癒の力が強すぎる。遠隔での破常力とは思えない。」
荒い息をつきながらバルザックが叫んだ。悪兵衛も同様に感じている。
集合した侍達は町家に身を隠す。それぞれ疲労の色が濃い。
「星巡は、八百万の流れを目で見る。」
「それが攻め星と護り星となって伝えてくれる。」
「その時、みえた。」
蒼白な表情で桃が叫ぶ。
「何が見えたんだ。」
「空から、狗族の命が降って、阿修羅に吸い込まれてる」
腕が家屋を破壊しながら襲う。破双で飛びすさる三人。
「真言で士魂を高め、言霊にて阿修羅を引く。」
「環太積の援軍まで時を稼ぐ。我々にすでに攻撃手段はない。」
「バルザック。」
悪兵衛の声にバルザックはゆっくりと頷く。
「そうだね。奴の移動手段を考えれば撤退は無い。」
「たぶん、命を落とすけどそれで正しいよ。悪兵衛。」
「すまぬ。」
「君は頭目だ。立派に指示をした。そうだろう?桃乃介。」
桃はすこし笑って頷く。
悪兵衛は顔を上げて叫ぶ。
「散開」
漁師小屋からタケルが現れ、震えながら眼下を見下ろす。
侍達の怒号が遠く響く。桃乃介の悲痛な叫びをとらえ、
タケルの震えが止まった。
小さく唸りながら全身が総毛立ち、瞳が白く輝き燃え出す。
口元から白い稲妻が放電しはじめ、やがてそれは全身から溢れる。
強い光を発しながらタケルは声も無く吠えた。
視界がぼやけ、足元に力が入らない。琿青を握りしめ、
目をつぶり真言を反芻する。魁音撃を撃ち尽くし、戦闘時間が長引いた
いま、限界が訪れている。恐らく、士魂の貯蔵量の最も多い桃乃介は
体力の喪失と共に死亡、次いで剣戟を続けるも決定的な攻撃が出来ない
バルザックが死亡。その前後で自分と予想する。
村人の避難は終わり、大居藩の兵は丘陵まで待避してこちらを伺っている。
戦旗の炎の紋章を見、悪兵衛は満足げに笑った。
その瞬間、足元より白い焔が燃え上がり全身を包む感覚に襲われる。
体内に熱く、噴き上がるように士魂が充溢していく。
呼吸が整い、戦意が強く、強く湧き上がる。
悪兵衛の元にバルザックと桃乃介が集まる。不可解な表情をしている。
「残弾報告せよ。」
「擂嵐、一。」
「星巡、一。」
「旭光、一。」
瞳に力が宿り、悪兵衛は叫んだ。
「星巡にて攪乱後、腹部より頭部に垂直方向に攻撃、擂嵐で頭部破壊。」
その言葉をいうや否や、侍達を発見した阿修羅が現れ、凶暴な意思を持って
掴みかかる。
「星巡」
桃の声と共に悪兵衛とバルザックに向かった指を斬り飛ばし足元で
剣を揮う。星巡の最後の映像が網膜から失われる瞬間まで桃乃介は
刀を振るい、飛び上がって斬り上げた。
体液が噴出するなか、その背後よりバルザックが飛び上がり叫ぶ。
「擂嵐」
魁音による衝撃が腹から胸元まで着弾、頭部が吹き飛ぶ。
ゆらり、と阿修羅がゆらめき、一歩下がった。
「悪兵衛」
「悪兵衛!」
二人が叫ぶと同時に、悪兵衛は屋根から飛び上がり、
阿修羅の頭部のあった<傍点>に剣を振り下ろす。
「旭光」
輝く爆壁が阿修羅の胸部を吹き飛ばしながら打上げられる。
狗族の魂の絶叫が木魂するように響く。
中空で渦のように集まる魂が消滅する光が発し、
衝撃の塊が上空まで打ち上がる途中もその死の光は
破裂し続けた。
阿修羅は家屋を破壊しながら倒れる。ぶるぶると痙攣しながら
上半身より黄色の体液を噴出している。
「勝てり。」
静かに悪兵衛は言った。




