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不知火戦奇  作者: tsuru hiroki
56/210

九


イバンは大声をあげて老人達を非難させ、逃げ遅れた者に手を貸している。

その一瞬、胴回りを冷たくぬるぬると濡れた指が掴み、空中高く

持ち上げられた。阿修羅ががくん、と顎を開く。ダリヤの悲鳴が

あがった。

上空から飛来した光点が阿修羅の上腕に突き刺さり爆発が起きる。

イバンは投げだされた。

流星のように降下する光点は阿修羅に接触すると激しく爆発する。

地面に突き刺さったそれは、槍であった。


バルザックは村中央の阿修羅をみつめ、新たな大身槍を掴んだ。

一度その重量を確認するように振ってから、気合声と共に投げ打つ。

上空まであがったそれは魁音撃特有の青白い光を放ち、放物線を描いて

爆撃する。槍自体の重量を利用する魁音撃の空爆であった。

弓程の射程は無い物の、強力な攻撃力を誇る。


「狗族」

「吶喊白兵衆参、不知火である。」

「それ以上の蹂躙は許さぬ」

悪兵衛の大音声が響き、桃が戦旗を立てる。炎の紋章が燃え上がる。

言霊により全身を逆なでされた阿修羅は激昂し、悪兵衛に掴みかかる。

その手に体当たりするように突き進んだ悪兵衛の手元から青い火花があがり

一抱えもある阿修羅の指二本を斬り飛ばした。

悪兵衛と共に飛び出した桃乃介は阿修羅の足首、腱を狙って刃を走らせる。

阿修羅の表情が苦痛に歪み、足元の桃を三本の手で掴もうと蠢かせる。

「星巡」

桃の鋭い声があがり、十五の指先を軽やかに避け、なおも阿修羅の足首を

切り付ける。


大身槍を撃ち尽くしたバルザックは坂道を駈け下り、破双で板戸を突き破って

阿修羅の元へ肉迫する。地の底から吹き上がる轟音が起きた。

眼前に迫った阿修羅の半身に、噴火するように迫撃された輝く破壊の光弾が

直撃、ゆっくり倒れるのが見える。

「旭光。」

「悪兵衛、早くも仕留めたか。」

バルザックはにやりと笑い、さらに破双で飛び出した。


岬に立つ娘の弥者の表情が恐怖に戦き、震えている。

突如現れた侍が、手塩にかけて育て誕生した阿修羅を攻撃しているのだ。

「モガミ、いかがいたした。」

崖下より現れた屈強な仮面の男が声をかけ、眼下の光景を見て絶句する。

「ワリビトではないか」

「託宣にはこんな事は現れませんでした。」

モガミと呼ばれた娘の弥者は震えながら告げる。

「落ち着くがよい。バチノナリガミはワリビトこそ好餌とする。」

「ユウギリ様が去った今、我々で対処するのだ。」

仮面の男は腕を組み、じっと阿修羅と侍達の戦いを見つめている。


倒れた巨大な影がゆっくり立ち上がるのを見上げながら

バルザックは中央の広場に到着した。背に負った大剣を引き抜く。

赤い火花があがり長大な剣をぶるんと一回しする。

小烏と呼ばれる両刃の剣で打ち刀ではなく太刀に分類され、

規格外に長大な剣であった。

刃の峰に四つの紋が描かれ、四ツ辻と呼ばれる専用の魁音刀である。

起き上がった阿修羅は呪詛の唸り声をあげながら足元の桃乃介に

掴みかかる。その腕、指、足首、そして旭光に吹き飛ばされた半身は

攻撃がなかったかのように、傷跡すら視認できない。


「どうなってる」

「治癒している」

「一旦離脱して」

三名は阿修羅より距離をとる。

「魁音撃は効く。だが破損した部位が数瞬で復活しているようだ」

「もう何度足を斬ったかわかんないよ。」

「治癒の前に殲滅する。吶喊。」

悪兵衛の声を合図に無言で三名は飛び出した。

足元の桃乃介に掴みかかり、星巡ですべて躱された阿修羅の眼前に

バルザックが立ち、士魂を凝縮させた太刀を八双に構える。

「擂嵐(らいらん)」

気合声と共に横一文字、逆一文字、左袈裟、右切り上げ、右袈裟、左切り上げを一息に振り抜く、六連斬りで発生した鋭い魁音撃が発生したその場に一瞬

停止し、すべて同時に阿修羅に殺到する。

阿修羅の右足は被弾と同時に強力な連続の斬撃に切り刻まれ、消失した。

断軌魁撃集と呼ばれる擂嵐は、バルザックのみ使役する事が出来る。

個別の攻撃力では旭光に並び、不知火最強と呼ばれていた。

右足を失った阿修羅はゆっくりと倒れ込む。

「旭光」

悪兵衛の怒号と共に、その頭部が爆壁の渦で吹き飛び消失した。

地響きを立てて阿修羅は倒れ込んだ。

悪兵衛、バルザック共に月旦抜きで刀身より溢れた士魂を抜く。

二人の剣は白煙を噴き上げる。その向こう、阿修羅は起き上がった。

頭部、右足はもとに戻っている。

「不死身か」

苦々しく悪兵衛は言った。

戦闘指示を行う役職である頭目。

悪兵衛は戦闘に参加した全ての隊士の魁音撃の残弾数を把握し、

流動する戦局の中で立ち回らねばならない。

魁音撃射出時に発言するのはその意味があった。

現在の全員の弾数を踏まえ、再度阿修羅から距離をとる。

バルザックの擂嵐は残弾二、桃乃介の星巡は五、そして旭光は一、である。

「桃、攪乱。バルザック、俺と東西に別れ、阿修羅の治癒を図る者を捜索。」

頷いた三名は離散した。


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