暮合の海
序
強い日光に塀の影が濃く落ちている。
クマゼミの騒々しい鳴声が響く。
不知火屯所、作議の間には重苦しい雰囲気が流れている。
「旗本が弥者帰りとな」
不知火隊長、伊庭辰之進が口を開いた。
作議に参加しているのは副長、織田刑部、風祭玲。
また技研の松橋中佐、御津菱の竜井研究主任である。
「中将のお耳にはいずれ入る事と思いますが。」
「事が重大故、緘口令が敷かれています。」
「何故、松橋中佐が?」
「実は、技研で開発中の新型魁音兵装に関しまして、件の旗本、
本橋一成様にご協力をいただいておりました。」
「詳しく申しますと、兵装の実施の為、選抜した兵士の身の回りの
世話をお任せしていたのです。」
竜井主任がごくり、と喉を鳴らして煎茶を飲み干し、口を開く。
「お偉方でも技研とうちに理解あるお方でして。」
幕閣のうち、武官である本閥の指揮官四名と日の本軍主将は主戦派、
それ以外の文官は和平派で日々均衡を保っている。将軍直属の旗本で
ある本橋は文官ではあったが、本閥、特に技研には協力的であった。
「その本橋が弥者に。」
「詳しくは調査中ですが。」
「弥者帰りの際、犠牲が出まして。本橋さまのご内儀、ご子息が
亡くなられました。」
沈鬱な表情の不知火首脳。
「弥者帰りをした本橋様は、お屋敷に併設された社付近で消息を
断たれたそうです。またその際、七つ星が現れた、と。」
目を閉じていた刑部が顔をあげる。
「技研の新型魁音兵装にその原因があるように思われます。」
作議の間が凍り付いたようであった。




