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不知火戦奇  作者: tsuru hiroki
39/210

五


奉納祭りを明日に控えている。悪兵衛の膝もようやく動くようになった。

旅籠の座敷で朝食をとりつつ、二人は相談をしている。

「行方不明者の近親の者と話しをしましたが」

「何の訪れも書置きもなく、祭りの前後二、三日で逐電したと。」

「それでは、つみが言っていた宮司殿への相談とは。」

「そこで、近親の者でなく、ごく近しい友人に聞きましたところ、

宮司へ相談してみるといっていた者が四名いました。その相手含め八名。」

「すべて相落ちした者か」

「はい。」

悪兵衛は漬物と葱の味噌汁、卵を飯にかけて三杯食べ

落ち着いている。

「何もいわず、宮司に会いに行った者、旅行者も含めると相当な

数になりそうだ。」

「宮司が何かを握っている。しかし、我々は不知火の内偵であって

同心ではない。これ以上踏み込んでよいものか。」

しばし二人は考え込む。

「月光が来ています。」

「隠密諜報部隊が出張っている以上、お上は弥者もしくは狗族の

関与を考えての事だと思います」

「よし、三枝つみと会い、宮司との面談を決める。」

「お主は待機せよ。」

「しかし」

「膝を治せ」

不満顔の悪兵衛を残して桔梗は発った。


*


悪兵衛は相撲を通して知り合った若者の一人の家に赴く。

その者の父は古道学を研究し、この地の歴史を編纂しているという。

若者に快く招き入れられ、父から話しを聞く事が出来た。

悪兵衛の目的は水沓奉納祭りの起り、由来等なにか有益な情報であったが

各地に残る祭りの風習とさして変わる内容ではなかった。

豊作、水害からの守り、一族の繁栄を神に感謝する祭りである。

はるけき昔、一組の男女が人身御供となり豊穣を祈った事から

参加した男女の愛情が深まるという付加がある位か。

しっかりと話を聞き、若者の家を退去した。

堀の中の鯉に餌をやる母子の姿があり、子が「相撲のあんちゃんだ」という声にも悪兵衛は気づかず、険しい表情を浮かべ歩く。


悪兵衛は直観で感じている。

行方不明になった男女は殺されている。

恐らく宮司、もしくはそれに繋がる者。

「弥者」

宮司との面談が成しえるのなら、琿青を揮わねばならない事になる。

悪兵衛の目の光が強くなり、その足取りも早くなった。


*


「明日、宮司との目通りが叶う事になった。」

「午前中、祭礼が始まった頃にお主と二人で会う手はずになっている。」

火も暮れかけた旅籠の居室で、悪兵衛と桔梗が語り合う。

「承った。玉杉殿、宮司が鍵なのであれば弥者の可能性が高いと思われます。」

悪兵衛は刀袋に入った琿青を前に置いた。

「魁音刀は置いていく。」

「なにゆえ」

「宮司が弥者の可能性はある、が。帯剣してはいかぬ。」

「私とお前は、道ならぬ恋に落ち、宮司に相談しにいくからだ。」

「は?」

桔梗の顔がやや赤らみ、生真面目な表情になっている。

「ばか、そういう体裁をとったのだ。そうでなければ深い病の宮司と

会う事、かなわぬ。」

「三枝つみの話でそれしか方法はないと思った。我らが詰問する形では

真実が掴めぬかもしれぬ。」

「はあ」

「しかし玉杉殿と道ならぬ恋とは。」

桔梗は間抜け面の悪兵衛から目をそらして、傍らの文机を引っ張り

本日の報告を書きとめる。

「我等は、結婚の認められぬ仲、という事だ。」

「はあ。」

「お前は家で預かっている武芸者、私はその家の娘、だ。」

「はあ。」

桔梗は筆をおいてため息をついた。

「よいか、お主は宮司の前でしゃべってはならぬ。口裏を合わせても

絶対にぼろがでる。」

「承った。」

(嘘偽りの無い男とは思っていたが、これほどに不器用だとは。)

桔梗はとうとう苦笑する。


「これは」

悪兵衛は部屋の隅にまとめられた鎧櫃、鉄環で補強された行李

を認めた。そばまでいき、櫃を開け、目をむいた。

「本日、早馬で届いた。随獣であったぞ。」

輜重隊が物資の補給を行うために随獣を使役する場合、

それは一刻を争う差し迫った状況という事である。

装備品を確認した悪兵衛は目録と見比べる。

その額には、じわり、と脂汗が浮かんだ。

「刑部殿、何をお考えなのか」

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