六
「二体の金属反応を感知した射手は、それが連なり、同時に撃ち抜けるまで
待っていたようです。」
陣幕内で美浪が報告をしている。
「うむ。章雪の言に相違はなさそうだな。」
伊庭の言葉を受け、十字朗が灰音にいった。
「どうする。我等も装備を解除して狗族を叩くか。」
灰音は即答を避ける。
「阿波野殿、無手で侵攻中、遭遇戦になった場合はどう見積もられていたのですか?」
「敵の武装を接収、交戦と上条中佐に伝えました。」
「では、我々もそれでいきますか。」
灰音は笑いながら言った。悪兵衛はいち早く琿青を鞘ごと抜いている。
「いや、すでに狗族、それを指揮する弥者は我等の動きを掴み撤収すると
思われます。」
「阿波野、どういう事だ。雷光がある以上、装備無しで戦闘する我らの方が
不利ではないか。」
「狗族の位置から見て射手との距離は約二里半、その間を時間差なく行動の
指示を与えているという事は、弥者と狗族に何らかの意思の疎通、もしくは
甲が乙を使役する能力があると考えられる。」
「我等の宗波のような、か。」
伊庭の問いに阿波野は頷いた。
「環太積はヰ朗歌を扱う場合、究極的には意識を同調させます。弥者に
も一部、同様の能力があるとの報告がありました。」
「では、すでに我らが雷光の構造を探り、囮を使って検証したのが弥者に
伝わっているという事ですね。」
「爬人達が東に移動しています。」
狗族を監視していた桃乃介が陣幕に入って来た。
「おお。まさに阿波野のいった通りか。」
「上条。雷光を見破った灰音中佐あっての事だ。」
阿波野が小声で上条の袖を引いて言った。
*
幡殖宿の北、外縁の街道沿いに船宿があり、その戸は破壊され周囲を濃緑の
甲と弓と太刀で武装した弥者達が取り囲む。
内部の船着に、青銅の床弩の土台が設置されている。
その上部に黄金の環輪から二本の刃が対になるように突き出した異様な武具が備えられている。
刃の先は白熱し、じりじりと音を立てながら薄い煙があがる。
周囲の光景が歪んで見える程の熱を放っている。
その傍、スメロキノミコトが佇み、白く煙る平野を見つめていた。
黄金の装飾の入った薄い甲はその若く強靭な身体を包み、全身から力が沸きあがるようないで立ちである。
「これほど早く、ミコトの御力の構造を見破るとは。」
スメロキに付き従うウツセミノヌシが呟いた。
「ヤマトビトにも知恵者がいるという事だな。」
スメロキは微笑を浮かべている。
「ミコトのスメラノホコは神にも等しい力。破る術などありません。」
ミハカノヌシが言いながら組んでいた腕を解いた。
「モガミ、ムスナリガミ達は。」
「ムス、ホウリ共に段丘の陰まで移動しています。ワリビトたちは留まっているようです。」
ミハカに答えたモガミと呼ばれた者は胴丸がまだ落ち着かない小柄な娘の弥者であった。薄暗がりの中、緑色の眼が発光している。
会話をしながらも、その顔は憑かれたような無表情で破常力を行使している
のが見て取れる。
「あれはどうしている。」
「東の海中に。」
頷いたスメロキは、黄金の環輪の中央、黒革が巻かれた柄を握り持ち上げる。
白熱していた刃は、赤化し未だ高温のままであった。
両手で持った柄を輪の中で上下に分離させると、柄内部の金の鎖が音を上げる。同時に突き出していた刃が回転して環輪内に収納された。
黄金の輪に古代の文字が並びそれぞれが明滅している。
武具を手にしたスメロキノミコトを見上げ、ミハカ、ウツセミ、モガミが
膝を着く。
「スメロキノミコト、ヤツカノツルギに畏みてもうします。」
ウツセミの言葉に、護衛の弥者達も皆、膝をつき首をさげた。
「三つメに移る。マカミノミコトと動くぞ。」
黄金の環輪を背に負うと、スメロキノミコトは高らかに言った。
*
「矢羽に金属を巻き付けて撃ち込み、スメラノホコを誘っただと?」
船上のクロマシラノカミが声を荒げた。
「何故、ミコトのカナモノを共鳴させる力がわかったのだ。」
「解らぬから確かめたのだろう。」
タケオビト達がスメロキの配下の報告について語り合う。
「ミコトの御力に恐れをなして、無い知恵を絞ったのだ。」
小柄な若者、ロシノヒコが声をあげ、皆が笑う。
「敵はビャッコだ。侮ってはならぬ。」
双角の弥者が落ち着いた声をかけ、ロシノヒコは押し黙る。
「アガキミ、スメロキノミコトが動きました。」
クロマシラの言葉にマカミは頷き、海原に視線を戻す。
仮面を稲光が白く照らし、雷鳴が轟いた。




