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不知火戦奇  作者: tsuru hiroki
171/210

三


掛井川は段丘の北で支流に別れる。その地点に潰走する狗族と

新たに上陸した者が合流し、和邇《わに》と呼ばれる大型狗族も複数出現する。

爬人によく似た亜人種だが、身長は二米から三米に達し、その強大な膂力を

生かした巨大で粗雑な造りの木槌を手にしている。

狗族はその場に集結し、本閥の侍達を伺うように威嚇と揺動を繰り返す。

「十字朗、弓手と我々が攻撃を開始する。先行して和邇を落とす。」

「承った。空爆後吶喊する。」

短い宗波のやりとりの後、十字朗は上条と目で示し合わせた。

「さすがに殴り込み部隊だな。動きが早い。」

上条の感心した態度に阿波野は少し笑った。

「一歩間違えば、お前があの白の陣羽織を着ていたものを。」

「俺は環太積が好きだ。」

侍達の頭上を、数条の光の線が流れていく。

前方煙る雨の先、巨大な人陰にそれは命中し、獣の絶叫が響いた。

同時に畦倉士道を先頭に侍達が突出した。


灰音は弓をおろし、目まぐるしく動く戦場を見つめている。

空爆により和邇が打たれ、動揺が広がる爬人の群れの中で、士道と

十字朗が刀を振っている。統制のとれた環太積機動隊が一匹の討ち漏らしも

許さぬ構えであった。

爬人は次々と掛井川から上陸し、新たな和邇も出現する。

竹槍と弓、大木槌の原始的な武具のみで固めた亜人だが、多勢である。

群れの背後に新たに出現した和邇を討つため、灰音、美浪、橘川兄弟らの

弓兵も前進する。

「膠着している? いや、留まっているのか。何故だ。」

灰音は戦場を見渡してひとりごちた。やがて、大きく目を見開き、矢を番える美浪に叫んだ。

「美浪殿、宗波を。」


上条が突き出された竹槍を素手で掴みつつ、殺到する矢を刀で払った。

前方の和邇に隠れる様にして爬人の弓兵が固まっている。にやりと笑い、

八双に剣を構え、大きく呼吸し脚を踏みしめる。

「まて、上条。魁音撃は温存しろ。」

「面倒だ。まとめて斬る。」

「そうはいっても、だ。大物が来るやもだぞ? 」

「む、そうか。」

不承不承に刀をおろした上条に阿波野は苦笑する。


「阿波野中佐、灰音です。」

「どうしました? 」

「狗族の集結している位置からみて、「雷光」射手は方位角を東偏させていると思われます。」

「何度か? 」

「……およそ八度から一六度。」

灰音の宗波を受けた阿波野の顔色が変わる。

「阿波野、今のはどういう意味だ。」

「雷光の狙撃者の位置自体、移動している可能性がある。狗族に対して切り結んでいる我々が標的だ。おそらく後方の中将までその範囲に入る。」

「撤退」

上条の裂帛の気合の声が飛ぶ。

「阿波野中佐、いまの宗波は? 」

「雷光の標的になっています。下がります。」

声をかけた十字朗はすべてを悟る。

不知火、環太積の侍達は一斉に破双で後退した。


灰音は弓を置き、自らの魁音刀に手を掛ける。

微小な振動が起きている。士魂に反応し金属音をあげているわけでは

なかった。

「なんだ? この反応は。」

異常な振動を感じた刹那、黄金色の稲光が灰音を襲った。

雷光は正確無比な射撃で、灰音の頭部を狙ったものであった。

「旭光」

悪兵衛の咆哮と共に輝く爆壁が雷光と撃突、激しい反魂の衝撃波と共に

旭光は減衰しながらも上昇、雷光は弾かれ、左上空へと軌道を変えた。

振り抜かれた琿青は白煙をあげ、断続的に金属音が鳴っている。

その夜空の色の刀身には刃こぼれ一つなかった。


「章さん無事か」

悪兵衛が叫んだ。

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