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不知火戦奇  作者: tsuru hiroki
17/210

七

村は乳白色の霧に包まれていた。薄く光る朝日がゆらめいている。

家屋からの煙が所々に上がっていた。

道標に、名主と庄屋の死体が百舌の速贄のように連なり刺さっている。

北山は恐怖におおきく目を見開いたまま腹部を貫かれ、庄屋はうつ伏せで表情は見えない。

「先を越されたか。」

「我々の事は名主から漏れたね。」

橘川兄弟は遺体を一瞥して歩を進める。

「悪兵衛、どうする?」

「敵と正対し生死を決する。望むところ。」

「村の北、社と呼ばれていた場所を目指す」

悪兵衛が決然と言い放った。


濃い霧の中、村の大通りの中央に三名の男女の影が浮かび上がった。

紺の宮服の男二人の間に紫の衣の女。すでに仮面も笠もなく、

素表を晒している。


「おぬしらが侍のようだねえ。」

女が高い声で歌うように言った。

囁き声だが脳髄に響くほどの音量の錯覚を覚える。

癖のある黒髪が背中まで伸び、青白い小顔のなかで

紅を引いた唇の端を釣り上げている。

笑顔だが罵り、蔑すむ表情であった。

「われ等を屠る為にきたのであろ?」

紺の宮服の長身の男が吐き捨てるように言う。

「八百万の力に背くワリビトが。

「われ等が滅ぼす。

同じ位の長身でがっしりとした体格のもう一人が言い放つ。

三名の言葉を悪兵衛が無表情で聞いた。

懐から布告書を取り出し宙に舞わせる。


「宣戦布告」

橘川兄弟が一歩下がり膝をついて弥者達を鋭く睨む。

一真が戦旗を掲げ、はためく白地に炎が燃え上がる。

「本土決戦軍閥師団」

「吶喊白兵集参、不知火。播磨悪兵衛少佐である。」

「同じく橘川一圓中尉。」

「橘川一真中尉。」

「我が国民の虐殺を確認した。」

「佐官判断によりこの時をもって、戦争行為を行うものとする。」

「報復する。死をもって償ってもらう。」

「あらためて告げる。いざ尋常に勝負」

「勝負」

三名の怒号が村に響き渡った。宮服の男たちは一歩さがり、

女からは笑顔が消えた。

「我が眷属にヤマトビトの血を捧げる。宣戦を受ける。」

女の声と共に男二人が叫ぶ。

「ワリビトを屠る。」

「ヤシャビトに栄を。」

「ヤシャショウライ」

弥者の叫びと共に肌蹴た身体がみるみる膨れ上がり、ごつごつとした

筋骨で覆われていく。長身の男は青みがかった肉体に、がっしりとした男は朱色に身体が染まっていく。

「ヤシャ ショウライ」

女も静かにいうと、黒髪の間から鋭く血管の走った角が現れる。

体つきは変わらず、紫色にてらてらと輝く爪が伸びる。

女は袂からこぶりな神楽鈴を取り出し、清涼な音を発した。

「マガツカミの力をシカバネを操るものを」

鈴をふりながら歌うように言葉を紡ぐ。高く低く抑揚をつけた声が響く。

破常力を警戒し、不知火の三名は身構える。

悪兵衛の腰の琿青は低い金属音を鳴らし始めた。


女の足元から紫色の影が中空に向かって伸びる。もやもやとしたそれはやがて細長い人のような形になった。が、頭部は無く、身体はつるりとした海洋哺乳類のような異様な質感である。首にあたる部分に黒々とした穴が開いている。


山中で死骸を貪り食っていた、達磨型の狗族が変形した姿だった。

女に促され、男二人が三体の狗族の穴をふさぐように、狐面をかぶせる。

金と黒の装飾のついた面の奥、青緑色の光点が光った。

面をつけた狗族はその長い四肢をゆらゆらと動かし、

舞のように動きながら女から離れた。

低い、小さな音を面から鳴らしながら舞う。

侍達に近づきながら奇妙な動作を見せる狗族。

悪兵衛が魁音刀に手をかける。

その時、霧の向こうに無数の人影が現れた。

面の狗族に誘われるように四方から人影が集まりつつある。

皆、遺骸であった。


物言わぬ死体がゆっくりと侍達に歩み寄ってくる。そのすがたは切り裂かれた胴巻姿、茶色の血痕がこびりついた長着、片腕を失くしほぼ白骨化した者もいた。

おそらく、先の戦で命を失った兵士達であろう。

背後から近づく者たちは、まだ血の色も新しい老人達の亡骸である。

黒こげになり炭化した体組織をぼろぼろまき散らしながら

歩みを止めない者もいる。

悪兵衛達を取り囲むその姿は百を数えた。

「死人を操る狗族なのか」

「死体を食って力を蓄積していたのかな」

双子は冷静に見回している。

悪兵衛は鼻を鳴らして嗤った。

「屍が侍に何するものか。蹴散らしてくれる。」

高く上げた悪兵衛の足が地面に激突、爆破音と共に屍が数体吹き飛んだ。

衝撃で四肢を失い道に転がって蠢く。強烈な四股である。

「射刃」

低く叫びつつ、琿青を引き抜く。炸薬音と共に青い火花がはじけ飛ぶ。

右に薙ぎ払った剣の五歩先まで衝撃が走り、屍四体を粉々にする。

射刃、とは射長魁刃と呼ばれる基本的な魁音撃であり、

士魂の発動を魁音刀に伝えて前方に撃ちだす。

悪兵衛のそれの威力は並みの射刃の倍はある。

魁音兵装による攻撃にはいくつかの基本の技があり、その習熟の上で本人しか使用できない強い魁音撃を編み出す。


一瞬で悪兵衛が十体以上の屍を粉砕すると同時に、背後から迫る影を一圓が片腕に装着した弩弓で射撃する。屍達の腕の関節部、腿、膝、くるぶしを狙撃し、命中した個所は爆ぜて消失した。

鉤牙とよばれる弦をかける部分が蝶番いの構造になっており、手前に引く金属製の引き手によって、高速で次弾を装填する。

歩きながら次々に一切の撃ち漏らしもなく屍の関節部を破壊する一圓。

一真は矢筒から美しい白の矢羽の矢を取り出し、ゆっくり厭月につがえる。

二度瞬きする間に蘇った屍が半数近く破壊された。

女の顔は驚愕と憎しみに眉を寄せ、開いた口の端に犬歯が見えている。

「何だ奴は。人か?」

男の弥者二人も恐怖の色を隠せない。

「ワリビトにしてビャッコの侍と思われます。」

「白い焔の連中か。小癪な。」

「ユウギリノヌシ、危険です。お下がりください。」

光の線が走り、死人使いの狗族が吹き飛び、廃屋に打ち付けられた。身体の中心には煙を上げる矢羽が刺さっている。人の二倍はある大きさの個体を矢の射撃のみで磔にする、一真の強力な射撃であった。

死人使いは甲高い悲鳴を発しながら矢の中心から溶け落ちるように崩壊していく。魁音撃による身体の消失である。

屠られた狗族を察知し、他の死人使いが一真に殺到する。明らかな殺意が吹き上がる。一真は次弾をつがえ、ゆっくり標的を見つめている。

「旭光」

悪兵衛が吠えた。破双で一瞬に間をつめ、一真の眼前で旭光を発動させる。

振り抜いた琿青の青い軌跡の先、地面に衝撃が炸裂し、

死の爆壁が打ち上げられた。

死人使いは旭光の直撃を受け、粉々の粒子になり溶けた。

霧を突き破り上空まで旭光の軌道上に穴をうがち、青空が見えている。

「鎌偉太刀」

一圓が短く叫び、腰の鎌を抜きながら最後の死人使いにとびかかる。

全身をねじり、鋭く回転させながら左右の鎌で切り付け、

左足の後ろ回し蹴り、右足の打ち下ろし蹴りを一呼吸で二度行った。

その間、すべて空中である。

高速で回転する独楽のような攻撃は鎌偉太刀(かまいたち)と呼ばれる

戦技であり、弓兵でありながら強烈な身体能力で近接攻撃もこなす

一圓が得意とする。

死人使いは一瞬で切り裂かれた布のようになりその場に崩れた。

斬撃と打撃の連続攻撃ですでに人型をしていない。煙を上げて黒い血だまりが広がる。


「もはや人の力ではない」

旭光を目の当たりにして、ユウギリノヌシと呼ばれた女が呻いた。

「死神です。」

「命に代えてもここで倒しまする」

弥者の男二人の目に覚悟の光が宿っている。

「ゆけ。奴らの光を奪う」

ユウギリノヌシは背後から肩掛けのこぶりな筝を取り出す。

赤い漆の上に金の文様と散る花が描かれている

「ノ ロ ヒ フ タ」

ユウギリノヌシの呪詛と共に、戦場に似つかわしくない雅な弦の音が

流れた。

次いで、高い声が響く。唄、であった。その意味は聞き取れない。

異様な出来事に侍達の行動が一瞬止まった。戦闘に躊躇してしまった。

がくり、と悪兵衛が膝を着く。猛烈な倦怠感と頭痛、呼吸の苦しさが襲う。

同じく一圓と一真も苦悶の表情をうかべ、廃屋にもたれる。

「これは……破常力か。」

「視界が……」

視界がぼやけ焦点が合わない。うっすらと男の弥者が歩み寄るのが見える。


「南無八幡!」

悪兵衛が叫んで立ちあがった。全身震えながら大きく両手を開く。

おおきな破裂音とともに手を合わせた。瞬間、鋭い圧が吹き出し、

一圓、一真の視界が晴れた。

悪兵衛は鼻腔と耳穴から鮮血を吹き出している。

悪兵衛の様子に気づいた一圓は冷や汗を流す。

「無茶な……破常力を「柏手」で破るとは。」

「やめろ、悪兵衛!反魂がくるぞ」

一真も必死にさけんだ。

悪兵衛は無表情にまた手を開き、おおきく打ち付けた。


本閥戦技、柏手《かしわで》。武神の門を叩く契約の技と記される。

本来士魂を滾らせ、戦意の向上を高める用途で使用される。

が、異変をきたした士魂の状態で使用した場合、

その威力が術者自身の心身を蝕む。

悪兵衛は柏手二閃で橘川兄弟の不調を解いた。

目の焦点を失くし、血を吹きながら悪兵衛は両膝をつく。

間髪いれず跳ね起きた一圓が弩弓をユウギリノヌシに向かって

連続で射撃する。

六本の矢は、女の手前で重量をなくしたように回転し、

やがて地面に落ちた。

装填をおえた一圓の次弾も同じように手前で矢が徐々に速度を落とし、

同様に落下する。

「何だ?風か?」

地面から湧き上がるように旋風の土煙が舞い、

ユウギリノヌシを守っている。

青い肌の弥者が大きく手を振り、その旋風を制御していた。

「ツ ム ジ」

大きく腕を振り、新たな旋風を一圓、一真に向かって放出する。

破双で兄弟が左右に飛びすさる。二人のいた空間の廃屋は旋風に切り裂かれた。鋭い刃物を何本も擦過させたような跡が残る。

新たな旋風を矢継ぎ早に撃ちだす。

「コ ゲ ル キ」

赤い肌の弥者が両手を突き出すと、撃ちだされた旋風が燃え上がり、

炎の渦となって一真に迫る。

「旭光」

飛び込んだ悪兵衛が二度目の旭光を炸裂させる。

回転しながら打ち上がる衝撃の塊が炎の渦を一瞬で霧散させた。

「我らがツムジを一撃にて霞とするとは」

「恐ろしきワリビトの力」

絶対の攻撃能力を誇る二人の弥者も舌を巻いた。

大きく息をつきながら立ち上がる悪兵衛。腕が痙攣するように震え、

琿青が異様な低音を発している。ぐい、と唇まで垂れた鼻血を袖でぬぐい、

腰の束帯から小指程の筒を取り出した。筒の封を咥えてはずし、逆手にもった琿青の目釘に打ち込む。刃先から白煙が上がり、低い金属音が消えた。

魁音刀は膨大な士魂の流入が続くと、内部構造がその力に耐えきれず損壊してしまう。

旭光を発現させる為の悪兵衛の士魂に、琿青が悲鳴を上げたのだった。

「月旦抜き」と呼ばれる士魂放出材を目釘に打ち込むことによって一部、

刃の耐久度が戻る。


「殺傷力を持った旋風に着火する能力、これで村を一瞬で焼き払ったのか」

態勢を整え、矢をつがえた一真がいった。

一圓は束帯を外し、弩弓を道端に落とした。両手の鎌を構え直す。

「悪兵衛は二発撃った。俺がやる」

一圓の動きを見極め、旋風の弥者がユウギリノヌシの前に立ち、防御の風を張る。一真はそれより早く射撃した。

「凍呀」

湧き上がる空気の防御壁に一真の矢の軌道がはずされる。

が、横をすり抜けた矢の圧に旋風の弥者の左腕はしびれ、力が抜けて垂れ下がる。直撃を避けても相手の運動能力を吸い取り、一時的に動作不能においやる魁音撃である。

「鵜眼鷹眼」

一圓が叫び、全身を回転させながら鎌を投擲した。薄く光を発しながら回転する鎌は左右の上空に消えた。腕に負傷を追った旋風の弥者の身を案じ、炎の弥者がその身体を抱える。その時、投げ上げられた鎌が自らの意思でもあるかのようにユウギリノヌシに襲いかかった。

人では無い異常な機敏さで一本目を仰け反ってかわし、二本目をかがんでかわす。

全身の高速運動に髪と着物の袖がおくれて揺れる。

外れた鎌は地面に突き刺さらず、回転しながら左右に消え、一瞬のちにまたユウギリノヌシに迫った。

「これは」

「ハナニチョウか!?」

驚愕する弥者二人、飛来する白の握りの鎌をユウギリノヌシは箏爪で掠るように撃ち、軌道を変えた鎌は樹木に突き刺さる。が、避けきれなかった朱の二本目が筝の弦を二本斬り飛ばした。ユウギリノヌシは歪んだ表情で舌打ちをする。

鵜眼鷹眼(うのめたかのめ)は一圓のみが使用する投擲技で、追尾誘導魁音斬と

記されている。目標を斬撃するまでその回転は止まらない。

網打ちで鎌を手元に引き寄せる一圓。怒りに眉は吊りあがっているが、不敵な笑みを浮かべている。


余りにも強力な侍の戦闘力にユウギリノヌシは瞠目していた。

(キリヒト様の言われたとおり……)

(ビャッコの侍には一対一では勝負にならぬ)

「シラハ、アイワラ。」

ユウギリノヌシは部下に声をかけ、一歩引く。残った弦を弾きながら、低く唄う。単純だが力強い旋律を連続で奏で、歌声で弦の音を補佐する。

侍三人は身体の不調を誘発する破常力に備えた。

弥者三名の足元から紫の炎が吹き上がる。下半身が燃え上がったように

炎の中で揺らめいている。悪兵衛が声を上げた。

「まずい、破常力で逃走する!一圓!一真!」

言葉が終わる前に三名の姿が消える。瞬きの間に大通りの向こうに

駈ける弥者を認めた。悪兵衛の呼びかけに無言で一圓と一真は

破双で答える。

土煙をあげ、士魂が体内で炸裂する独特な音をその場に残しながら

飛ぶように双子は疾走する。

飽和破常力によって、恒常的に高速で駈け続ける弥者達と、

破双の爆発力で断続的に跳躍する双子の距離は徐々に離れる。

このままでは追いつけないと二人は同時に判断した。

地を削るように足を突っ張り、急停止する一真。右足首に装着した握り手の引き金を引く。乾いた破裂音が鳴り、火薬によって鉄製の杭が踵より撃ち出された。地に深々と刺さったそれは、一真の足元を強力に固定している。左脚も杭で打ち付け、厭月をゆっくりと構えた。

弓構えから打ち起こしの動作に入る。

一真の動作を見た一圓は、片膝をつき額に指を当て「真言」を唱えた。

阿環 址間 

刃羅 別那

低く早口で唱え、体内に士魂が充溢していくのを感じる。

釈教の発祥の国、婆羅真名国(ばらまな)の古語を元にした念語だが、士魂を用いる侍達は必ずその言葉で自らを高める。

「月追」

一真の言葉と共に大量の士魂の燃焼による圧が吹き出し、一真を中心にして一瞬の真空状態を生み出した。次いで矢の射撃による反動の衝撃が辺りを揺らす。

発射された矢は音を超える速度で山中を走る、木々を避け、地面すれすれを、上空を、光の軌道を残して飛翔する。

道を外れ沢までたどり着いた弥者達は、侍から遠く離れつつ

未だ疾走している。

飛来した一本の矢が、旋風の弥者の頭部を樹木に打ち付けた。

頭部からは煙があがり体組織が一瞬で崩壊し、頭部を失くした弥者が地面にずり落ちる。崩壊は首まで進み、絶命してもなお蝕み続けた。

「シラハ」

ユウギリノヌシの悲痛な声が緑の中で響く。すでに上半身を失くした同胞の元に炎の弥者が座り込んだ。


膝をつき、荒い息をつく一真。月追の一射で精魂尽き果てたが、厭月を一圓に差し出す。

「一圓」

「おう!」

一圓は膝をついて大弓を横構えで矢をつがえる。身体の中心から熱く燃え上がる士魂が両腕、両足に浸透し、厭月が答えるように唸り始めた。

元締めの老爺、優しい老婆、しの、こたろうの顔が浮かび、歯を食いしばる。全身が力の漲りの塊となり、一圓は叫んだ。

「月追」


月追(つくおい)とは、射撃において最強の誘導能力を持つ魁音撃である。

本閥全軍を通して使役できる侍は十名に満たない。

不知火隊内においても、橘川兄弟のみ使用が可能であった。

追尾誘導魁撃集弾と記されるそれは、目標の距離に関係なく集弾し、貫く。

だが強力故に術者には大量の士魂の消費を強い、

深刻な損傷を招く場合もあった。

ユウギリノヌシを庇った炎の弥者の背に矢が突き刺さり、胸部が爆発して

血潮と折れた胸骨が飛び出した。矢を中心に崩壊が始まる。

「ユウギリ ノ ……」

伸ばした手を取ろうとする、が力なく腕は落ち、弥者は絶命した。

白の矢羽には揺れる炎の紋章が記されており、ユウギリノヌシはそれを

握りしめ、折った。

「この報い、必ず受けてもらう」

全身が紫の炎で包まれ、ユウギリノヌシは呪詛を残して消えた。


*


両足を固定したまま一真が手をついて荒い息をし続けている。

その後方に月追の射撃による衝撃で吹き飛ばされた一圓が転がっていた。

琿青を鞘に納め、悪兵衛がよろよろと歩き、二人を認める。

「仕留めたか。」

一圓は目を見開いて口を動かすがあまりの疲労と消耗に声が出ない。

「女 逃がし た」

必死に一言呟くと、一真は倒れ込んだ。

足元の杭が地面を掻き出して露出している。

遠く、かすかに太鼓の音が聞こえる。玄真の報告と、一真の知らせを受けた本隊が近づきつつあった。

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