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不知火戦奇  作者: tsuru hiroki
167/210

十三


「バルザックに聞いたのだが、似鳥は朧丸の武術の師匠なのか。」

漁師小屋を引き払い、旅の武芸者姿の悪兵衛が傍らの霧丸に問う。

霧丸も菅傘に陣羽織の姿になっている。

「そうだ。」

「では、俺も武術の手ほどきが受けられるか。やられたのが口惜しい。」

霧丸は弟と同年の侍の横顔をすこし眺めた。

「頼めば、可能であろう。」

「そうか。やはり女性だけの丹組といえど、隠密の武術が。」

拳を握り、朧丸の動きを反芻しているらしい悪兵衛の顔を、霧丸はもう一度見た。

「少佐は思い違いをしているようだ。」

「丹組は、男女混成の部隊である。」

「此度の任務も、だ。」

悪兵衛は霧丸の言葉を訝しむ。

「紗世は男性だ。気付かれなかったようだが。」

悪兵衛は霧丸の言葉に呆然とし、立ち止まってしまう。

「あたし知ってた。一緒にお風呂入ったもん。」

「ま、どっちでも構わないさあ。」

バルザックと桃乃介の気楽な言葉も、悪兵衛の耳に入らない。

霧丸が初めて、笑顔を見せた。


*


「悪兵衛、聞こえるか。」

街道筋を北上する悪兵衛の脳内に、途切れ途切れの宗波が伝わった。

「美浪か。聞こえるぞ。」

「須鶯宿での任務は。」

「完了した。仁悟朗が負傷、現在三名で幡殖宿に向かっている。」

「承った。俺は宗波の届く限界の距離まで南下してきている。そちらからの距離は約四里だ。」

「幡殖はどうなっている。」

「合流し、詳しく話す。」

「大規模な戦闘が起こったのではと陰足に聞いたぞ。」

バルザックが問い返す。

「そうだ。玄嶽、環太積ともに多数の被害が出た。」

「不知火は。」

「潰走している。故に直接宿場町ではなく、途中地点で合流を目指している。

おれは急ぎ宗波を送る為に単独で迎えにきた。」

悪兵衛達は美浪の報告に愕然としている。

「美浪、不知火の死傷者は。」

「玄真殿が……さらに……」

山間に入ったせいなのか、宗波が途切れ言葉が伝わらない。やがて完全に沈黙した。

三名は立ち止まり、顔を見合わせた。

「潰走だと? 」

「不知火が負けたの? 」

両名が不安に耐えられず言葉を発した。


悪兵衛は強く噛みしめ、拳を握る。

雪の残る木立の先、白い息の先に街道が続く。

戦場が待っている。





奔流  了

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