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不知火戦奇  作者: tsuru hiroki
154/210

奔流

序



厚く暗い雲の下、雪が雨に変わり、静かに降り続いている。

不知火隊長、伊庭辰之進は自室にて書簡に目を通し、それをまた

封に入れ直した。庭に面した障子をあけると、雨音が一際大きくなる。


「織田、参りました。」

織田刑部は入室し、伊庭に深く頭を下げる。

「玲《あきら》は、出たのか。」

「は。今朝出立し現在半ば程かと。」

いま一人の不知火副長、風祭玲は伊庭の命を受け単身で首府、東京へ

向かっている。

「先程、届いた物だ。」

伊庭は分厚い冊子を文机に放り出した。

本土決戦軍閥師団、統合観閲式実施要項とつづられている。

「拝見いたします。」

「いや、後でよい。持ち帰り頭に叩き込んでくれ。俺には到底入らん。」

伊庭の軽口に刑部は微笑んだ。

統合観閲式とは、幕僚首脳と将軍に対し、本閥全軍が揃い拝謁する式典であ

る。大掛かりな作戦や創隊記念に執り行われる物であるが、それが四十日後に控えていた。副長、風祭は高官達の警護計画を立てるため、伊庭の代理と

して中央に赴いている。

「午後には俺も発つ。しかしここまで屯所が空になった事はねえな。」

「御意。幕僚向けには何と?」

「先行して安全な行程を調査、とかなんとかな。」

「玲と立場が逆では。」

「上からも同じことを言われたわ。」

伊庭は朗らかに笑いながら、花びらにあたり散る雨のしずくを眺めている。

「いま、月皓の報告を見ていた。やはり待ち伏せはある。が、その全容は

掴めていない。」

「では、不知火二分隊と月光が戦力という事に。」

「いや、玄嶽と共に内密に誓野に応援を要請した。輸送隊に戦闘部隊を差し込ませ、待機させる。」

「左様ですか。」

「不服そうだな、刑部。」

「いえ、環太積の協力を仰ぐのはしごく真っ当な作戦と思われます。が、

御頭には危機にあっていただかねば。」

「そいつは手厳しいな。」

「章雪の策故、拙者も驚きましたが……。」

「虚実どちらも用意済みなら、環太積以上の大船ってえ事よ。」

煙る雨を見つめる伊庭の背中に、刑部は頷いた。


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