↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不知火戦奇  作者: tsuru hiroki
151/210

六


青い炎の蝋燭が並ぶ一室。照らされた金の壁には古の神々が描かれている。

それらは大きな円の中に順列を持って並び、雲上より下界を見下ろす。

部屋には黒衣に身を包んだキリヒトノミコトと、その正面に紫の袿姿の者が

首を下げ、控えている。静かにその細面をあげたのはユウギリノヌシであった。衣服の袖の中に腕はなく、裾を組紐でまとめている。


「どうだ、アサツキでの生活は。」

「ミコトの思し召しにより滞りなく。」

ユウギリの声は掠れ、時々空気が漏れる。対不知火戦での影響は重く、以前の高く美しい声は失われていた。

「義手を願ったそうだな。」

キリヒトの静かな問いにユウギリは答えず、俯いている。

「お前は幼少の頃より私の下でよく動いてくれた。もう、良い。」

ぴくり、とユウギリの眉が動く。

「この後、若き者を育て、楽曲に勤しむがよい。」

キリヒトの言にユウギリは顔を上げた。

「ヤツヒロノイクサガミが降りたち、二年。」

「我等の力は日々増し、ミコトの中にマホロバへの道が出来ていると感じています。戦が、始まります。」

「ここで、命をかけねば。父祖に顔向けできませぬ。」

一息に言葉を発した。キリヒトは目を閉じている。

「貴方様は、この戦で自らと共に世界とヤマトビトを亡ぼす御積もりです」

「その礎となるのは、タマミズ率いるこのわたくし以外おりませぬ。」


キリヒトは立ち上がり、明かり障子を開けた。

暗い山道に点々と星のような松明が続き、その頂点のタカマノミヤを照らしている。

「滅びと共にヤマトビトを根絶やしにする道筋は探してはならぬ。」

「また、それが起きたとしてもヤシャビトの世界は続いていく。人々を戦に導き、戦で命《めい》終えるのは我々だけで充分なのだ。」

ユウギリノヌシは震えながら俯いた。キリヒトがその横に寄添う。

「お前はもう、自らの涙を拭う事も出来ぬ。」

絹の手布でその頬を押さえてやり、いい聞かせる。

「戦の場にて徒《いたずら》に命を散らしてはならぬ。ヤシャは宝なのだ。」

「タマミズを抜けよ。我の最後の命である。」

キリヒトの静かな一言は、雷のようにユウギリを撃った。

障子の外に光が差した。


漆黒の山影の頂上、紫と白の焔の柱が立ち上っている。

その先は雲を突き抜け夜空へと延びる。


山頂の光を認めた若者が、ムツノナタに報告した。

賑やかな宴の間、弥者達は言葉を潜めて山頂の光に首を垂れる。

ムツノナタは杯を持ったまま、その焔を見つめる。


母屋に続く小振りな橋の途中、欄干に手をついてスバルは見上げた。

黒影の山頂から白い焔が立ち上る。見つめながら表情を引き締めた。

その背後には羽衣と桂《うちぎ》姿の儚げな女が寄添っている。


「託宣のお光だ。」

アカネが障子を開け放ち、見つめた。オフネと共に膝を着き、頭を下げる。

スメロキは箸を置き、その紫の焔を見上げる。雲を分け、燃え上がるように、

突き刺すように伸びる光り。畏怖の表情が浮かんだ。


マカミの灰色の瞳が、仮面の奥より打ち粉を振った刀身を見つめている。

白く煙るような粉のついた刃は、闇のような黒色で波間の紋様の刃文も黒い。

クロマシラが手布を渡す。ゆっくりと刀身を拭った先、山上から光が立ち上るのが見えた。

「おお、託宣の」

マカミはクロマシラの言葉に一目見上げ、また丁寧に刀身を拭っていく。

星一つない夜空のような打ち刀であった。


黄金の装飾が篝火で輝く、豪壮な姿の山門の中央。オオジシが振り向いて

山頂を見上げた。

紫と白の焔が雲をわけて天に向かう。前後の弥者達が畏怖の声をあげた。

屹立する焔は天の先に消え、分けられた雲間から星々が見える。

「アシタノトラ。」

我知らず、弟の名が口に出た。


アサツキの宮を退去したキリヒトは石畳を歩みつつ見上げる。

街の灯に山腹まで照らされたタカマガハラの頂上、

白く輝き、屹立していた焔の柱がやや弱まり、紫の煙のように棚引き、

やがて消失した。

「乾坤《けんこん》穿つは、あの火か。ヤシャか。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。