五
松の大木が並ぶ石畳の道を、黄金の直垂姿のスメロキが静かに歩む。
その背後にはイハノビトの若者たちが付き従い、沿道に道を避けた弥者達が
首を垂れている。
山門の向こうには緑の隧道のような道が続き、石階段が昇っているのが見える。スメロキはそこで立ち止まり、配下を見渡した。
「ミコト、また御独りで?」
槿花色の長髪を複雑に編んだウツセミが問う。スメロキは頷いた。
「ここから、上がっていく途中の景色が好きなのだ。途中の人々も護って
くれている。」
「他のミコト達は皆配下を引き連れています。私もいきたい。」
不満顔のミョウケンが声をあげた。
「側にいずとも、皆我の周りに在る。お前達も、死んだ者も。」
若者たちはスメロキの言葉に膝を着き、頭を垂れた。
イハノビトの熱く信頼に溢れた視線を背に受けながら、スメロキノミコトは
タカマノミヤへの石階段を昇っていく。
*
ホオマノヒが燃え上がる間、スメロキは末席についた。
将軍であり、王でもあるミコト達は入室し、木札に祷りを捧げて火にくべる。
黒衣に金の細かな刺繍の見事な衣に身を包んだキリヒトが、最後に席につく。
オオジシの言葉と共に会議が始まった。
「ワリビトの戦士が同日に一同に会する? 」
ベヘンノミコトによりもたらされた情報にミコト達は騒めいた。
「何を持ってそのような。」
「ヤマトビトの王の力の誇示が目的のようです。」
「愚かな事を。」
キリヒトが薄ら笑いを浮かべて唾棄の言葉を発した。
「アボウタノカミは何と?」
アシタが冷静に問う。
「父はヤマトビトの最高会議でこの議題を論じたそうです。無論、推進の立場をとっています。」
「導火線は用意している。火をつければヤマトビトは互いに争い、功を求めて狂いだす。またそこに金に目がくらみ、入り込もうとする者が現れる。事が大きければ歪みもまた。」
キリヒトが身を乗り出して将軍達に言った。
「攻撃の謀を立て、託宣を受ける。ベヘンとアシタは共にイワトへ参れ。」
オオジシの言葉に一旦話は収束した。
「我が配下のイハノビトは幼く、気位が高く、タケオビトといつも力を比べて誇示してしまい、衝突を繰り返しています。合同の編成に問題を持ったままでは。」
スメロキの率直な申告に静かな笑いが起きる。
「マカミは何を想う。」
「戦士かくあるべし。」
オオジシの問いに対するマカミの一言に、また穏やかな笑いが生まれた。
「編成の際、我が率いる者は両陣から抜く。力の配合と役割を与える。スメロキ、マカミ両ミコトが指示する場合、そのまま配下を使えば良かろう。」
スバルが断じた。皆頷いている。
「スメロキ、マカミ、異論はないか。」
オオジシの確認にマカミは黙して頷き、スメロキは笑顔を見せた。
午後の遅い時間までタカマノミヤでの話合が行われ、解散となった。
門に向かうスメロキにアシタノトラが声を掛ける。
「スメロキ、マカミが大きな鯛を持って来たのだ。今夜、アカネとオフネと
屋敷に来なさい。」
「はい、御師さま。……いえ、ミコト。」
笑顔で頷く師をスメロキは見つめる。
「この後に、アメノイワトへ? 」
「うむ。今ベヘンが身を清め、支度をしている。」
「私はあの地が、貴 《とうと》く、恐ろしく感じます。」
「それは私も同じだ。人が神に対する時の正しい姿であろう。」
「アメノイワトは私達を導くと同時に、滅ぼす力を持つというのは本当でしょうか。」
「恐らくだが、真実だ。」
スメロキはタカマノミヤのその先、霞がかった山頂を見上げた。
紫雲が棚引き、全容を見る事はできない。
雲間から黄金色の粒子のような陽が差し、山肌を照らしている。




