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不知火戦奇  作者: tsuru hiroki
150/210

五


松の大木が並ぶ石畳の道を、黄金の直垂姿のスメロキが静かに歩む。

その背後にはイハノビトの若者たちが付き従い、沿道に道を避けた弥者達が

首を垂れている。

山門の向こうには緑の隧道のような道が続き、石階段が昇っているのが見える。スメロキはそこで立ち止まり、配下を見渡した。

「ミコト、また御独りで?」

槿花《むくげ》色の長髪を複雑に編んだウツセミが問う。スメロキは頷いた。

「ここから、上がっていく途中の景色が好きなのだ。途中の人々も護って

くれている。」

「他のミコト達は皆配下を引き連れています。私もいきたい。」

不満顔のミョウケンが声をあげた。

「側にいずとも、皆我の周りに在る。お前達も、死んだ者も。」

若者たちはスメロキの言葉に膝を着き、頭を垂れた。

イハノビトの熱く信頼に溢れた視線を背に受けながら、スメロキノミコトは

タカマノミヤへの石階段を昇っていく。


*


ホオマノヒが燃え上がる間、スメロキは末席についた。

将軍であり、王でもあるミコト達は入室し、木札に祷りを捧げて火にくべる。

黒衣に金の細かな刺繍の見事な衣に身を包んだキリヒトが、最後に席につく。

オオジシの言葉と共に会議が始まった。


「ワリビトの戦士が同日に一同に会する? 」

ベヘンノミコトによりもたらされた情報にミコト達は騒めいた。

「何を持ってそのような。」

「ヤマトビトの王の力の誇示が目的のようです。」

「愚かな事を。」

キリヒトが薄ら笑いを浮かべて唾棄の言葉を発した。

「アボウタノカミは何と?」

アシタが冷静に問う。

「父はヤマトビトの最高会議でこの議題を論じたそうです。無論、推進の立場をとっています。」

「導火線は用意している。火をつければヤマトビトは互いに争い、功を求めて狂いだす。またそこに金に目がくらみ、入り込もうとする者が現れる。事が大きければ歪みもまた。」

キリヒトが身を乗り出して将軍達に言った。

「攻撃の謀《はかりごと》を立て、託宣を受ける。ベヘンとアシタは共にイワトへ参れ。」

オオジシの言葉に一旦話は収束した。


「我が配下のイハノビトは幼く、気位が高く、タケオビトといつも力を比べて誇示してしまい、衝突を繰り返しています。合同の編成に問題を持ったままでは。」

スメロキの率直な申告に静かな笑いが起きる。

「マカミは何を想う。」

「戦士かくあるべし。」

オオジシの問いに対するマカミの一言に、また穏やかな笑いが生まれた。

「編成の際、我が率いる者は両陣から抜く。力の配合と役割を与える。スメロキ、マカミ両ミコトが指示する場合、そのまま配下を使えば良かろう。」

スバルが断じた。皆頷いている。

「スメロキ、マカミ、異論はないか。」

オオジシの確認にマカミは黙して頷き、スメロキは笑顔を見せた。


午後の遅い時間までタカマノミヤでの話合が行われ、解散となった。

門に向かうスメロキにアシタノトラが声を掛ける。

「スメロキ、マカミが大きな鯛を持って来たのだ。今夜、アカネとオフネと

屋敷に来なさい。」

「はい、御師さま。……いえ、ミコト。」

笑顔で頷く師をスメロキは見つめる。

「この後に、アメノイワトへ? 」

「うむ。今ベヘンが身を清め、支度をしている。」

「私はあの地が、貴 《とうと》く、恐ろしく感じます。」

「それは私も同じだ。人が神に対する時の正しい姿であろう。」

「アメノイワトは私達を導くと同時に、滅ぼす力を持つというのは本当でしょうか。」

「恐らくだが、真実だ。」

スメロキはタカマノミヤのその先、霞がかった山頂を見上げた。

紫雲が棚引き、全容を見る事はできない。

雲間から黄金色の粒子のような陽が差し、山肌を照らしている。


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