諸王
一
薄紫の空から優しく温かい雨が降る。
青く高い山々の肌にぽつりぽつりと黄金の陽が差している。
朱の屋根瓦の家並み。それを見下ろす石階段が紫雨に煙る中、幾人もの人影が立ち並ぶ。
階段を繋ぐ平坦な道には飛び石が敷かれ、美しい苔が生えている、それをさけるような足取りでスメロキノミコトが歩む。
複雑な文字の描かれた仮面、黄金色に黒の唐草の見事な直垂姿で、石畳の両脇には濃緑の狩衣姿の弥者が並び、皆、首を下げている。
豪奢な金の飾りの山門が開くと、中央の参道の脇に無数の傘姿の弥者達が膝を着いている。その奥、やや小ぶりな堂が見える。
タカマノミヤと呼ばれる第一等の合議場であった。
堂に入ると中央には火が焚かれ、囲むように車座に座る者達がいる。
スメロキノミコトを含め八名。弥者の将軍達であった。
最後の座に座り、懐より木札を出した。首を垂れて祷りの言を発し火にくべる。ぱっと燃え上がった炎はまもなく小さくなった。
「ヤオヨロズとゴギョウを畏みてホオマノヒの元、我らミコト合わせ。」
スメロキノミコトより焔を挟んだ正面、巨大な弥者が厳かに言った。
すべての者が首を垂れ、低く言葉を発する。
中心の男は、美しく簡素な装飾の朱の仮面に、朱の直垂、見事な角に、黄金の総髪を垂らしている。
ただ、そこに在るだけで他の者を照らす太陽のような力を放つ。
弥者の頂点の者、オオジシノミコトであった。
「では、マツリドコロ。ベヘンノミコト。」
オオジシの左隣、同じ意匠で水色と銀の荘厳な直垂姿の弥者が口を開いた。
黒髪に簡素な仮面、扇子を手にしている。
その男に名指しにされた者はオオジシの右隣、細身の美しい緑の童直衣姿で
一見して女性にも見える。
が、その声は瑞々しい少年の物であった。
「マツリドコロ、細々とした事は夫々に送った通り。詳しくご照覧ください。
今期のミタマの恵みのご報告です。」
農作物と海産物、及びその加工品の収支を淡々と話す少年。将軍たちは皆、無言で聞き入る。所々、注釈をいれながら理路整然と輸出入までの報告を終えた。
「続き、イクサゴト。」
「お待ち下さい。アシタノトラノミコト。その前にお話したい事が。」
銀の弥者の言葉をさえぎって、ベヘンノミコトと呼ばれた少年が声をあげる。
アシタノトラノミコトが頷いたの見、ベヘンは仮面の紐尾を解いて傍らに置いた。
白に近い卯の花色の総髪、白面に深い紫の瞳、美しい少年であった。
「ムツノナタ様。」
「う、なんだ。」
一際大きな影のムツノナタノミコトがぎくりとした声をあげる。橙の美しい
狩衣姿に、革製の装飾がちりばめられている。
「ご配下の教練の際の宴事。これが毎回二日、三日と続いております。」
「うむ。」
「褒美をあたえ、兵を慰める事、これは結構ですが清らを尽きすぎです。」
贅沢を厳しく戒められ、ムツノナタは肩を落とす。
「また、スバル様。」
「なにか。」
「廃棄される武装、おためしで斬られた家畜の量が多く、訓練による兵の
疲弊の苦情が来ております。」
「死の思いを持たば身に付きはすまい。」
「それをなんとかして頂きたい。ヤシャビトはみな、宝です。」
ぴしゃりと言い放ったベヘンにスバルは無言になる。
「ひと月置きに互いの兵を交換し鍛えるがよい。またその時だけ宴を許す。
ベヘンノミコト、どうか。」
「オオキミの仰せのままに。」
オオジシの言葉に、ベヘン、スバル、ムツノナタは深く首をさげた。
「イクサゴト、キリヒトノミコト。」
「ヤマトの国、和賀藩に構築していましたヤシャの学び舎を侍が嗅ぎつけ、
管理諸共崩壊いたしました。」
「突入してきたビャッコの者はスメロキノミコトに食い止められ、幸いな事に
ヤシャビトの被害はありませぬ。すべてミコトの働きによるもの。」
「城に火を放たれ、逃走を許しただけです。」
「烈火の侍であったのだろう? 無事で何よりである。」
ムツノナタの言葉に弥者達は皆、頷いた。
「当初の目的は半ば達成したといってもよいでしょう。二の矢、三の矢の
ご説明は具体的な企みを立てた上で改めてお話します。」
「また、今後のイクサゴトの予定を、先ほどのオオジシノミコトのお言葉により組み替えます。この後、先にアシタ様に書面でお送りいたします。」
「わかった。日取りを見てまたキリヒトと話す。改めて各々方に伝えよう。」
キリヒトノミコトが明快に今後の侵攻を語り、夫々の疑問に答える。皆の納
得の上、アシタノトラノミコトが注釈をいれ、粛々と話は進んでいった。




