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不知火戦奇  作者: tsuru hiroki
13/210

三

狗族の手がかりと思われる光源の出現地に急ぐ。

漆黒の山道をひた走る三人。

やがて道が途切れ、前方、左方は断崖、右手は谷の地形に突き当たる。

「一圓。」

悪兵衛がいうと一圓は来た道を引き返し、鉤縄を用意して脚を踏みしめる。

谷に向かって走りはじめ、気合声と共に足元で強烈な擦過音を発生させた。

目で追えない程の加速で一圓の姿が消えたかに見えたが、

本人は中空に飛び上がり、すでに谷の中程まで到達している。

そこで一圓はもう一度、「空中で」足元を炸裂させた。

もう一度加速し飛び上がった一圓は谷を渡り切り、鉤縄を固定する。


「破双」であった。一真が逆側の縄を樹木に結び付け、悪兵衛に渡す。

本人は踵を返し、距離をとってから破双で谷を飛び越える。

戦闘中に破双を使用する悪兵衛ではあったが、

橘川兄弟のような距離と速度を稼ぐことはできない。

双子には弓兵として一日の長のある戦技であった。


一真が眼下でうごく小さな光源を発見した。

悪兵衛は遠眼鏡で確認する。青緑に輝くいくつかの光源が蠢きながら、

一方向を目指し移動している。やがてその先、村の方向より松明の明かりが近づくのが見えた。

三人は物言わず山肌をくだり、松明に近づく。

いつのまにか光源は消えている。

松明を掲げる人物をかろうじて確認できる程まで接近する。

猟師の元締めに紹介された庄屋だった。

背が海老のように丸まった庄屋の背後には。の良い老人が佇んでいる。

蟹のような顔貌に見覚えはなかった。庄屋の物腰をみると、

どうも目上かつ地位の高い人物に思える。

「誰だ?あの爺」

「村では見なかったね。」

「おそらく、名主だろう。村の長ではないのか」

結果的に悪兵衛の推量は的中する。


やがて、老人たちの前に暗闇のなかより三人の男女が現れる。

遠目に見てもわかる雅な紺の宮服に身を包み、

烏帽子をかぶった男性が二名、艶やかな紫の壺装束の女性が一人。

山中に突然現れた異様な風体であった。

顔の見えない女性はもとより、男性も仮面に容貌を隠している。

何事かを話しかわす三名と老人たち。庄屋が松明をかかげ、

背後の大八車を照らす。

うずたかく積まれた動物の死骸。猟師の獲得物であった。付き従っていた体格のよい小物が大八車を曳き、三名に引き渡す。

宮服の男が進みより、こぶりな銭箱を庄屋に渡した。

また会話を交わし、老人達はその場を逃げるように離れていった。

その場に三名は残り微動だにしていなかった。明かりが遠ざかり、あたりが漆黒に包まれる。


やがて、またあの青緑の光源が明滅し始めた。夜目の聞く悪兵衛でも

何が行われているのかわからない。

その時、雲で隠れていた月が現れた。


青白い月明かりに三名が照らされる。

その目前に大八車があり、達磨のような丸い影が死骸に取りついていた。

細く骨ばった長い腕で死骸をかき集め、胴体に開いた大きな亀裂のような

穴にほうり、咀嚼している。大きさは宮服の男と比較して人間の約二倍ほどの身長で、頭はなく、丸い胴に大きな口がつき、

血潮を吹きながら死体を貪り食べている。狗族、であった。

達磨型の狗族は三体、それぞれ一心不乱に死体を食し、飲み込んでいる。

ひくく唸り声をあげながら、骨を砕き、血をすする音がかすかにここまで聞こえている。


月が陰り、また暗闇に包まれ、青緑の光源が動く。どうやら達磨の狗族の

目ともいえる器官の発光であったようだった。

どれほどの時が流れたか、あたりは静かになり光源も消えた。

月明かりに大八車が照らされると、死骸は全て消失し、宮服の三名も忽然と姿を消している。

悪兵衛がゆっくりと立ち上がった。

「撤収する。」

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