↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不知火戦奇  作者: tsuru hiroki
126/210

六


暁輝隊士達と共に、風祭玲、玉杉桔梗は帰投する。

緋色の陣羽織に身を包んだ隊士達の中、二人の純白の不知火の隊服が

浮き上がって見える。

隊士五名と共に北の街道筋を歩み、暮れる陽と共に人の行き来が少なくなった。

移動用の鸞《らん》の駐留地までの道程で、一刻もあれば到着するという。

二人の名は暁輝でも知られており、隊士達は遠巻きにしている。

また引率の崎坂《さきさか》兵衛少佐は風祭の既知であり、ぽつぽつと世間話をしながら

帰路を歩む。

「大佐、そろそろお聞かせ願えませんか。どう見ても不知火の護衛としか

思えませぬ。」

綺麗な髷を結った三十路半ば、温和な表情の崎坂は風祭の意思の強い横顔を

見つめる。

「詳しくは言えぬ。不確定故隊士達を混乱させ、必要以上に戦意を高める事が

まずい。護衛は違いない。戦闘が始まったならば、指示は少佐が行ってくれ。」

風祭の言葉に唇を引き結んで、崎坂は頷く。

神前仕合に選ばれた若い暁輝隊士達が、さらに若い桔梗を興味深く眺め、

誰が話しかけるかで揉めている。


*


暁輝、環太積の帰投に遅れる事二刻。本閥会議を終えた暁輝副長の宇都見双角、

不知火の織田刑部が、共に不動明道館に隣接する講堂よりあらわれる。

そこに護衛の伊駒玄真、玄嶽隊士五名が寄添う。不知火の二名は本日は

東京泊り、明朝に帰投予定であった。

玄嶽の本拠、大番町に宿を取り、簡易な慰労会が開かれるという。

この地は刑部にとっては学徒時代から下宿の経験もあり、懐かしく住み慣れた

処であり、半年前には弥者による和平派幕僚拝殺の内偵の本拠にもなった。

夕闇がせまり、人どおりの増えつつある繁華街を抜け、神楽掘を横目に

歩きながら見付を過ぎる。外堀を埋める雑木林に入った。

南北に長い林は、夜半に物盗りが出るため「ひったくり林」などと物騒な

あだ名がつけられていたが、屈強な玄嶽隊士は日中と同じように歩んでいく。

旧知の刑部と宇都見は談笑している。


ふと、先行する玄嶽隊士が脚を止めた。

夕日が木立を抜けて降り注ぐ街道の先、道の中央に若者が一人佇んでいる。

美しい文様の異国風の長着、涼し気な目元の十代にも見える青年であった。

「戦闘準備、隊形整えよ。抜刀。」

間髪をいれず刑部が叫び、宇都見を背後に庇いながら魁音刀に手をかける。

号令と共に玄嶽隊士達は一斉に剣を抜いた。黄金色の火花が明るく道を照らす。

若者は無表情に眺めている。

「奴がそうか。」

「恐らくは。宇都見殿、危険です。」

刑部は脂汗をにじませる。弥者による本閥えり抜きの隊士の戦力の査定、

その指揮者の選定、拝命殺戮。それを準備し、複数人の侍と対峙するのを

前提として、たった一人で現れた眼前の男が弥者であれば…

無表情な若者が口を開いた。

「参謀の男。織田刑部か。アシタ様に会ったそうだな。」

若者の周りに旋風が巻き起こり、裾がはためく。

聞き覚えのある声、佇まい。刑部は前方の若い男を見つめいった。

「貴様は」

若者は懐手から袂をわけながらよく響く声で叫ぶ。

「ヤシャショウライ。」

静かな声と共に長大な角が若者の額を割る。筋繊維の一本一本が浮き上がるような細身の屈強な肉体に黒革のたすき、鈍く光る銀の短剣が連なっている。

白銀の冠と剣が一つになった装飾品を自らの角にはめこむ。

本閥の侍八名を前にして、只々無心で弥者の姿を現し、立ち尽くす若者。

スバルノミコトであった。


「集合、全方位攻撃に備え」

刑部のするどい声に玄嶽隊士が素早く隊列を整え、スバルノミコトに相対する。

弥者の戦士は白く輝く短剣を両手で引き抜き、中空に放ると剣が意思を持つように

回転し始める。

「ハ ナ ニ チ ョ ウ」

スバルの気合声と共に回転する剣が玄嶽隊士に殺到する。隊士達は剣を振って

魁音撃、劫壁を前方に展開させる。が、急激にその軌道を変えた剣は上昇し、

回転しつつ降下した。玄嶽隊士が展開した劫壁の裏に回りこみ、先鋒の隊士二名の

延髄を斯き切った。

血潮を吹きあげて隊士が倒れる。絶対の防御を誇る劫壁を破り攻撃してきた

攻撃に玄嶽隊士も怯む。

「不知火太鼓発奏、防御。」

刑部の声と共に玄真が背に負い、格納していた附締《つけじめ》太鼓を抱える。純白の皮面には

黒々と燃える炎の紋章が描かれている。

「守曾《しゅそう》三の打」

玄真の気合声と共に、腹の底に響く打撃音が鳴り渡る。

連続した魁音が玄嶽隊士の足元から士魂を燃え上がらせ、各々の持った魁音刀が

唸り始める。

原初の魁音兵装である太鼓は、使役者の士魂の燃焼度合に応じて同じ奏法でも

その音色と質、影響力を変える。刑部の命により玄真は防御の発奏を行っているがその燃焼割合を細かく調整しながら音色を変化させている。

並みの弥者であれば戦意を喪失してしまう不知火太鼓の魁音撃であったが、

スバルノミコトはさらに空中の短剣を閃かせ、隊士達を全方位から襲った。

が、守曾と呼ばれる防御特化型の不知火太鼓により、玄嶽隊士の劫壁は

その影響範囲を大きく広げ、頭上から足元まで覆う程に拡張している。

火花をあげて短剣が落下した。

スバルノミコトは無表情に自らの一本角の装飾から、短刀を取り外し、

逆手に持つ。

「先鋒二名で動地で戦力奪取、後方二名で射刃。」

素早く冷静に刑部が指示を出す。声と同時に玄嶽隊士二名はスバルノミコトに

進み寄り、肩を中心に士魂の力場と共に突撃した。

スバルノミコトは半歩、重心をずらすと、一名は外側に向かい転倒、もう一名は

勢いそのままにその場で踏鞴を踏んで回転する。玄嶽隊士は仲間達を見つめながら

延髄を断ち切られ、絶命した。転倒から素早く起き上がった隊士の胸に短刀が突き立ち、血潮を上げてゆっくりと抜かれていく。スバルノミコトは一歩も動かず、

その方向を見てもいない。中空の短刀は血をまき散らして回転しながら

スバルノミコトの手元に戻った。

玄嶽の侵攻第一手とも言える戦技、動地がまったく通用しない事に、隊士達は

震撼する。が、後方二名は果敢にも同時に射刃を撃った。

スバルノミコトはその動作をただ、見つめている。鋭い鋭角の爆壁が殺到し

弥者を斬り刻むかに見えた。しかし衝撃の刃は不自然にその軌道を変え、

スバルノミコトを「自ら避けるように」背後の松に着弾する。

「馬鹿な。念動で魁音撃すら」

射刃を捻じ曲げられた後藤安俊が呻く。弥者が片手を上げると短剣が回転しつつ

空中に飛び上がる。六本の回転刃はゆっくりと本閥隊士達を包囲する。

「全員私の背後に。宇都見殿を防御せよ。不知火太鼓発奏、攻撃。」

刑部の声がさらに響く。

「咆調《びょうちょう》三の打」

玄真が奏法を変えるのと共に隊士二名が下がり、宇都見をはさんだ。

スバルノミコトは刑部の命令を訝しむ。防御要員の侍を下げ、自らが陣頭に

立ち、ワリヂカラの増大する音はその攻撃力を上げている。

防御を捨て、攻撃を執りながらその要は自らのみという、ちぐはぐな対応に見える。

一度手を合わせた参謀を名乗る男の戦闘とは思えなかった。

その逡巡に合わせたように、刑部は大地を四股で踏み抜く。

爆風が巻き起こるが、距離のあるスバルノミコトに直接の打撃を与える事は

ない。六本の短剣が空中高く舞い上がった。

「やはり、そうか。」

刑部は微笑みながら魁音刀、国造《くにつくり》をゆっくりと抜いた。激しい白の火花が

その顔を照らしている。

「貴様」

スバルノミコトは初めて表情を変えた。眉間に皺を寄せ、犬歯をむき出して

凄まじい怒りの表情で刑部を睨む。が、一度目をつぶり、元の無表情にかえると、

その身体はゆっくりと空中に浮かび、手元に回転する短剣が戻る。

静かに短剣を納めながら、スバルノミコトはもう一度刑部を見つめる。

「織田刑部。我とのナシアイを受けろ。」

「断る。斬り合いは苦手ゆえ。」

スバルノミコトはにやりと笑い、旋風と共に空中高く浮かびあがる。

呆然とする本閥隊士、魁音刀を下段に構える刑部を残して、弥者の戦士は

南に飛び去った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。