四
翌朝、神前仕合開始宣言が暁輝副長、宇都見双角准将より発せられた。
予めくじを引いて決められた取り組みが張り出される。
隊士達の騒めきを一睨みで静粛にさせた宇都見は、齢六十を超えて尚、
壮健な侍であり、知略に長ける暁輝の宿将である。
隊から三名が代表として一対一で剣術を競う。戦技の使用が許され、
審判が優劣を判定する。魁音撃は使役してはならない。
剣術仕合というよりは戦場挌技の模擬試合であった。
刑部ら、式委員を務める者は上座で判定し、本閥それぞれの控え所から
隊士が呼び出され仕合う。審判は日の本幕僚の者が務める。
神主による祝詞が神前に捧げられ、開会式を終えると第一試合が始まる。
不知火、玉杉桔梗対、環太積、吉房七重であった。
剣の走り、体さばき、打ち込みの強さ、すべて桔梗が上であったが、
七重の見せる破双に会場が騒めく。速度、距離共に橘川兄弟を凌ぎ、
その度に戦況が覆る。試合場の隅まで追いやられた後、一瞬で中央に戻る
事三度、桔梗の突き、薙ぎを避け、攻撃に繋げる破双使いに審判達も瞠目した。
高難度とされる斜め上方への破双と連続での片手面を桔梗は防ぎきれず、
受けた木刀ごと吹き飛ばされた。
そこで試合は終了となる。桔梗の負けとされた。
第二試合の環太積と暁輝は環太積の久世春之丞が、しなやかな速剣で勝利する。
体さばきと士魂の練りに優れた暁輝隊士は、久世の速度の前に為す術なく、
首筋に木刀をぴったりと当てられ、参ったをした。
第三試合、不知火、伊駒玄真対、玄嶽、後藤安俊は、双方の合意により、
剣術ではなく組打ちでの仕合であった。膂力に優れた両者の貞拳の打ち合いは
見ごたえがあったが、やや後藤がその技術に優れ、玄真を打倒す。が、腰に
飛びついた玄真がそのまま寝技に移行し、絞め技を仕掛けようとした所、後藤に
よる相手と密着した状態での拳禍が玄真を撃つ。
横腹から内臓に波のような衝撃を受け、玄真は敗北した。
玄嶽控え所では、小早川中佐が髪を振り乱し、何事か大声をあげている。
「不知火ともあろうものが二敗は頂けぬな。」
式委員を務める環太積参謀長、霧島歌右衛門大佐が織田刑部に耳打ちする。
天才軍略家と名高く、若白髪をきっちりと撫でつけ、学者髷に結った面長の
表情、眉が薄く視線が鋭い。
「面目次第も、ございませぬ。」
刑部はしっかりと頭を下げる。が、その表情は飄々としている。
「隊士の引率は誰が。」
「風祭玲大佐でござる。拙者同様、副長を預かっております。」
「ほう。風祭。例の…」
霧島は眉間に皺を寄せ腕組みをしている。十年前、霧島は三十六の若さで
大佐に昇進した。史上最年少と言われ本閥でも話題にあがった。しかし、
五年前に風祭が二十九で大佐を任命され、最年少の称号と話題が不知火に
移った事があった。未だにそれを快く思っていないという噂を刑部は
聞いている。
「刑部、不知火はどうした。」
穏やかな表情の宇都見准将が腰を掛ける。刑部と霧島は頭を下げた。
「どうも、調子が出ておらぬようで。」
「左様か。」
宇都見は刑部の言葉に笑いながら手元の茶をすすった。
「吶喊白兵衆参ともあろう者どもが、あの体たらくでは。思うに戦闘指導を
行う引率の者に問題があるのではないかと。」
霧島がいかにも隊を気遣う声色で宇都見に進言する。刑部はまっすぐ前を
見、無言でいる。
「最後まで、見届けよう。」
宇都見の言に両名は頭を下げた。
*
第四試合、玄嶽対暁輝は暁輝隊士の空中からの蹴破が決まり、暁輝勝利、
第五仕合に悪兵衛の呼び出しがかかる。
すでに二敗している不知火控え所では怒る風祭の叱咤で室温も上がっている
ようだった。
「悪兵衛、決して油断するな。」
「は。」
悪兵衛の表情に期するものを感じ、風祭はそれ以上の言葉をかけなかった。
桔梗と玄真は俯き、無言だが敗北の屈辱や怒りを感じさせない。
風祭はそんな二人に猶更苛立っている。
明道館中央に不知火、播磨悪兵衛と、環太積、上条源之助が立つ。
互いに礼を交わし、蹲踞の姿勢から正眼で立ち上がる。
するすると近づき、気合声と共に剣を撃ちあう。悪兵衛よりやや視線が
低い上条は筋骨たくましく、撃剣は強く、鋭い。また体さばきも見事で
環太積隊士としては珍しい超攻撃型剣士である。類型として悪兵衛に近い。
そうなると戦いの経験や戦闘での閃きが物を言う勝負になるが、
それすらも上条に一日の長があるようだった。
激しい連続の打ち込みに悪兵衛はやや守勢であったが、一瞬の間を上条が
見せる。打ち疲れと見た悪兵衛は距離を詰めるべく飛び出す。が、それを
見越した上条は強力な四股で悪兵衛を吹き飛ばした。
空中で姿勢制御を試みる悪兵衛の眼前に破双で飛び込んだ上条が、士魂を
込めた剣を受けさせる。
悪兵衛は木刀を取り落とした。
その場で膝をつき、首を垂れる。悪兵衛の敗北であった。
霧島は額に手をあて、大げさに声をあげる。宇都見は変わらず穏やかな表情で
霧島の言に耳を傾ける。
刑部は静かな表情で悪兵衛を見つめている。




