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不知火戦奇  作者: tsuru hiroki
122/210

二


東京のほぼ中央に位置する不動明道館。日の本でも最も壮大な総合武道場で、

八角の屋根の中央に、随獣四体の黄金の立像が陽に輝いている。

木立から現れた巨大な武道場に悪兵衛は目を見開き、呆気にとられた。

「こんな大きな武道場は見た事がない。」

「悪兵衛、口を閉じろ。」

桔梗が笑いながら悪兵衛の顎をおさえた。

「懐かしいわい。幼少より通ったものだ。」

玄真が見回して目を細める。

「お前も剣術の大会か?」

風祭も懐かし気に見上げながら訪ねた。

「いえ、柔術です。毎年来ておりました。」

「ああ、あの柄の悪い連中だな。」

「そんな事はありません」

玄真の焦り声に隊士達は笑った。内偵ではなく、ましてや命をかけた戦闘前提でも

ない遠征に、皆の表情も明るい。ただ、織田刑部だけは懐手でずっと思案顔を

している。が、元々思慮深い刑部の表情に違和感はなかった。


南側の大門を潜ると正面に入り口があり、それは直接観客席に続く。

隊士達は建物の外壁沿いに続く石畳の沿道を歩き、西にある出場者用の門へ

向かう。

樹木で囲まれた門庭には日の本藩士の関係者と本閥の人々が談笑している。

それぞれの待合になっているようであった。

鮮やかな紺碧の陣羽織に詰襟、制帽の集団が集う。環太積である。

隊士の中に知己を認め、悪兵衛が歩み寄った。

「春之丞。」

悪兵衛が声を掛けたのは同期の侍、久世春之丞。若鹿のような痩身に、

日に焼けた笑顔で白い歯を見せる。

「悪の字。貴様きたか。」

二人は肩に手をかけ笑いあう。

「播磨少佐。先日はご足労感謝する。」

感情のない声で長身眼鏡の男が声をかけた。

「阿波野《あわの》敬次郎中佐です。」

悪兵衛は敬礼をする。答礼した阿波野の背後に小柄な男が控える。

「不知火か。殴り込みの連中だな。」

「失礼する。」

阿波野は背後の男の肩に手をかけ、その場を離れようとする。

「俺もひとつ挨拶してやる。」

「よせ、上条。」

「何故だ。腕に覚えのある連中だろうが。」

「だから、余計に、だ。あ!上条、向こうに出場者向けの出店がある。

握り飯でも食おう。」

「ん?そうか。よし。」

二人のやりとりを苦笑交じりに久世は見つめる。が、すぐに悪兵衛に向き直った。

「おい、阿波野参謀と顔見知りなのか?」

「いや、それほどでもない。先日たまたまお会いする機会があった。」

奥歯を噛み、引き締まった悪兵衛の表情を春之丞は伺う。

「もう一方は上条源之助中佐だ。我々の戦闘班を束ねる。…あの通りの

少々血の気の多い方でな。」

「見てわかった。」

悪兵衛と春之丞は笑いあう。

「播磨少佐。」

真新しい制服に身を包んだ女性士官が進み出る。

「お主は…吉房《きっさ》どのか。」

「吉房七重少尉であります。」

きびきびとした動作で敬礼をした七重を見て悪兵衛は目を丸くする。

「本閥選に残られたか。」

「はい。不知火希望でしたが、縁あって環太積に。」

吉房七重はかつて弥者の拝殺目標にされた事があり、悪兵衛と灰音が

命を護った事があった。学徒の当時から本閥入りを希望し、尚武で聞こえた

武僑高等学園でも白眉であった。

頬を紅潮させて、悪兵衛を見つめる瞳が潤んでいる。

「では環太積では久世のもとに?」

「はい。日々鍛えて頂いています。」

「優秀だ。お前と違って勉学もな。」

「それをいうな。」

久世の言葉に悪兵衛は顔をくしゃくしゃとつぶし、笑いあう。

「悪兵衛。登録所にいくぞ。」

桔梗がやや冷たく声をかけ、不知火隊士達は明道館の裏門を潜る。

「環太積の新人隊士を知っているのか?」

「はあ。以前の内偵で顔見知りになりもうした。当時は学徒でしたが。」

「不知火頭目ともあろうものがにやにやしおって。」

「は、申し訳ない。」

呑気に笑っている悪兵衛を睨んで、桔梗は歯噛みをしている。

風祭が袖で顔を隠してあらぬほうを見ている。苦笑を隠し切れない。

隊士達は登録所にてそれぞれの身分を示し、参加する者の書付を行った。

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