神前仕合
序
浪華を統括する新敷城、通称黒門にて、幕僚会議が行われている。
対狗族、対弥者の戦果の報告、それに伴う被害、今後の予算分配等
議題は多岐にわたる。
今回は神尾鉱山でのたたかいの結果、弥者の侵攻に対する体制作りに
会議は紛糾した。半日に渡った話は一応のまとまりを見せる。
信貴の間が開けられ長い会議を終えた幕僚達が退出していく。
書記をしていた小物に書簡の送付を頼みながら、伊庭辰之進中将は
手元の書付を整理する。目の前に上座の男が腰を下ろした。
「玉杉殿。」
伊庭は手を置き、深く一礼する。
日の本の軍事を束ねる将軍直轄の大年寄、玉杉蔭隆幕僚長であった。
白髪交じりの髷にがっしりとした体格、鋭い眼差しに引き結んだ口元、
伊庭が新兵であった時からの上司である。
「どうだ。不知火は。」
深く、落ち着いた声で問う。伊庭は顔をあげる。
「日々、隊士共々、任務に邁進しております。」
「…お嬢様も身命を賭しておられる。」
「任せるぞ。伊庭。」
厳しい表情で立ち上がった玉杉幕僚長に頭を下げる。
玉砂利が敷かれ、松が植えられた見事な庭を望む渡り廊下。
静かに歩む伊庭の前方に痩身の侍が懐手で佇む。
「誓野。」
「伊庭。」
見事な白髪の総髪を揺らして、老年の男が顔を向ける。
環太積隊長、誓野総士郎中将であった。伊庭は隣に並び、白砂の庭を
見渡す。暫し無言の時を経て、誓野が口を開いた。
「旭光の者はどうしている。」
「先日、負けて帰ってきたがもうぴんぴんしておるわ。」
「そうか。」
「誓野、貴様手合わせしたな?」
「ちと、士魂の練りが足らんの。」
「困った奴だ。」
誓野の言葉に伊庭は苦笑する。
本閥創立以来、三十年の時を共に戦ってきた二人であった。
鵯が鳴いている。




