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不知火戦奇  作者: tsuru hiroki
116/210

十三


大立坑の上空より、つんざくような鋭い吠声《なきごえ》が響いた。

円を描き浮遊する征羅比瑪の集団を切り裂き巨大な物が落下する。

地面擦れ擦れで空中に浮かんだ「それ」は、四枚の羽根を持つ、大鳥であった。

「鸞《らん》だ。」

「暁輝か。」

隊士達が口々に言い放つ。朱に輝く羽毛がはためかせ、空中に留まるその

随獣は、地上のあらゆる鳥類より巨大であった。

鷲と龍を合わせたような頭部の首元に鞍が着けられ、背後で暁輝隊士が操る。

爆音をあげて一瞬で上昇していった。

次々に征羅比瑪の死体が落下する。

擦過するだけで身体の一部を失い、煙をあげている。

上空で鸞二羽が狗族を散りじりに追い立て、吠声が上がるたびに、死体が

堕ちる。爆破液も回転しながら飛翔する鸞には、撥ね飛ばされ、まったく

通用しない。天敵、であった。


やがて征羅比瑪の集団は上空の立坑の出口に向かい、飛び去った。

地には無数の征羅比瑪の死体が煙をあげている。

岩盤回りの木組みの足場が燃え上がり、轟音をたてて崩れた。


鸞を操っていた暁輝隊士四名が伊庭と呉越に敬礼し、報告をしている。

降り立った鸞の頭頂は五米もあり、初見の隊士達が物珍しく遠巻きに眺めている。

悪兵衛がそのうちの片側に近づいていった。

「小巻ではないのか。やはり、小巻だな。」

鸞の一羽は近づく悪兵衛に警戒の表情を見せ、黄金色の大きな瞳で見つめたが、

声を聞くとすぐに悪兵衛の髪をついばんだ。

「痛てて、わかったわかった。久しいな。」

「斎藤殿は。そうか。今回は来ていないのか。見事な働きであったぞ。」

悪兵衛は微笑みながら、小巻と呼ばれた鸞の嘴を撫でた。

悪兵衛の傍らに桔梗が歩み寄る。

「そうか。石那珂島《いしなかじま》に来てくれた子か。私を乗せた…長次郎といったか。あれは

元気なのか?」

小巻は長次郎を嫌っているらしく、その悪口に悪兵衛と桔梗は吹き出した。

灰音章雪は、崩れた足場を避け屹立する岩石を遠山と調べている。

美浪と呉羽はそれぞれ玄嶽本隊と和賀藩兵に向かい宗波を飛ばしている。

その報告と指示に伊庭と呉越が加わる。

本閥の侍達は緊張の限界を超え、極度の疲労に座り込む者もいた。


「以前世話になった鸞だったのですね。」

温和な表情の灰音が悪兵衛のもとにやってくる。

「章さん、生き残ったな。」

「はい。検証せねばならない事が山積みです。」

「そもそも、弥者達の目的は何だったのか。手がかりは、得ました。」

灰音は手に爆破された岩盤の破片を持っている。黒く輝くそれは、未だ熱を

持つ。悪兵衛に手渡した。

「幕閣が直接採掘に乗り出した、軍事転用可能な鉱石とはこれです。」

悪兵衛はその破片を見つめ顔を上げた。

「導鐵《どうがね》だ。」

「はい。魁音兵装の中核となる希少な鉱石です。」

「この小山のような切り立った岩盤全てが導鐵で構成されているようです。」

「まことか。」

「導鐵の採掘や製造法は軍事機密です。なぜ弥者が。」

「それを、今後追及せねばなりません。」

桔梗に答えると、灰音は巨大な岩盤を見上げた。


黒く輝く山の前に現れた輝く黄金の鳥居。

そこに消えた弥者の軍団。

キリヒトノミコトの残虐、マカミノミコトの無双。

あらゆることが悪兵衛の脳裏に閃き、また消える。

ようやく自らの疲労に気付き、その場に腰を下ろした。

傍らの桔梗の瞳を見つめる時、新たな力が沸き起こるのを感じる。


多大な犠牲を払いながら本閥の侍達は生き残った。

後に不知火のいくさを記した物に書かれる、最後の決戦への起点と

なった日とは、今日の事である。




魔岳   了

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