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不知火戦奇  作者: tsuru hiroki
113/210

十


「野火」

仁悟朗の気合声と共に横薙ぎの破壊の波が走る。更に逆薙ぎの野火を射出し、

連続で狙撃された氷弾を消滅させた。背後から桃乃介が飛び出す。

「星巡」

瞳に白い焔が宿る。次々と飛来する氷弾をすべて刀で撃ち続ける。

「明星」

士道の声と共に剣先から一陣の光線が迸り、天井すれすれを弧を描いて光の線が

飛んだ。一筋の光芒が通路の奥に消えた瞬間に破壊の衝撃が炸裂した。

爆璧魁榴撃と呼ばれる明星は、任意の地点で爆壁を破裂させる。畦倉士道により

編み出された魁音撃である。

氷弾の狙撃が一瞬の間、止まった。

不知火本隊は通道の奥に侵攻する。桃乃介の星巡が発動、振りよせる氷弾を

斬り付け、弾いていく。金網の人質一人一人の顔が目視できる程に接近した。

「明星」

士道の裂帛の声と共に二筋の流星が通路の奥に流れる。

だが爆壁は炸裂せず、その場で白化し粉々に散った。


花びらのような結晶と化した魁音撃の残滓が、舞い散る。

「シ ロ ノ ム ラ サ メ」

粉雪の向こう、通路の最奥に闇が凝縮したような弥者が声を発する。

空中が白く煙り篝火の明かりを反射して粒子が輝く。

「ナ ノ タ ン ジ」

黒の弥者の両隣の灰色の狩衣姿の者が声を発し、大きく掌を振ると、

空中で凝固した氷弾が発射された。

不知火隊士は一旦待避し、鉄籠に身をひそめる。

美浪の宗波が全軍に奔った。

「不知火、美浪大尉であります。現在下部大居通道にて、尊級弥者と遭遇。」

「キリヒトノミコトと思われます。」

隊士達は厳しく引き締まった表情をしている。唯一、伊庭だけが不敵に笑う。

「章雪、黒髪の弥者が氷弾を生成し、投げつける破常力の者を使役していたな。」

「御意。キリヒトノミコトの生成能力は…武庫之原のたたかいに於いて、平原全体

を霧で包むほどの力を見せており、無尽蔵にあると思われます。」

「投射する方の弥者の破常力はそれほど負担になるまい。あと十、いや二十以上は

攻撃できるか。」

防御に魁音撃を撃った仁悟朗と桃乃介の表情が曇る。強力な能力を持つゆえに

それ程の氷弾を防げる斬弾数は無かった。


「ビャッコの侍達。姿を見せなさい。」

黒髪の弥者が深く、静かに言葉を発した。一人、歩み寄り、仮面を外す。

地底にきらきらと輝く氷の粒子の向こう、細面に赤い瞳が怪しい光を放つ。

「ヤマトビトを、殺します。」

金網の内側、若い女が磔にされ、猿轡で縛められている。

キリヒトノミコトは腰の太刀を抜き、閃かせた。

「このように、ひとりずつ。」

言葉と共に女が痙攣する。胸辺りから身体が伸びていき、皮一枚で繋がっていた

下半身が重力のままに落ちた。分断された下腹部が丸く膨らんでいる。妊婦で

あった。その腹をキリヒトノミコトは踏み抜く。血潮と腸が吹き出た。

「ふたり、でした。」

嗤いながら弥者は言った。


伊庭は無表情で立ち上がる。腰の魁音刀が重く響く金属音を発し続ける。

「章雪、止めるなよ。俺は斬るぜえ。」

「御意のままに。」

伊庭はゆっくりと鉄籠から通路の中央に歩む。その背後には燃え上がるような

士魂を滾らせる隊士達が皆、付き従う。

通路の中央に凛として立つ不知火の侍達の姿を認め、キリヒトノミコトは

張り付けたような微笑を浮かべている。

その両脇に狩衣に漆黒の数珠を身に着けた、投射の破常力を使役する弥者が

並ぶ。左右に十名ずつ。それぞれ掌を空中に捧げている。

空中に氷弾が生成され、二百もの切っ先が不知火隊士の眉間と心臓に狙いをつける。


「旭光」

悪兵衛の怒号と共に、眩く輝く破壊の爆壁が撃ち上がった。

弥者達の真上の通道の天井、大掛かりな小屋梁と束を粉々に破壊すると共に、

それを支える棟木まで砕き、岩盤を穿つ。

崩れ落ちる岩と土砂に妻梁が折れ、崩落が起きた。

土煙が充満し、視界が消失する。

待避の声と共に、不知火隊士達は破双で後退した。


*


「無茶な事を。」

避難路の暗がりで、バルザックは苦笑している。

「不知火の皆を確認した。御頭の魁音撃をもってすれば崩落なぞ物とも

するまい。」

破双で戻った悪兵衛の言葉に風祭は眉をしかめる。

「この通路まで崩れたらどうするつもりなんだよ。」

一圓が口をとがらせる。

「耐える構造だろう。そうでなければ通道の避難路にならぬ。」

十字朗は気楽な言葉を発する。

避難路から通堂内を確認した不知火別動隊は、本隊の窮地を察した。

全員での吶喊の後、交戦、人質の救出を考えた風祭に悪兵衛が旭光の使役の

許可を頼んだのであった。

崩落の轟音と地響きが止んだ。


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