↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不知火戦奇  作者: tsuru hiroki
109/210

六


漆黒の中、悪兵衛の横顔が灯りに照らされる。

先頭に十字朗とバルザックが松明を持ち、そのすぐ背後に悪兵衛、

同様に灯を持った橘川兄弟、風祭が並ぶ。

坑道の壁伝いに油路があり、等間隔で常夜灯が燈される仕掛けになって

いるが、現在は大本の油槽が枯渇している。

踏査図を元に不知火別動隊は進む。内部は表ほどの寒気はなく、

却って蒸し暑い程であり、風祭は防寒用の外套をすでに脱ぎ捨てている。

「副長、神尾山で当初行われていた内偵というのは?」

松明を回して辺りを確認しながらバルザックが声をかけた。比較的広い

坑道に声が響く。

「元々は和賀藩抱えの金物業者の大店、大野屋が採掘を取り仕切っていた。」

「およそ二年程前、希少な鉱石の採掘に成功し、軍事転用が可能な為、

一部採掘現場を幕僚直轄で行われるようになった。」

悪兵衛は剛力くらべの行われた尾宇治での、浪人の人足の話を思い出している。

「その後、直轄地での採掘に不可解な人死にが多発し、弥者の目撃情報が頻発した。

そこで我々が内偵を繰り出したのだが。」

「落盤事故で採掘自体が止まってしまったというわけですか。」

「そうだ。」

風間は短くこたえ、口惜しさをにじませる。

「落盤は仕組まれた物であり、それを起こしたのは弥者なのか。相当な

技術が必要に思えるが。」

「採掘場に現れる以上、それなりの知識と技術は保有しているのだろうね。」

十字朗とバルザックの会話を、悪兵衛はじっと聞き入っている。

「なぜ、そんな事を。自らの存在を喧伝するようなものだ。」

「僕は、早騨宿侵攻自体が、そこから目を逸らさせる陽動だったように思う。」

「前方、灯りが見えます。」

一圓が鋭くいった。小さな点でしかない光源をいち早く発見する。

「数、二十一。」

一真も細かくその数を捉える。そうなると他の隊士達も坑道の果てに

蠢く光源を目視できる。

「我々の侵攻途中で、作戦を共にする部隊の報告はない。敵だ。」

「一圓、一真、常夜灯に着火。足場を確認し、光源を保持しつつ撤退。」

「頭目、戦闘指示。」

風祭が一瞬で判断し、次々を指令を下す。松明の明かりが灯る坑道が

明るく照らされる。前方の闇の中の灯火の上下動が激しくなり、こちらに接近

しているのがわかる。

やがて、闇の中から足音と武具の鳴らす金属音が聞こえてくる。

松明に照らされ、長大な角に松明の光を反射する両目、光沢のある黒茶の鎧に

身を包んだ弥者の戦闘集団が現れた。


「報告のあったヤマトビトがビャッコとはな。」

中央に立つ黄金の装身具に身を包んだ弥者が口を開いた。

その男を護るように、屈強な体躯の弥者達が仁王立ちしている。

「宣戦布告」

「吶喊白兵衆参、不知火である。」

「弥者と認め、攻撃する。吶喊する。殲滅する。」

「いざ尋常に勝負。」

「勝負。」

隊士達の言霊は巨大な砲撃のように弥者の集団を襲った。

何人かはその場で倒れ、膝をつき、荒く息をする者もいる。

中心の弥者が仮面を外し、虚空に向けて吠えた。

長く続き、高く低く音色を超える遠吠えであった。他の弥者達も呼応するように

遠吠えを上げる。坑道が異質な音色で染まっていく。

不知火隊士が抜刀する。白、赤、青の火花が隊士達を照らし、爆ぜる炸薬音が

坑道にこだまする。

弥者達の声が途切れた瞬間が、戦闘開始の合図であった。


十字朗とバルザックは先陣の弥者の太刀を受け流しつつ、緩やかに後退するかに

みせかけ、一気に踏み混んで斬り捨てる。その間隙をぬって飛び出した者を

空中で両断した。悪兵衛はその士魂に呼応し、低く唸る琿青をおさえつける。

「カ サ ネ カ キ」

弥者の長と思える者が呪詛を発し、大太刀で斬りかかる。十字朗は受けず破双で

下がった。弥者の剣の軌道に沿って、坑道の硬い岩盤にいくつもの斬撃の衝撃が

走り、土煙が舞う。

「多撃同時の破常力か。僕とどちらが強いかな。」

バルザックが不敵な笑みを浮かべ剣を八双に構えた。

立ちはだかる弥者の長の背後、裸形の男が全身を革紐で縛められている。

一瞬の対峙の間にその男の革紐が解かれ、ゆらりと立ち上がった。

悪兵衛はそれを見た瞬間に俯き、左手で固く両目を護る。

裸形の男は頭部のみ、人間の頭より二回りも大きい球体で、横に一本、

切り付けられたような筋が入っている。それがゆっくり開くと内部からぬるぬると

光る眼球が現れ、雷のような閃光が迸った。

辺りを白光で満たし、視界が消失する。前線の十字朗とバルザックは網膜を

焼くような光に顔を背け、膝をつく。

悪兵衛は目を護ったまま飛び出し、二人の腕を持つと渾身の力で破双を発動、

後方に下がる。

閃光が収まると、仮面で光を防いだ弥者達が不知火に殺到した。

赤頭《あかがしら》と呼ばれる狗族であった。知能が低く、戦闘に組み込むことは出来ないが

生命の危機を感じた時、その眼球から強烈な閃光を生み出し、見た者の全身を

麻痺させる。対戦経験のあった悪兵衛はいち早くそれを察知したのだった。


弥者達の太く、筋繊維が盛り上がった太ももが次々と弩弓の矢で撃ち抜かれる。

普段は一圓が身に着けている魁音武装、一四式装填弩弓を一真が装備し、

狙い定めて弥者達の脚を撃ち抜きその動きを止める。

一圓の魁音戦鎌、白拍子《しらびょうし》が突風の様に飛来し、赤頭の首を斬り飛ばし、

回転しながら手元に戻った。

驚異的な視力をもつ橘川兄弟は赤頭の存在に気付き、防御しつつ風祭を

護った。後衛組はその被害を受けていない。

「副長。」

十字朗とバルザックを下がらせた悪兵衛は風間に短く指示する。

無言で進みでる風間が魁音刀を抜くと、激しい火花が坑道を照らした。


大柄な太刀を持った弥者の長が進み出る。他撃同時攻撃を持つ弥者は

剣での戦闘に絶対の自信を見せ、ゆっくりと剣を頭上に構える。

間髪をいれず、風間は単独で飛び出した。

「玉閻《ぎょくえん》」

裂帛の気合声と共に魁音撃の奔流が刀身より吹き出る。

放跋魁撃波と呼ばれる玉閻は、通常の魁音撃に見られる爆壁を射出するのではなく、

破壊の衝撃を扇形に噴出する。弥者達は全身を魁音撃に苛まれ絶叫をあげて

消失していった。

風間が刀を下すと、分解された弥者達の衣服と、首を切られた赤頭の躯が

転がっている。

風間は高い振動音を上げる魁音刀、馳駆紫に月旦を打ち、刀身から白煙が

上がるが、その振動は止まらず、続けてもう一本月旦を注入した。

強大な殺傷力を持つ玉閻は、魁音刀にかかる負担も大きい。

「一圓、一真。敵は。」

「無し。」

「坑道には確認できず。」

風間は刀を収めると、十字朗とバルザックの元に赴き膝を落として

二人の眼底を調べる。

「失明してはおらぬ。もう視力は戻り始めているだろう。」

「は。失態を。」

「申し訳ありません。悪兵衛、助かったよ。」

「このたわけ共。調子に乗って段平を振り回すからだ。」

不知火最強の一角である二人に、風間の容赦ない叱責が飛ぶ。

橘川兄弟が肩をすくめている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。