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不知火戦奇  作者: tsuru hiroki
108/210

五


神尾鉱山北壁、東端の崖上に不知火本隊はいた。

眼下には、和賀藩兵二百名余りの隊列。濃紺の胴巻き姿の藩兵達の横腹に、

漆黒のなめし皮の鎧を身にまとった弥者数十名が食いつくように

襲撃している様が見える。

隊列は混乱し、斬り合いの最中に弥者が投げ打った光弾が炸裂し

燃え上がっている。

「急がねば滅ぶな。」

号令を発しようとした伊庭を美浪がとめた。

「御頭、あれを。」

玄嶽の第一大隊の一部が移動しつつあるなか、その内より十名程の

隊士が破双により急接近する。和賀藩を二つに分けて急行した玄嶽隊士が

弥者と激突した。

「早いな。」

「連者隊です。」

「うむ。合流し弥者を叩く。」

不知火隊士は崖を迂回しつつ次々と破双で飛び出した。


救援にきた和賀藩兵を護りながらも、圧倒的な攻撃で弥者を押す連者隊。

その戦技、魁音撃は不知火に近い。次々と弥者を斬り、形勢は一瞬で

覆った。中でも、隊を指揮し自らも剣を揮う純白の襟巻をなびかせた

侍の姿が目に付く。柏崎壮之介であった。

鬼門甲を濃緑の長着で包んだその姿は、明らかに他の隊士と比べても

早く、鋭い。射刃の輝きが閃くたびに弥者が崩れ落ちる。

大きく手を振り和賀藩と呼応し、弥者の残存兵を切り捨てていく。


崖下まで降り、小高い丘陵でそのたたかいの全容を見た伊庭はすでに救援に

必要がない事を知った。傍らの灰音に語り掛ける。

「うちの頭目とどちらが強い?」

「柏崎様です。体《たい》の捌き、反応の速さ、創造的な戦闘。悪兵衛とよく似た剣

の使い手ですが、すべてが悪兵衛の一枚上です。」

「そうか。」

「柏崎様に悪兵衛の剣を鍛えて頂ければ」

「1年ないし1年半後、彼を上回る力を見につけます。」

「悪兵衛も玄嶽に渡すのはちっとばかりつれえな。」

伊庭は目を細めて見つめている。

弥者の中でも一際大きな者が、両手の先に火球を生み出し、投げつける。

爆破し大きく燃え広がったそれは和賀藩兵を焼く。連者隊も防御的魁音撃で

防ぐが、一歩攻め込めない。

日の本軍の先鋒に立つ連者隊が狙われ、火球が撃ち込まれた。

同時に全身を白みがかった魁音撃の塊に包まれた柏崎が、破双をしのぐ速度で

飛びだし、火球の弥者の半身を「突きながらの体当たり」で吹き飛ばした。

連者隊、和賀藩から歓声があがる。

戦技と魁音撃を組み合わせた独特の攻撃であった。

目撃した不知火隊士もどよめく。

「あれは。」

「技術調べで見た記憶があります。恐らく魁音撃、紫電でしょう。」

「玄嶽の戦技に手をいれたか。」

「御意。」

局地戦の勝敗は決した。


*


玄嶽、連者隊は直立で伊庭率いる不知火を迎える。

「不知火、伊庭中将に敬礼。」

柏崎の鋭い号令が飛ぶ。今しがた戦闘を終えた隊士達にほぼ被害は無い。

「休め。特務機動隊の働き、見事であった。」

「不知火も、来るには来た。役に立たなかったと報告せよ。」

「そのようにご報告します。」

「あ、後の方はいらん。」

「承りました。」

伊庭が破顔し、柏崎の肩に手を置く。連者隊隊士達から笑顔がこぼれる。

両名は並び立ち、和賀藩兵の被害状況を見分に向かった。


「そうか。わかった。荘さんは悪兵衛に似ている。」

仁悟朗が思いついたように言った。士道も手を叩いている。

「悪兵衛より格好いいよ。顔もいいし、背も高いじゃん。」

桃乃介が口をとがらせる。

「え、そうかな。そうでもなくない?」

桔梗がすこし怒った顔で声をあげた。

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