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不知火戦奇  作者: tsuru hiroki
106/210

三


神尾山北壁のふもと、尾永森林に本閥、和賀藩兵は陣を構えている。

その前方、正面に神尾鉱山、大通洞と呼ばれる最も大きな採掘口があり、

その内部より弥者達は現れ、狗族が集結しつつあった。

総攻撃の三日前、神尾鉱山陥落の急報を受けた幕僚は、弥者出現の状況から

神尾鉱山を弥者の本拠と位置付けし、本閥全軍の出撃を要請。

早騨宿全滅のわずか1日後である。

不知火、玄嶽共に神尾鉱山へ急行した。その海上輸送は環太積が行う。

そして、本閥内唯一の空対空戦闘部隊、糺天爆撃錬兵、暁輝《あかづき》が随獣を伴い、

神尾山へ向かった。


本閥、藩兵一斉の総攻撃が行われ、一時的に大量に現れた狗族を撃退したが、

征羅比瑪と呼ばれる浮遊狗族による空対地爆撃で甚大な被害を受け、

隊列は乱れ本軍は一時散りじりになった。

暁輝の使役する戦術格闘航空随獣、「鸞《らん》」の攻撃により、征羅比瑪は

鎮圧されたが、長距離の航行と戦闘の疲労により鸞は休止状態にある。


現在、本閥主将を迎え陣を立て直した日の本軍は、正面に和賀藩兵と玄嶽

一大隊、その左翼に不知火が展開し、単独で進行、弥者の背後からの襲撃。

右翼に玄嶽一大隊が正面隊と共に弥者を叩く手筈になっている。


*


空中に渦を巻くような軌道で浮遊する編切りを、深町仁悟朗は気合一閃で

集中させ、一匹ずつ斬り落とす。足元には編切りの死体。頭から青黒い

体液を浴びる。

「よし、粗方片付いたか。」

「仁悟、青坊主みたいになってるよ。」

笑いながら間宮桃乃介が後につく。

「桃は星巡《ほしめぐり》は温存せい。灰音殿の指示あるまで俺が討つ。」

「私が出るっていっても自分でいくくせに。」

桃の言葉に仁悟朗は大声で笑った。その向こう、編切りの死体の先に

大型の狗族が現れる。成人男性の肉体が地面に向けて収束するように脚部になり、

その頭部は神話に現れる龍に似た爬虫類の物だった。全高は人間の二倍はある。

「編切り殲滅後、一本踏鞴《いっぽんだたら》出現。先士《さきんじ》の深町、畦倉が遭遇。」

美浪の宗波が波のように伝わる。

「畦倉、玉杉、一本踏鞴を殲滅。他、大型狗族の出現に備えます。」

桔梗の凛とした声が響いたように伝わる。

「何、もう倒したのか。早いな。」

「仁悟、私がいくよ。」

「待て待て。」

一本踏鞴が空中に飛び上がり、一瞬の後に爆音と共にその巨大な足で地面を

踏み抜く。地が揺れ、木々が騒めいた。

仁悟朗は垂直に飛び上がる破双で、その衝撃波をかわし袈裟切りに射刃を放出する。

一本踏鞴の肉体は両断され、吹き飛ばされた。


狗族の死体が累々と重なり、一本踏鞴の踏み抜きの衝撃が同心円状に

跡を残している。

仁悟朗は白煙を上げる愛刀に月旦抜きを注入した。

不知火担当の左翼、小規模の坑道がいくつも開く北壁東側である。

戦陣羽織に身を包んだ灰音章雪、美浪結宇、不知火の紋章と麒麟の角が輝く

兜を身に付けた伊庭辰之進が現れる。そこに畦倉士道と玉杉桔梗が加わった。

「残弾報告をお願いします。」

「明星、六。」

「野火、五。」

「星巡、五。」

「神言錨《かむいびょう》、十七。」

最後の桔梗の報告に灰音は頷いた。

「よし。侵攻する。戦闘は避ける。」

伊庭が言葉を発し、不知火は狗族の目を避けるように森林を北上する。


「士道、仁悟朗。壮之介には会ったのか。」

「は。ご挨拶させていただきました。」

「御頭。荘さんは人間が丸くなりましたな。随分とお優しくなられた。」

「てやんでえ。貴様ら、入隊時の暴れっ振りを忘れたのけえ。」

伊庭の軽口に隊士は皆笑う。戦闘中であり、戦意は高揚しているが、独特の

安心が隊の雰囲気を和らげている。

絶対的な指導者、伊庭辰之進がその中心にいた。

「久しぶりに荘さんにお会いしたが、誰かに似ているような気がする。」

「む、俺も感じた。」

その時、玄嶽の女性隊士の宗波が不知火隊士を打った。

「玄嶽、荒井少尉であります。正面隊東端、和賀藩兵を弥者が襲撃。

応援を乞う。」

「不知火、伊庭だ。向かう。」

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