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二人一役の調停者  作者: 襟端俊一
終章 最終日
97/100

5

「ちょっと! あんなの反則じゃない!!」


 余裕を持って戦っている依衣と違い、架は防戦一方だった。

 第一部隊の中心的な人物。

 いなくなればそのダメージは計り知れない。

 架が敗北することの意味を深く理解していた照は、当然ながら架の戦いに釘付けだ。


「ねぇ! あんた達もそう思うでしょ!?」

「すまん、俺には何のことだか……」

「ご、ごめんね。私も」


 優太と蒸籠に同意を求めるも、すぐに自分の余裕の無さを思い知ることになった。

 二人というか、この場で架達の戦いの真実を見ることができているのは自分だけだということをすっかり忘れていた。


 羨望術によって引き起こされる現象は、幟天使にしか見ることが敵わない。

 照は守護精を感じたことがないし、羨望術に覚醒してもいないが、戦場で起こっていることは全て見えている。

 クリアに見えているからこそ、普通の人間に何が見えないのか、その区別ができなくなっている。


 そして。

 困惑しているのがここにも三人。


「黒渦の奴……今ワープしなかったか?」

「う、うん」

「おにーさんの方は一人芝居が酷いのよ」

「ひ、一人芝居……」


 あんまりだ。

 架は手痛いダメージを負って確かに傷付いているのに。


「おい、お前は知ってるんだろ。流石のアタシも、あいつ等が巫山戯てる訳じゃないってのは分かる」

「そうなのよ? そういえば見えないだの言ってた気がするのよ」

「……、」


 話してしまっても良いのだろうか。

 話したところで見えるようになる訳でもなし、意味がないようにも思える。

 だが先日の一件を通して多少なりとも縮まった距離を、ここに来てまた広げてしまうのも気が引ける。


(架のことを思えば、全て包み隠さず話すべき。隠したところで私達にメリットもないし。ただ、理事長のことを考えると……)


 パラディース潜入時、清正の井戸のことを公にしなかったのは架達を特別扱いしていたからに他ならない。

 となると気がかりなのは、メイファン達とプリへーリヤの背後にいる母国だ。

 自分達の国ですらまともに信用できないのに、外国のことなんてもっと信用できない。

 何処の国にも悪巧みしている人物は必ずいる。

 無闇矢鱈と情報を垂れ流しにしていたら、理事長からの信用を失う可能性がある。

 照達はもう、日本という国の兵士なのだ。

 そんなつもりがなくとも責任が発生する。

 発言には十分注意する必要がある。


「秘密なのよ?」

「ま、デリケートな部分だろうからな。アタシ等じゃ上に伝える可能性もあるし?」

「め、メイファン」


 とりあえず、不老になるという部分だけは絶対に教えられない。

 羨望術についても詳しくは言えない。

 下手をすれば『昇華計画』が地球でも発足しかねないから。

 優太も蒸籠も、何も言わずに照の言葉を待ってくれている。


「私と架は、カルカソンヌでもう一人の自分……死神(トート)を手にかけた」

「「「!!」」」

「自分の死神を殺すと、羨望術っていう特別な力が使えるようになる。羨望術は、同じように自分の死神を殺した人間でないと見ることができない」


 考えた末、照は不老という部分を省いてほとんど話すことにした。

 メイファンとプリへーリヤは、それぞれが各国の最優秀生徒だ。

 国の意向を最優先に行動しているのだとしても、自分の目で見て自分の頭で考えることができる。

 それを伝えてしまったら何が起きるか、それくらいは分かってくれると信じた。


「じゃあ……括さんの話に出てきたコロッセウムの対戦相手というのは」

「十中八九、自分の死神達ね」

「……惨いのよ」

「確かにそりゃ、渡橋の野郎の甘っちょろい理想論とは相容れないわな。にしても、羨望術か。上が知ったら飛び上がって喜びそうな情報だなそりゃ」


 話したのは照だ。

 もしものことがあれば責任を取る覚悟はあった。

 照は暗い瞳でメイファンを睨み付ける。


「わーってるよ。言わないっての。今伝えたら、異界門が開いたときのためとか言って準備を整え始めるだろうしな。そしてその先陣に立たされるのはアタシらだ。面倒臭いことになるのは目に見えてる」

「私も似たようなものなのよ。優秀すぎるのも困りものなのよ」


 可愛く胸を張るプリへーリヤ。

 この体躯で国を代表する潜入部隊のリーダーを務めていたのだから分からない。

 まあ、照はガリミムスに乗ってブダ地下迷宮を進む彼女達を迎えに行ったとき、プリへーリヤの子供らしい一面を見ているのだが。


「ちなみに戦況はどんな感じなんだ? アタシには渡橋が苦戦してるってことくらいしか分からん」

「私も聞きたいのよ」

「わ、私も聞きたいです」


 私も俺もと優太と蒸籠が追随する。

 実況解説とまではいかなくとも、今何が起こっているのかをその都度伝えるくらいはできるかもしれない。

 照は両者の戦場に視線を移しつつ説明を始めた。


「架はいきなり現れた分身に隠し球を防がれて絶賛動揺中」

「ニンジャ!? ニンジャなのよ!?」

「さっき卑怯って言ってたのはそのことか。んで黒渦の方は? お前の話には出てこなかったが、あいつも羨望術を使えるんだろ」



「依衣の方は……なんていうか、ドカーンバリバリって感じ?」



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