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二人一役の調停者  作者: 襟端俊一
終章 最終日
94/100

「うっほーい!! 見て下さいよ! また渡橋君が戦いますよ! これはステキです!!」


 今日のために購入したばかりの望遠鏡を覗き込み、テンション急上昇中のアルマ・アカデミアを総括する理事長は、お前も見てみろとでも言わんばかりに秘書を手招きする。


「ファンですか貴女は……」

「いいえ。運動会で子供の活躍を期待する親です」


 そう胸を張って言われても、彼女の親心というのは歪みに歪みきっている。

 これを親心と言うのなら日本の児童相談所は軒並廃業に追い込まれるだろう。


「ほらほら、秘書さんも」

「はぁ」


 促されるままに覗き込む。

 丁度第一演習場の全体を見渡せる位置で、これなら渡橋架だけでなく黒渦依衣の戦いも観戦することができそうだ。

 まあ、理事長の興味は渡橋架なのだろうが。


「水無月姉妹は上手くやってくれましたね」

「元々、彼女達と渡橋君達の思想は相容れないものです。いつかぶつかるのであれば、早い内にぶつけてしまった方が良い」

「しかし渡橋君達が敗北した場合はどうするんです。第一部隊の結束が固いのは確かですが、中核にいるのは間違いなく渡橋君でしょう」

「どうしますかねぇ。そのときは渡橋君だけでも個別に動いてもらうか……別ルートから潜入させて合流させるか。いずれにせよ、使える駒を休ませるつもりはありませんけど。渡橋君に限らずね」


 パラディースで彼等がどんな経験をして無事に帰ってきたのか、理事長はその細かい経緯を知らない。

 カルカソンヌまで辿り着いて、無事に帰ってきただけでは足りなかった。

 渡橋架に関しては、復讐をやめてしまうという誤算こそあったものの、渡橋紡との戦いに勝利し、太いパイプを築いたことで別の可能性を見出した。

 理事長的には渡橋架の株はうなぎ登りだ。


 後は、仲間。

 仲間の存在は、渡橋架の腰巾着でしかないのか。

 はたまた、信頼の置ける戦友なのか。

 彼等の取った、一人ずつ交代で渡橋架の傍に付くという対策は、渡橋架のいない状況で彼女達がどこまで踏ん張れるかを知る絶好の機会となった。

 結果、彼等は踏ん張って見せた。


 まだまだ荒削りな部分や頼りない部分はあるが、決して渡橋架のワンマンチームではないことが分かった。

 彼等を遊軍として扱う条件は、ほぼ整ったと言って良いだろう。

 恐らく水無月姉妹との勝負に勝利した場合、彼等は潜入部隊から外されることになる。


「ところで秘書さん」

「はい?」



「水無月姉妹の仕込み。見破ったアカデミア生は何人でしたか?」



「……」


 前哨戦の時点で、水無月括は休み時間や訓練時間を利用して、ほぼ全てのアカデミア生に薬を打っていた。

 来るべき時が来たときのために操るため、そしてアルマ・アカデミアに潜むノイズをあぶり出すために。


 羨望術は幟天使にしか扱えない。

 羨望術によって引き起こされる現象は幟天使にしか目視することができない。

 つまり水無月括の仕込みを逃れた人物は、警戒心だけで看破した者以外、全てが幟天使ということになる。


「七人です」

「ふむ。多いのか少ないのか微妙な数ですねぇ。七人の国籍と、それぞれの関係性についてはどうですか? 信頼できない情報でも構いませんよ」

「四人は日本人ですね。異界門が開いていた期間を考えれば当たり前ですが。後はフランス、イギリス、ドイツ」

「欧州連合……あからさま過ぎですねぇ」

「はい。ですが個々の繋がりは薄そうです」


 パラディース発見までは順調に加盟国数も増え、それなりに結束も固くなっていた欧州連合も、今では個々の国の暴走が絶えず、今では形だけの連合となっている。

 中でもフランス、イギリス、ドイツは元々大国と呼ばれていたこともあって、それぞれが独自に動いている節がある。

 欧州連合の諜報員三人、と一括りにしてしまうのは早計だろう。


「そちらは放置で良いでしょう。伝わって困るような情報は一切開示していませんし、その子達が幟天使であれば隠す意味もない。問題は他の四人ですね」

「全員がアルマ・アカデミア創立当初から在籍しています。志望動機は……三人が拉致被害者の救出。一人はパラディース人を皆殺しにしたいから、だそうです」

「ほぉ。ステキです。有望な子が混じっているじゃないですか。恐らくその子だけは本音を口にしている」


 確かに。

 特定の誰かを助けたいならまだしも、拉致被害者を救出したいなんて優等生な志望動機よりは、渡橋架のように復讐と一言だけ書かれている方がよっぽど信じられる。

 理事長はこの一人に以前の渡橋架に似たものを感じ取ったのかもしれない。


「こちらから接触しますか?」

「いえ。餌は撒きましたし、後は食い付くのを待つのみです」


 この場合の餌は様々だ。

 入れ替え戦で挑戦権を勝ち取った有能なアカデミア生が分かった。

 水無月姉妹という幟天使の存在。

 自分達はあぶり出された、という自覚を持たせること。

 これから始まる第一演習場での勝負に至るまで。

 どれもこれも、あぶり出されたノイズの背後にいる人間を動かすには充分な餌となる。

 どの餌に引っ掛かるかで獲物も変わってくる。

 後はただ、待つのみ。


「というかですね。今は一観戦者として渡橋君の戦いを見たいんですよ! ムッハー!!」

「……、」


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