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二人一役の調停者  作者: 襟端俊一
終章 最終日
93/100

 翌日はとにかく体を休めた。

 早朝の訓練もやらずに、体力の回復に努めた。

 ただ、一日中暇をもてあましていた訳ではない。

 日曜ということもあって照達が訪ねてきてくれたのだ。

 さも当たり前のように堂々と第二男子寮の門をくぐる姿に、他のアカデミア生はテンションが上がったり呆気にとられたりと終始忙しそうだった。


 照と蒸籠がスタミナ料理を作ってくれる中、依衣はエプロンを羽織ったきり微動だにしなかった。

 その姿シュールすぎて優太のツボにはまって、何故か架まで折檻を受けることになった。

 優太許すまじ。


 六日目は朝練をこなした。

 あまり休みすぎても体には良くない。

 二日間たっぷり休んだ後では体を慣らすのに時間が掛かってしまう。

 休み明けに本番という流れにならないよう、敢えてこういうスケジュールを組んだ。


 もう枠を奪われる心配はないため皆には通常通り登校してもらったが、明日はサボって応援に来てくれるらしい。

 もしも架が負けて復讐権を使うことになったら、照、或いは勝負が付いていれば依衣に任せる事になるだろう。


 そして、入れ替え戦七日目。

 架達は水無月括の指示通り、第一演習場にやって来た。

 何処かで見ていたであろう理事長が架達の戦いを大袈裟に吹聴することもなく、見知った顔ぶれしかこの場には集まっていない。


 一緒に話を聞いていたメイファンとプリへーリヤ。

 後で話を聞いた蒸籠とファリン。

 架、依衣、照、優太。

 計八人。


 対して、向こうは水無月姉妹の二人。

 一方はこの前と同じ制服の上に白衣を羽織った括。

 相変わらず髪はボサボサで、もはや手入れしたら負けとでも言わんばかりだ。

 皆の視線を釘付けにしているのは、やはりもう一方。

 水無月括の妹――水無月悟。


 姉とは正反対に髪は綺麗なアシンメトリーにカットされている。

 寝癖もない。薄く化粧もしており、これだけで括の溺愛っぷりが窺える。

 両手両足には義肢を装着していて、自身は車いすに腰掛けている。

 これらの知識に疎かった架は、事前にネットで義肢について調べていた。


 義手も義足も、何処まで失ったか、用途によってかなり変わってくるらしく、水無月悟がどのような状態なのかが分からないため全てを把握するには至らなかったが、ある程度予想は付いた。

 彼女はこれから戦闘を行う。

 恐らく、神経に直接電極を接続して義肢を自在に操作するタイプのはずだ。


(それでも、戦えるのかって考えると疑問だ。両足を失っても走れる人はいる。けど両腕まで失っていたらそもそも立ち上がれないんじゃないか……? 立つときは括に補助してもらっても、戦闘中に倒れたらそれで終わりだぞ)


 事実、水無月悟はここに来るまでの移動に車いすを用いている。

 戦えるほど自由に義肢を扱えるのなら、立って歩くことなど容易いだろうに。

 負担が掛かるから温存しているということだろうか。


 だが何よりも印象的なのは……あの虚ろな瞳だ。

 達観している、というレベルではない。

 同じ場所に立っているのに、彼女だけが全く別の景色を見ている。

 同じ思いを抱きながら、正反対の道を選んだ架と彼女の距離を暗示しているかのよう。


(やばいかもな……色んな意味で)


 渡橋紡とは因縁があった。

 切っても切れない縁があった。

 しかし、水無月姉妹と架は完全に赤の他人だ。

 和解への道は険しい。


「黒渦さん、渡橋さん。前に出てきてん」


 言われた通り皆から離れ、架と依衣が歩き進む。

 正確には、架が悟の正面に、依衣が括の正面に立つ。

 括は小さな木の棒で地面に線を引きながら、


「これが戦場の境界線よん。ここから東が私と黒渦さんの戦場。西側が悟ちゃんと渡橋さんの戦場。曖昧だし特にペナルティを設けるつもりはないけどん。ここを越えたら巻き添えを食ってもやむなしよねん?」


 入れ替え戦は基本、一騎打ち。

 復讐権の行使以外では勝負に干渉することはできない。

 しかしこれなら、例えば架が東側に吹っ飛ばされたりした場合、括から攻撃を受けてもルール違反にはならない。

 予めこれを想定した戦術を組んでいるのか、ただの忠告なのか。

 いずれにせよ、水無月悟に戦う力があることは確かなようだ。


「それじゃあ、ここからは各自で始めるとしましょうねん。渡橋さん、悪いけど悟ちゃんを連れて行って上げてくれるかしらん」

「え? ……まあ、良いけど」


 戦う相手を架が連れて行く。

 これで括が悟を補助する線も消えた。

 架は既に水無月姉妹のペースに呑まれているのかもしれない。


「よろしく」

「あ、ああ」


 後方に付いているグリップ部分を持ってゆっくりと押してあげる。

 括に押されて登場したときも思ったが、やはり手押し型の車いす。

 電動式でもないので、この車いすに何か仕込みがある訳ではなさそうだ。


「……? 何か、良い香りがするな。香水でも付けてる?」

「知らない。身嗜みは全てグロ姉に任せている」

 酷い言われようだった。


「質問しても?」

「それは、勿論」


 まさか彼女の方から会話のきっかけを作ってくれるとは思わなかった。

 架は二つ返事で了承する。


「私も姉も、本当は貴方の気持ちが分かる」

「!」

「でも同様に、貴方も私達の気持ちが分かるはず」


 的確に痛いところを突いてくる。

 この問いには、どっちが正しいなんて答えはない。

 思想、感情面、全てが終わった後のメリット。

 そういった面から損得を決めることはできても、正解は存在しない。


(参ったな。こういうときの一番単純な和解方法を忘れてた)

 向こうの戦場と充分距離を取り、凹凸のない地面を選んで車いすを止める。


「私は引かない」

「俺も引かない」

 悟を横切って歩き進み、振り返る。


「それなら」

「だから」



「戦うしかない」「戦うしかないな」



 勝った方が正義。

 負けた方が素直に折れる。

 これは至って普通の、世の中にありふれた――そういう、戦い。


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