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二人一役の調停者  作者: 襟端俊一
第五章 四日目
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 そこからは総力戦だった。

 依衣も優太も、唐突に現れたプリへーリヤも。

 無闇に傷付けてはならないという架達の意図を分かっていて、殺傷力の低い攻撃で以て相手を圧倒することに尽力してくれた。

 皆には余計な体力を使わせることになるが、これだけ揃っていれば話は変わってくる。


 この前、披露しようとしていた鉄扇術で華麗にアカデミア生を薙ぎ倒す依衣。

 クレイモアを平で叩きつけることで圧倒的な打撃を実現させる優太。

 そして意外や意外、プリへーリヤはその小さな体躯を利用した鮮やかな格闘術で迫り来るアカデミア生を翻弄している。

 呆れた照が話しかけてくる


「敵の敵は味方ってこと? どいつもこいつも調子良いんだから」

「守りきって見せるのよー!!」

「……ま、良いんじゃないか。いつまでもいがみ合ってる訳にもいかないし」


 息の合ったコンビネーションで架と照が数を減らしていく。

 そこにいつの間にか近寄っていた依衣がさりげなく会話に入ってくる。


「ふふ、何処からどう見てもお似合いのカップルね」

「んな――と、突然出てきて何言って」

「でも良いのかしら。古賀先輩が見てる前で」

「!?」


 それを言われて辛いのは架だ。

 何せ優太の目の前で架は照にキスしてしまったのだから。

 もしも照が抱いている感情が恋愛感情だとしたら、埋め合わせどころの話ではなくなってしまう。


「ごめん……照……」

「何だ? また架がキスでもしたのか」

「何で架があやま……って優太も突然出てくるんじゃないわよ!! 違う、違うから!!」


 誰一人として、この戦いに不安を抱いている者などいなかった。

 巫山戯ている余裕があるのではない。

 巫山戯ているからこそ余裕が生まれているのだ。

 仲間というのは、多ければ多いほど頼もしい。

 架は心の底から思い知ることになった。

 ただ、一人足りないのが気になる。


「蒸籠はどうしたんだ? ――っと!」

「ああ、ファリンだっけ? 俺達はあの子が目を覚ますまで待って、そんで事情を聞いてここまで来たんだけどよ。ファリンの体調はまだ万全じゃなくてさ。蒸籠が残ることになったんだ」

「まあ蒸籠の性格を考えれば――、戦いより残る方を選ぶだろうけど。それだけじゃないわねきっと」


 第一部隊のメンバーの中で、蒸籠だけは最初から最後まで他の部隊との和解したいと願っていた。

 良い機会だと思ったのだろう。


「そうね。それだけと、そしてそれだけじゃないでしょうね」

「あー……」

「?」


 依衣の言葉に首を傾げる架。

 照は何となく理解しているようだが。


「ま、気にすんな。俺等は俺等で――らァ!! やれることをやるとしようぜ」

「そうだな」


 先の見えなかった戦いにもようやく終わりが見えてきた。

 アカデミア生とアカデミア生の間にアカデミア生。

 そんな光景しか見えていなかった訳だが、一瞬、遂に踏み倒された草むらが視界に入ったのだ。

 全てのアカデミア生を倒すまで、後少し。

 架達四人の中にプリへーリヤまで加わって、互いが互いをフォローしながら残るアカデミア生を殲滅していく。

 そして。


「あんたで――最後よ!!」


 照のレイピアの柄頭による痛烈な打撃がアカデミア生のこめかみに直撃する。

 体勢を崩して横に倒れていく。

 終わった。

 全員が大きく息を吐いて獲物を仕舞う。


「やったのよー!!」

「あ、暑苦しいわ……」


 プリへーリヤが依衣に飛びつく。

 そういえば、ブダ地下迷宮から直接他の部隊を救い出したのは依衣だった。

 その分プリへーリヤにとって依衣は特別な存在になっているのかもしれない。


「照」

「ん」


 軽くハイタッチを交わす。

 それを見て何故かウンウンと頷く優太。

 何か勘違いしているようなので優太にもハイタッチをしてやる。顔面に。


「ほぶ!?」

「さて……プリへーリヤちゃん。聞きたいことがあるんだけど」

「はわ! そ、そうだったのよ。こっち、みんな早く来るのよ!」


 プリへーリヤは腕で豪快に手招きして架達を促してくる。

 導かれるまま踏み荒らされた草むらを抜け、背の高い雑草の密集地帯に足を踏み入れる。

 見つけた。

 見つけたが……、


「「「「「?」」」」」


 皆が疑問符を浮かべたのは、メイファンが未だ目一杯姿勢を低くしてうつ伏せになっていたからだ。

 彼女を脅かしていた何千人ものアカデミア生は全て倒れた。

 危険は去ったというのに。


「ほら、起きるのよ! みんな貴女を助けてくれたのよ」

「態々連れてくるとか阿保め……どんな顔して会えってんだ……っ」

「何かぶつぶつと言ってるみたいだけれど。架先輩? なんて言ったのか聞こえた?」


 依衣はリスクによって失われつつある聴覚を補聴器で補っている。本当に聞こえなかった可能性もあるが、


(この顔は聞こえてて面白がってるだけだな……)


 個人的にお見舞いに行ったりと、既に交流のある依衣はともかく、照と優太は気まずそうにしている。

 架もあのときは復讐しか見えていなかったので、それについて弁明したい気持ちもある。


 だがここで謝ってしまうのが日本人の悪い癖だ。

 少なくとも、先に謝るべきは向こう。

 その自覚がないのなら、この先の道が彼女と交わることはない。


「くっ……揃いも揃って見下ろしやがって」


 そう言いながらもメイファンは諦めたように息を吐いて、目を瞑ったまま松葉杖で立ち上がった。

 架も照も優太も覚悟していた。

 あのときのような決裂を。

 ところが。


「悪かったよ。……色々と」


 細目を開けて、誰にも視線を合わせず、そっぽを向いて。

 メイファンは謝罪の言葉を口にしてくれた。

 これで架達も呑み込んでいた言葉を言うことができる。


「俺達も、ごめんな。あのときは周りが見えてなかった」

「そうね。もう少しやりようがあったかもしれない」

「……だな」


 銃口を向けられても、冷静に、寛容な態度でもって皆に説明していれば。

 犠牲なんて必要ないと教えていれば。

 分かってくれたかもしれない。

 それだけはこちらの落ち度だ。


「や、やめろ! テメェ等に謝られたらアタシ等が惨めになるだろうが! これだから日本人は……!!」

「仕方ないわ。良くも悪くも国民性だもの」

「損な国民性なのよ」


 プリへーリヤが肩をすくめて首を左右に振る。

 子供の体躯でやるには似合わなすぎて、架達は思わず吹き出してしまった。

 何故笑われているのか気付いていないところも可愛い。


「そういや、ファリンは? お前等に助けを求めたのはあいつだろ」

「ああ、あの子なら」

「架先輩に骨抜きにされて未だ余韻に浸っている最中よ」

「テメェ、ファリンに何しやがった!!」

 松葉杖の先端を突き付けられる。


「ご、誤解だよ。何かよく分からない薬を飲まされたみたいで」

「薬ぃ?」



「それについては私が説明するわん」



 戦いの緊張は解け、場の雰囲気は日常へと近付いていた。

 それだけに、衝撃だった。


 忽然と姿を現した、アルマ・アカデミアの制服の上に白衣を羽織った少女。

 髪はボサボサで、所々寝癖が残っている。

 眼鏡をかけている彼女の顔。

 初めて見るはずの彼女と視線が交錯した瞬間、架は思い出した。


「君は……俺に差し入れをくれた……?」


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