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二人一役の調停者  作者: 襟端俊一
第五章 四日目
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 かつて隔雲亭と呼ばれた茶室の跡地。

 そこは渡橋架と襲撃者が死闘を繰り広げた第二演習場の真東にあり、西の菖蒲田と第二演習場に挟まれている。

 特に何の施設も建てられていない草むらで、一応無人タクシーの路線も通っているが、繋がっているのは校舎方面ではなく駅にも近い南参道方面だ。


 これは別にこの場所が特別という訳ではなく、無人タクシーの路線は至る所に張り巡らされている。

 無駄に伐採した森や無駄に破壊したかつての明治神宮の施設の代わりがこれでは、批判されるのも仕方がないと言えよう。

 ただし、絶賛逃亡中の第四部隊のメンバー、メイファン達にとっては、隠れんぼに最適な場所がてんこ盛りなことは非常に有り難いと言わざるを得ない。


「くそっ……何でこの時代に原始人みたいな生活しなきゃなんないんだ。おいファリン、風呂入らせろ」

「む、無茶言わないで」


 骨折しているメイファンをサポートしながら五人で逃亡生活を続けていたが、一人、また一人と見つかっては勝負を挑まれ、数人を返り討ちにするも遂には二人になってしまった。

 入れ替わったのが三人とも同胞だったとはいえ、前の三人はメイファンが選び抜いた信頼できるメンバー達だ。新しい面子と上手くやっていける保証は何処にもない。

 だからって、自分のために見つかってしまったような彼女達の気持ちを無視して、勝負から下りるなんて馬鹿な真似もできない。


「にしても……あの理事長、吹かしやがって。挑戦権を持ってるのが二人? だったらあいつ等は何だってのよ」


 昨晩あった、途中経過を知らせる放送。

 現場に居る自分達からすればちゃんちゃらおかしい話だった。

 草むらに伏せて隠れているメイファン達の五十メートルほど前方。そこでは複数のアカデミア生がウロウロと動き回っている。

 あれは警察が集団で現場検証しているに等しい。

 この隠れ場所も余り長くは持たなそうだ。


 ここ数日、メイファン達はずっと彼等に追われ続けている。

 そしてあの中に紛れている挑戦権を持つアカデミア生に散々やられてきたのだ。

 一度は撒いたものの、ここに来てまた嗅ぎつけられてしまった。


「理事長に情報を提供されてるんじゃないだろうな……」

「でも、それならとっくに私達も見つかってそう」

「……ふん。どちらにせよ、黒渦が言ってたような暗躍してる奴がいるのは確かだ」


 アルマ・アカデミアは広い。

 逃亡中の人間を探すのに人海戦術は効率的だ。

 ただ、明日も普通に授業がある中、あれだけの数のアカデミア生が平然とサボって特定のアカデミア生に協力するのはどう考えてもおかしい。

 余程魅力的な餌でもちらつかされたか、或いはパウルのような不可思議な力で惑わされているかだ。


「あ、離れていくよ」

「……ふぅ。どうにか助かったか」


 正直、草むらの中とは言えここは雑草の背が高く、他よりも遙かに隠れ場所として適している。離れるのはあまりにももったいないので助かった。これで交代で睡眠を取るくらいはできそうだ。

 と、その前に。


「良し……行ったな。ちょっと見てくる」

「え? わ、私も行く」


 大勢のアカデミア生に踏み荒らされた草むらに近付く。

 彼等がメイファン達ではなく別の何かを探していたのなら、手掛かりが残されていないかと思ったのだ。


「ま、そう簡単に尻尾は見せないわな」


 適当に調べる範囲をファリンと役割分担して、青々とした草のカーペットを隅々まで観察するも、これといったものは何一つ見つからない。

 むしろ潰れた昆虫が視界に入ってしまって気分を害してしまった。


「ね、ねぇメイファン。これ……」

「あん?」


 ファリンの指し示す箇所を見る。

 そこは踏み倒された草むらと踏み倒されずに生還した草むらの境界線で、一見すると特に何もないように見えるが、



「……ケツ?」



 そう。

 ケツである。

 何者かの、少なくとも女生徒のものであろうケツが、ケツだけが見えている。


「草むらの下に穴掘って隠れてる……つもりなんだろうが」


 丁度彼女のケツ辺りの草むらが踏み倒されてしまったために、情けなくもケツだけ晒すことになった。

 黒のタイツ越しにうっすらと下着まで確認できる。

 本人はまだ気付かれていないと思っているのだろう。

 メイファンはそのケツに容赦なく蹴りを入れた。


「酷い!?」

「良い具合にケツだけ出てたら蹴り飛ばしたくなるだろ。……お、出てきたな」


 尻を押さえながらバックし、メイファンの足に自らぶつかってようやく事態を把握したようで。

 メイファンとファリンを見るや否や、被っていた独特な形状の帽子を落として慌て始めた。


「お前……ロシアチームのちびっ子リーダーじゃないか」


 同胞以外で顔を覚えているアカデミア生は限られる。

 第一陣として選ばれた潜入部隊の面々、特にそれらをまとめるリーダーに関してはある程度の情報を持っている。

 特にロシアチームのこの少女は、黒渦依衣に救われた際、大粒の涙を流していたので一際印象に残っていた。


 一人ここに隠れていた理由は、昨晩の途中経過を思い返せば察しが付く。

 彼女があのアカデミア生達を引き連れてきたのなら、新しい情報が手に入るかもしれない。


「おい、お前どういう経緯でこんな所に……、ああ? 何だって?」


 彼女もメイファン達の顔は覚えているようで、即座に敵ではないと判断してくれたのは良かったのだが、早口のロシア語では何を言ってるのかさっぱりだった。

 そもそもメイファン達はロシア語が達者ではない。


「だー!! 何言ってるか分かんないって! ニホンゴハハナセマスカー!」

「わ、忘れてたのよ! ニホンゴ、ラードナラードナ」


 結局アルマ・アカデミアにおける共通言語を介して、何とか意思疎通を図ることができた。


「私の名前はプリへーリヤなのよ」

「知ってるよ。呼びにくいからプリケツで良いな」

「め、メイファン!」

「? よく分からないのよ。でも可愛い渾名なので許すのよ」

「……、」


 どうやらプリケツの意味が分かっていないらしい。

 面白いのでこのまま定着させることにしよう。


「それで、お前が一人隠れてた理由は昨晩の途中経過の通りか?」

「タークターク。私以外、第三部隊は入れ替わってしまったのよ」

「……一応、虚偽情報を垂れ流してる訳じゃないみたいだな。だとすると、天下のアメリカさんが全取っ替えって情報もマジなのか? 何やってんだ一体」


 第一陣に選ばれた国のアカデミア生は層が厚い。

 無傷で枠を守りきっている第一部隊のような所もある中、全員が枠を奪われたというのは笑い話にもならない。


「あ、それ知ってるのよ。私が仕入れた情報によると、アメリカは色んなアカデミア生を試したいのよ」

「つまり国の方針に従って交代しただけか。まあ……仕方ないんだろうな」


 前回の体たらくを鑑みれば、アメリカという大国がその決断に至ったことも分かる。

 第一部隊以外は、実質捕まっただけで足を引っ張ったようなもの。

 恐らく本人達は納得していないだろうが、国の方針が絶対なのはメイファン達も同様だ。

 納得できなくても納得せざるを得ないこともある。


「貴女方はこれからどうするのよ? 迷惑でなければ一緒に行動したいのよ」

「……アタシはこの通り、見つかった瞬間にアウトだ。それでも付いてくるか? ぶっちゃけ的が増えるだけで大してメリットはないぞ」


 草むらに染められて緑色に染まったギプスを見せて言う。

 プリへーリヤは見たところ大きな怪我も負っていない。

 パラディースで負った傷も癒えているようだし、一人で行動する方がこの先逃げ切れる可能性が高い。


「一人より二人。二人より三人が良いのよ」

「ガキめ。心細いだけかよ……ったく。仕方ないな」


 ファリンに目配せするも、当然彼女が不平不満を漏らすはずもなく。

 こうしてメイファン達は一時的に同盟を組むことになった。


「せっかく頭数が増えたんだ。交代で休もう。私が見張っててやるから、お前等は先に睡眠を取っておけ」


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