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二人一役の調停者  作者: 襟端俊一
第五章 四日目
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「おっす。やってるわね」


 第二男子寮の門越しに照が手を振っている。

 架は途中だった素振りを途中で切り上げ、すぐさま叢雨を鞘に納めて照を迎え入れた。

 部屋に戻って一緒に簡単な朝食を作り、互いに料理の腕を褒め称えて麦茶で一服。


「はぁ。朝から食べ過ぎちゃったかも」

「俺なんてここ最近ずっとそんな感じだよ。それもこれも料理が美味しいせいだ」

「そ、そう? ありがと」


 照は頬を掻いて視線を逸らした。

 そういえば、蒸籠の作るお弁当は散々褒めちぎってきたが、照の作る料理を褒めたことは一度も無い。

 というか、照の手料理を食べたことがないと言った方が正しいか。


「ところで、昨晩の件なんだけど」

「うん? そこ蒸し返す?」

「勿論。優太の方は蒸籠と依衣が追及してるはずよ」

「何度も釈明したけど、あれは俺達を陥れるための罠だよ。そうやって互いに疑念を抱かせるのが罠を仕掛けた奴の思うつぼだぞ。仲違いを狙っているところからも、多分俺を嵌めた奴と同一人物だろうな」

「随分と口が回るわね」

「前もって言い訳を考えておいた」

「「……ぷっ」」


 暫しの間睨み合った後、ほとんど同時に吹き出すことになった。

 照も真剣に疑っていた訳ではない。

 何事もなかったかのように見過ごせるほど小さなことでもなかったから、恒例として疑ってみただけだ。

 きっと依衣も同じで、本気で疑っているのは蒸籠くらいのはず。


「やっぱり、そういう趣味がある訳じゃないのね。安心したやら残念なような……」

「残念って何だよ!」

 まるで架に特殊な趣味があった方が良かったと言っているように聞こえる。


「ほら、世の中には依衣みたいな女の子もいるわけじゃない? 幟天使とか関係なくて、外見的に幼いって意味で。大人になっても子供料金的な」

「滅多にいない気がするけど、まあいるよな」

「そういう見た目が好みの男を全否定してたら、惚れられた女の子の方が可哀想だと思うのよね。依衣にだって恋愛する権利くらいあるはずだし」

「……そうだな。確かに、依衣の恋人イコール変態って決めつけられるのは酷い話だ」


 外見年齢が幼いからって色々言われるのは男側も女側も気分が悪いだろう。

 それを理由にして恋愛に踏み切れないような人達はきっといる。


「でしょ? だから私は、あんたや優太が小さい子を好きになっても別に軽蔑したりしないからね。相手が本物の小学生とかじゃない限り応援もする」

「はは、分かったよ。もしそんな趣味に目覚めたら、真っ先に照に相談する」


 今のところそんな兆候は全くないが。

 もしこの先そういった女性と恋人同士になったとしても、それは恐らく外見に惹かれたのではなく、内面や纏っている雰囲気に惹かれた結果なのだと思う。


「さて、そろそろ本題に入るか」


 麦茶を一気飲みして表情を引き締める。

 今日は蒸籠の時のように部屋に引きこもって談笑して一日を終えるつもりはないのだ。


「昨晩の放送ね。勿論頭に入って」

「いや、そっちは後回し。初日の件について、俺はどうしても照に埋め合わせをしなくちゃ気が済まない」

「へ? ……へぇぇ!?」


 わざわざ蒸し返す必要はないかもしれない。

 もしかしたらこの話題が出る事自体嫌かもしれない。

 だが依衣に埋め合わせの話をして、照にだけしないというのはやはり駄目だ。


「実は依衣にもこの話はしててさ。それで埋め合わせの機会をもらって……。勿論一番怒ってたのは照だし埋め合わせできるとも思ってない。ただせめて何か……させてほしい」

「突然何言い出すのかと思ったら……そういうことね。ちなみに依衣はどんな埋め合わせ方法を提案してきたの?」

「そ、それは」


 無意識とはいえファーストキスを奪った埋め合わせ。

 照としても、依衣がどういう形で架に埋め合わせさせたのか気になっても不思議はない。

 流石に軽々しく喋る訳にはいかないが。


「言えない、けど。依衣らしいっていうか……うん。斜め上の提案だったよ」

「あ、分かった。もう一回キスしてって言われたんでしょ」

「!? あい――っつ」


 驚いた拍子に膝をテーブルにぶつけてしまった。

 幟天使になってもこう言った痛みには耐性が付かないらしい。


「あははは! 優太の言ってたことが分かった気がする。架を焦らせるのってちょっと爽快ね」

「あのな……。というか、なんで分かったんだよ」

「ピンと来ただけよ。それで……架はもしかしなくても、私に期待してた?」

「な、何を」

「もう一回キスしてって言われるんじゃないかって。何たって私はあんたの初恋の相手だもんね~」


 巡り巡って優太に殺意がわいた。

 優太に伝えた通り、初恋云々は既に終わった話。

 別に、誰かに口外されても良かった。

 それがまさか、初恋の相手本人にからかわれることになろうとは。

 滅多なことは言うものじゃない。


「ま、架を苛めるのはこれくらいにして。私は保留ってことにしとくかな」

「保留?」

「今はまだ架にして欲しいことなんてないから。何たってファーストキスの代償よ? 一回二回奢ってもらったくらいじゃもったいないし。あ、驕りフリーパスとか?」


 一生パトロン宣告。

 依衣にも言った通り、流石に金銭面では限界がある。


「嘘嘘、冗談よ。とにかく保留ってことで」

「分かった。また切り出すのも辛いし、そのまま忘れたりしないでくれよ」


 初恋の件も含めて、何だかとんでもない足枷をはめられた気がしないでもないが、それくらいで丁度良いのだ。

 架はそれだけのことをしたのだから。


「それじゃ、今度こそ真の本題に入りましょうか。昨日聞いた途中経過を踏まえた上で、今日の私達はどう動くべきなのかをね」


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