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二人一役の調停者  作者: 襟端俊一
第四章 三日目
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 第二男子寮の庭では、息を切らした優太が大の字になって倒れていた。

 そんな優太を見下ろしているのは、膝を突きながら息を荒くする架。

 両者は手合わせという形で戦いはしたものの、その疲労度は見るからに違う。

 原因は優太がクレイモアを何千回と振り回し続けたことにある。


 架は基本、その攻撃を見極めて反撃に移るカウンタータイプ。

 両手剣を振るい続けた優太と、攻撃を回避し続けた架。

 どちらがより疲れるかは言うまでもない。


「ハァッ……ハァッ……くそ。結局これ、架に稽古つけてもらっただけじゃねぇか……」

「はは、は……やっと気付いたのか……馬鹿め……」


 かくいう架も、優太の想像以上のタフネスに心身共に疲れ果てていた。

 幟天使ゼーラフに昇華したことで架の身体能力は飛躍的に向上しているのに、それに付いてくるどころか凌駕されてしまうなんて。

 最後の方はがむしゃらに振り回してくるだけだったので避けるのは簡単だったが、途中までは本当に気の抜けない攻防が続いた。

 こんなに身になる手合わせは架も初めてだ。


「架~……今何時だ~……?」

「午後七時過ぎ。早ければもうすぐ照達が来るな」

「しゃーねぇ、起きるか……っと」


 フラフラになりながらもどうにか体を起き上がらせた優太と一緒に、架は部屋に戻った。

 とにかく水分が欲しい。

 すぐさまコップに氷を入れて麦茶を注ぎ入れるが、優太に横から掻っ攫われてしまった。


「くぅ~!! 染み渡るぜ……っ」

「……、」


 架が優太の暴挙を咎めなかったのは、他のことに意識を逸らされていたからだ。

 二段ベッドの下。

 架が寝ているのは上なので、正確には優太のベッドの下。

 そこにうっすらと何かが顔を出していた。

 ほとんど影に覆われていて見えないが、あれは恐らく雑誌の角だ。


 優太は漫画雑誌を定期的に購入しているので別段それ自体はおかしくない。

 ただ、あれは漫画雑誌と言うより妖しい方向性の雑誌に見える。

 不審に思った架はもう一杯麦茶を入れる前にベッドに近づき、顔を出していた雑誌を引っ張り出した。


(こ、これは……)


 辛うじて。

 辛うじてアダルトな本ではない。

 しかし、ある意味これはそれ以上の危険物だ。

 アイドルの写真集……ならまだ良かった。

 この雑誌に載っているアイドルは、いわゆるジュニアアイドルと呼ばれる低年齢の少女達。

 そんな写真満載のこの雑誌は、男子高校生にしてみれば核爆弾に等しいもので。

 手に持っているだけで震えが来る。


「架? 何固まってるんだよ」

「優太……正直に言ってくれ。これは何だ?」


 親友として、同じ男として。

 架はあくまで冷静に、自分は味方だという意思表示も含めて生温かい目で優太に訴えかけた。


「な――何じゃそりゃ!? 知らん、俺は知らんぞ!」

「……」

「本当だって!! つーかもしそんな爆弾抱えてたらもっと厳重に保管してるっての!! 間違ってもベッドの下なんてベタな場所に隠したりしねぇよ!」


 まあ、確かにそれは言えてるかもしれないが。

 事実、二人部屋でこんなものが出てきたのだから、必然的に持ち主は架か優太のどちらかということになる。

 そして架は買った覚えがない。


「待てよ……、架、なんじゃねぇか?」

「は?」

「だってさ。黒渦とキスしたんだろ?」

「何故それを!?」


 あの埋め合わせの件についてはまだ誰にも話していない。

 依衣だっておいそれと話したりはしないはず。

 よりにもよって優太がそれを知っているなんてことはあり得ない。


「いや、架が一服盛られたときのことだけど。……え? あれとは別に、したのか?」

「……あ、ああ、そういうことか。はは、そ、そんな訳ないだろ」


 我ながら間抜けすぎる誤魔化し方だった。

 どうも架自身、自分の部屋でこんな爆弾が見つかったことに焦っていたらしい。

 ここはお互い冷静になるべきだ。


「コホン。とりあえず、俺は優太の言うことを信じる。だから優太も俺のことは信じてくれ。その上で話そう」

「お、おう。疑いが晴れたんならまあ良いけど」


 何とか二度目のキスから意識が逸れてくれた。

 話を蒸し返されないためにも、架は立て続けに自分の考えを捲し立てる。


「俺達に身に覚えがないってことは、何者かが部屋に忍び込んでこれを置いていったか、或いは俺が正気を失ってたときに置いていったかになる。ただまあ、後者はまずないと言って良いと思う」

「何でだ?」

「どういう薬を盛られたのか分からないから何とも言えないけど、俺の行動は一貫してたんだろ? 一つだけ別の行動を織り交ぜるってのは考えにくい。意のままに操れるのならもっとやりようがあるだろうしな」


 架達の仲違いを狙うのなら、もっと決定的な……エグイやり方がいくらでも思いつく。

 敢えてしなかった可能性もあるが、潜入部隊に取って代わろうとしているようなアカデミア生がその辺を考慮するとは思えない。


「じゃあ誰かが部屋に忍び込んだってことか。最近はほとんど架が家にいるし、俺達がパラディースに向かう前……いや、向かった直後?」

「そうだろうな。腕章を十枚集める前哨戦中に、入れ替え戦本戦のことまで考えてた奴がいたんだ。今まで気付かなかった俺達も俺達だけど」

「つーか、ぶっちゃけ幸運だったよな。昨日の夜とかに見つかってたら」

「全くだよ。俺なんて二人きりの時間があったんだぞ。そのときに見つかってたらと思うとゾッとする……」

「た、確かに。でもまあ、こうして俺達二人だけの時に見つかったんだ。後は処分するだけで万事解」


 そう優太が言いかけた直後。

 唐突に部屋の扉が開け放たれた。


 架と優太は共にあぐらをかいており、問題のブツは両者の間に置かれている。

 ついでに言うと架達は扉に背を向けておらず、扉を通ってきた人間からは二人の間に置かれたブツが丸見えの状態にある。

 つまり。

 万事休す。



「「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」」



 架と優太の絶叫デュエットが響き渡った頃。

 時を同じくして、入れ替え戦の途中経過を伝える校内放送が、アルマ・アカデミア全域に向けて発表された。


『ピンポンパンポーン。こんばんは、愛する我がアカデミア生諸君。理事長です。突然ですが、ここで入れ替え戦の途中経過を発表します。本来なら四日目……丁度折り返し地点に発表するつもりでしたが、想像以上に早く決着が付いてしまいそうなので急遽発表せざるを得なくなってしまいました。では早速。現在、潜入部隊の中で全ての枠を守りきっている部隊は第一部隊のみ。第二部隊は全ての枠が入れ替わりました。第三部隊は一人を残して四人が入れ替わり、第四部隊は二人を残して三人が入れ替わっています。続けて挑戦権を持つアカデミア生についてですが、こちらも既に残り二人と後がありませんね。これで残る枠は第一部隊の五枠に第三部隊の一枠、第四部隊の二枠の計八枠ということになります。残り四日、一層気を引き締めて頑張って下さいね』


「「「「「……」」」」」

 様々な情報が脳内を行き交う中、最初に口を開いたのは依衣だった。



「嬉しいわ。先輩達はそっち側だったのね」



「「何の話!?」」


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