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二人一役の調停者  作者: 襟端俊一
第四章 三日目
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 一方。

 平常通り登校した依衣、照、蒸籠の女子三人組は、人気のなくなった第二校舎の校門前で朝っぱらから勝負を挑まれて、ほとんど使われることがない保健室に連行されていた。

 相手は一人。

 このアルマ・アカデミアで圧倒的な知名度を誇る彼女の名は、金剛猫目こんごうねこめと言う。


(もっとも、それは日本人に限ったことだけれど)


 何を隠そう、金剛猫目はアルマ・アカデミアに通う傍ら、現役高校生モデルとしてモデル業をこなしているのだ。

 つまりアカデミア生とモデル、二足のわらじを履く少女ということになる。


 依衣は照から聞くまで知らなかったが、どうもファッション誌などではお馴染みの顔らしい。確かにこうして見てみると、男の目線を釘付けにしそうな顔とスタイルを維持しているのが分かる。

 さて。

 そんな彼女は一体どんな勝負を挑もうというのか。


「あんたが挑戦権を獲得してくるとはね」

「協力的な男子が多くて助かりました」

「うわぁ……あはは」


 珍しい。蒸籠が苦笑いを浮かべて引いている。

 挑戦権たる腕章の集め方は基本的に自由。

 猫目は自分の知名度と魅力を武器にして見事挑戦権を手にした。

 アルマ・アカデミアに通う男子は、その目的もあって普通の男子学生よりも真面目というか、煩悩は少ないはず。

 そんな彼等を協力的にする彼女の武器は、ある意味剣や槍よりも鋭利なのかもしれない。


「それでは、早速勝負方法を説明しますね」

「まあ良いけどさ。仮に枠を取ったとしても、あんたモデル業で忙しいでしょ。スケジュール合わないとか言ってドタキャンするんじゃないの?」

「はい?」

 空気と、そして猫目の表情と態度が一変した。



「んなもん、こっちを優先するに決まってんだろうが!!」



(((こわっ)))


 どうやら猫を被っていたようだ。

 言葉遣いが丁寧なときは仕事、或いは男性向けで、たった今見せたヤンキーみたいな態度が本性。

 眉間にしわを寄せ、制服のポケットに手を入れてガンを飛ばす。

 同じ女の依衣が言うのも何だが、女というのは恐ろしい。

 ただまあ、今のは照が悪い。


「尖堂先輩。興味本位で入学するような人間ならとっくにふるい落とされているわ。彼女もまた、彼女なりの理由があるのでしょうね」

「……悪かったわよ」


 これまでの勝負や、自分達のことを省みたのか、照は素直に謝罪した。

 猫目も喧嘩腰だった態度を改め、

「コホン。チームメイトになるかもしれないのに、これじゃあ幸先不安ですわね」

「それって……私か依衣ちゃんに挑むつもりってこと、かな?」


 自分が挑まれる可能性がグッと上がったことで、蒸籠は目に見えて顔を強張らせた。

 もしも蒸籠だとしたら、これが蒸籠にとっての入れ替え戦の初戦と言うことになる。

 復讐権があるとはいえ緊張するのも無理はないだろう。


「えぇ。ですがその前に、貴女達には今日の予定を伝えておきます」

「予定……?」


 こうして登校したのだから、途中で勝負というイレギュラーが発生するとしても、普通に授業に出て戦闘訓練を終えて帰路につくのが照達の今日の予定だ。それは目の前の猫目も同様であり、全アカデミア生共通の予定でもある。

 それを改めて伝えるなど馬鹿げている。

 だからこれは、彼女の提案する勝負方法が関係しているのだろう。


「私が提案する勝負には制限時間を設けます。午後の授業が終わるまで……つまり戦闘訓練が始まる直前ですね。その間はどう時間を使おうと貴女達の自由で、私は何一つ文句を言うつもりはありません」

「ふぅん……勝負の内容次第ではあるけど。随分と太っ腹ね」


 確かに。

 勝負の内容が全て挑戦者に委ねられるこのルールでは、こちら側の行動をある程度縛ることも可能だ。昨日の料理勝負のように、挑戦者側に有利で潜入部隊側に不利な条件を作るのは常套手段。

 にも拘らず、猫目は依衣達に自由を与えた。

 自由を与えても向こうが有利であることに変わりはないのだろうが、それでも自由を与えられることがこちら側の不利に繋がるとは思えない。


「えっと、自由っていうのは……授業に出るのも出ないのも自由ってことですか?」

「そうです」

「それだと……ほぼ一日中自由行動ってことになるわ。それで勝算があるのかしら」

 分かりきったことを一応確認しておく。


「勝算は勿論ですが、何より私には自信があります」

「……上等じゃない。さっさと勝負の内容を発表しなさいよ」


 自信があるのはこちらも同じ。

 五人の時ほどではないにせよ、この三人ならコンビネーションも対応力も申し分のない。

 照にあてられたのか、蒸籠も緊張以上にやる気に満ちている。

 ガラにも無く、依衣まで気が昂ぶり始め――



「黒渦さんを相手に。スタイル勝負でお願いします」



 瞬間。

 依衣の頭の中は白のペンキで塗りたくられた。

 白昼夢とはこのことか。

 真っ白な世界で意識だけが漂っているような感覚に、依衣は体勢を崩しかけた。そのまま重心が後ろに傾いて床に倒れそうになる。


「あ、あんたねぇ!」


 それを止めたのは照の怒号だった。

 友人として、何より女として。

 きっと絶妙なフォローをしてくれるに違いない。



「これは他の奴にも言ってきたけど! 最初から勝敗が決まってる勝負は勝負とは言わないのよ! 予定調和! 出来レース! 駄目!!」



 信じた自分が馬鹿だった。


「……せ、尖堂先輩? い、いくらなんでも、それは失礼だと思うのだけれど……?」

「あっ――ち、違うのよ! そういう意味じゃ……いやそういう意味だけど! そういうつもりで言ったんじゃなくて……っ」

「照ちゃん……もう喋らない方が良いと思うな」

「コント中悪いですが、詳しいルールを説明させてもらっても?」


 不本意ながら、今は猫目に感謝したいくらいだった。

 事実だとしても言って良いことと悪いことがある。

 分かっていても敢えて触れずにいるのが最善の選択ということもある。

 いくらなんでもあんまりだ。


「そ、そう、ルール。ルールが大事よ。スタイル勝負とか曖昧過ぎるし」

「そうだよね。厳密にはどんなスタイルが良いかなんて人それぞれだもん」


 一般的には、背が高くて、スラリとしていて、痩せていて、出るとこが出ていれば誰もがスタイル良いと評するだろうが、理想と個人の好みは意外なほど乖離していることが多い。


「勿論、それは分かっています。ですので、それを判断するのは男子に任せます」

「男子に……? えっと、あんたと依衣で人気投票でもするってこと?」

「間違ってはいませんね」

「……説明をお願いするわ」


 どちらのスタイルが良いか、決めるのが男子であれば勝ち目はある。

 依衣は地球で言うところの小学生の年齢で入れ替わりの任務に就いたため、外見もそのときのまま変わっていない。

 一部の男子に需要があることを、依衣は分かっていた。

 その一部の男子をアカデミア生の中から探すのは至難の業だが、やるしかない。


「まず、このサイン色紙に名前を伏せた上で現在のスタイルをそれぞれ記入します。具体的には、身長、体重、胸囲、腰囲、臀囲、股下、頭囲、足囲の八項目です。既に準備は整っているので、説明が終わったらすぐに測りましょう」

「え、えぐ……」

「ひぇぇ……」


 照と蒸籠は聞いただけで絶望していた。

 無理もない。

 いくら名前は明かさないと言っても、これは身体測定の結果を男子に公表して回るようなものだ。

 加えて、依衣が敗北した場合復讐権を行使するのは照か蒸籠のどちらかになる。

 いや、別に負けるつもりなどないが。


「そしてサイン色紙に書かれた二人のスタイルを見せ、どちらが好きかを選んでもらうことになります。先に十票集めた方が勝者です」

「あくまで見た目でなく、数字で選んでもらう訳ね」

「でも、判断して貰う男子はどうやって決めるの?」

「貴女達三人に決めてもらって結構です。私は結果だけを聞くことにします」


 過剰とも思える自信の根拠は、言うまでもなくモデルとして成功を収めているという確固たる事実。

 彼女には世間という応援団がついていると言っても過言ではない。


「それと、ハンデを二票与えます」

「二票……成る程ね」


 どうせ二票は仲間内から集めるのだろうし、それなら先に与えてしまえということだ。

 正直、これは有り難い。

 架はこちらの意図を汲み取ってくれそうだが、優太は当たり前のように猫目のスタイルを選びそうだから。


「……午後の授業が終わるまでという制限時間があったけれど。復讐権を使うのも制限時間内に限定されるということ?」

「そうなります」


 つまり時間を掛けて依衣みたいなタイプを好きそうな男子を探すとなると、復讐権に使う時間がなくなってしまうかもしれない。

 こちらが好きに選んで良いのだとしても、選り好みしては猫目の思うつぼだ。

 今日の時間割だと、授業中に聞いて回るのは実質不可能。

 授業の合間に挟まれる僅かな休み時間と、昼休みに全てが懸かっている。


「納得してもらえましたか?」

「……えぇ、まあ」

「それでは四人揃って阿鼻叫喚の身体測定と参りましょう」

「「!?」」


 驚きを隠せないでいる照と蒸籠。

 まさか自分達は逃れられるとでも思っていたのだろうか。

 復讐権を行使するときにいちいち測っていてはどう考えてもタイムロスになる。依衣の勝敗に拘わらず、計測は済ませておくべきだ。


「さあ、一時限目が始まってしまう前に」


 メジャーを持って迫る猫目に恐れおののく二人を見て、依衣は心の中で主張する。

 一番惨めなのは自分だと。


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