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二人一役の調停者  作者: 襟端俊一
第二章 足を手に入れろ
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「ちくしょう!! 日本に逃げられたのがケチのつき始めだ……っ」


 第一部隊に逃げられた後。

 第二部隊の『全員で一斉に駆け込み、各自で対応する』という提案にメイファン達は乗ることにしたのだが、問題は異界門を通った直後に起こった。


「落ち着いて、メイファン」

「これが落ち着いていられる!? アタシ等第四部隊は来て早々バラバラ、第二、第三部隊に至っては全員が連れて行かれちまったってのに!」


 キュランダに出た途端、四方八方から攻撃を受けたのだ。

 異界門を取り囲んでいたのは、パラディースの武装兵士。

 その手には地球には存在しない植物を品種改良して作られた武器、ブルーメ・ゲヴェアーが握られていた。

 拳銃と遜色ないスピードで種子を飛ばす非常に殺傷能力の高い武器で、用途によって品種を変えることで様々な毒を使い分けることもできる。

 種がなくなれば二度と使えないのだが、恐るべきはその弾数で、なんと最大で三千粒。おまけにほぼ無音で発射できることから狙撃にも向いているという凶悪ぶりだ。


 そんな武器で武装した兵士達から集中砲火を浴び、メイファン達はあっという間に無力化された。

 大半は動けなくなり、恐竜の背に乗せられて連れて行かれてしまった。

 咄嗟に拳銃で対抗した者もいた。

 しかし、そもそも『パラディース兵に銃器の類いは通用しない』。

 メイファンも混乱していて基本的な知識をど忘れしていた。

 キュランダの中を一時間近く走ってどうにか逃げおおせたものの、流石に無傷とはいかず、体の至る所からは血が滲み出ている。


「化け物共め……!!」

「アルマ・アカデミアで教わった通りだったね。パラディース人が持つ予見の力……『パウル』。でも完全な予知能力とは違うはず」

「言われずとも分かってるよ。自身の死の未来だけ分かるってんだろ? だから殺傷能力の低い攻撃で弱らせてからじゃないと殺せない。頭に叩き込んできた。対策も練ってきた。覚悟もしてた。それなのに……っ」


 これが、実戦。

 全ての項目でトップの成績を修めていたメイファンも、いざ死の恐怖を前にすると為す術もなかった。

 このときのために費やした三年間の努力が一瞬で無に帰したのかと思うと、悔やんでも悔やみきれない。


「アイツ等だってとっくに来てるはず……きっと、他にも異界門があったんだ。待ち伏せされてたことも知ってて……!! アタシ等は嵌められたんだよ! 日本に!!」


 盛大に舌打ちして悔しさを滲ませるメイファン。

 情報を共有する機会を自ら断ち切ってしまったメイファンが言うにはあまりにも自業自得で情けない台詞だが、それだけ追い詰められているのだ。


「そう……なのかな」

「ファリン、アンタこの状況で日本の肩を持つっての?」

「そういう意図があるなら、わざわざメイファンの呼びかけに応える必要がないから。こっそりその入り口に向かえば良いだけの話でしょ?」

「……、」


 メイファンには自分達の目的しか頭になかった。

 そのために最善を尽くすべく、他国の部隊に安全を確かめさせてから潜入するつもりだった。

 始めから協力する気などなかったのだ。

 だからこそ、ファリンの言っている理屈が分かる。

 自分達だけが知っている秘密の入り口があるのなら、そちらから入ることを最優先にしていただろう。


「―――」

「メイ、ファン?」


 突然だった。

 ファリンの隣で姿勢を低くしていたメイファンが、前のめりに倒れ込んだのだ。

 メイファンの体を調べると、注射針のような針状の種子が三本も脇腹に打ち込まれていた。

 ザッ、ザッ、と雪の大地を踏みしめる足音が聞こえてくる。

 ファリンが震えながら振り向いた先には、恐竜の背に乗った二人の少年がいた。

 二人共、植物を編んで作った防寒具を着ており、ブルーメ・ゲヴェアーをその手に持っている。


「お? 今度は日本人か?」

「……いえ、恐らく中国人ですね」

「ちっ。これまた探すのが大変な人種だ。こっちの管轄じゃないってのに……見つかるまで面倒見ないといけないこっちの身にもなれってんだよ」

「しかし我々の計画のためには仕方のないことかと。クランクヘイトの侵攻も確認できましたし、戦力の増強は急務です」

「いつまでも役立たずのまんまじゃいられねえもんなぁ?」


 顔を歪めて皮肉たっぷりに言う、リーダー格と思われる少年。

 隣に立っている方は、それに対して特に何の反応も見せず縮こまっていた。


「ま、いいか。おい中国人。他に仲間はいるか? てか言葉通じてるか?」

「あ、は、はい。仲間は……み、みんな、捕まりました」


 しどろもどろになりながらも答える。

 だが、中途半端な仲間意識が少年の逆鱗に触れた。

 少年が手にしているブルーメ・ゲヴェアーの先端が、ファリンに向けられたのだ。


「ひっ――。い、いやああああああああああああああああ!!」

「うるせぇな……黙れクソが」


 ブルーメ・ゲヴェアーを直接額に突き付けられ、サーッとファリンの血の気が引いていく。

 ファリンは何処かで安心していたのだ。

 彼等は命まで奪おうとはしない、と。

 意識を失っているメイファンもそうだが、第二、第三部隊は誰一人として殺されはしなかった。

 日本とパラディースの戦争が始まるきっかけにもなった一連の殺人事件以来、パラディース兵が殺人を犯したという記録が一切ないことも後押ししていた。

 ところが、少年は今正にファリンの命を奪おうとしている。


「クランクヘイトと唯一繫がってる日本の異界門から、日本人以外の複数の人種が現れたんだぞ? 肝心の日本人がいない訳ねぇだろうが。馬鹿にしてんのか?」

「……っ」

「言え。殺すぞ」


 ブルーメ・ゲヴェアーで額を小突かれ、ファリンは更なる恐怖を味わった。

 人の体を易々と貫く種子の弾丸だ。

 額に当てられたまま射出されれば、文字通り風穴が空く。

 自分以外のことを考える余裕などとうに消え失せていた。


「他の入り口、から、入ったみたいで。何処にいるか、は、分かりま、せん」

「他の入り口ぃ? あんのか? そんなもん」

「確かに、この辺りの村落では昔からあると言われていますね。公式の記録には残っていないので、あったとしても相当古いものかと」

「……ふん」

「あっ!?」


 少年はブルーメ・ゲヴェアーの先端を逸らしたかと思うと、即座に種子を発射した。

 力無く膝から崩れ落ちるファリン。

 だが朦朧とする意識の中でファリンは少年達の会話を聞いていた。


「良かったのですか?」

「この状況で喋らねぇんだ。本当に知らねぇんだろ。それよりも、日本人で構成された部隊が他にいんのはまず間違いねぇ。目的は当然、『トート』の回収だろうな」

「しかし彼等は『トート』の運命を知らない。向かう先は、恐らくカルカソンヌかと」

「……先回りしてミズオで待ち伏せるか。奴らの進むルート上で休めるのはあそこしかない」

「新たに捕まえた『トート』はどうしますか。ミズオで待機するよう伝えてありますが」

「合流したらそっちはお前が先導して連れて行け。待ち伏せするのは俺だけで充分だ」

「ですがそれでは」

「俺は『ゼーラフ』だぞ。お前達がいても足手まといなんだよ」

「……分かりました」


 会話が途切れた直後、ファリンは乱暴に抱きかかえられて一頭の恐竜に乗せられた。

 そしてもう一頭の恐竜にメイファンが乗せられたのを確認し、静かに気を失ったのだった。


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