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二人一役の調停者  作者: 襟端俊一
第三章 二日目
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 アルマ・アカデミアは学力でクラスが振り分けられている。

 これは新入生に年齢の統一性がなく、学力も区々であるためだ。

 入学時に受けるテストによってどのクラスの所属になるかが決定し、以後はクラスは変わることなくそのまま学年を重ねていくことになる。


 入れ替わり後、黒渦依衣として普通の学校に通い始めた依衣は勉強に付いていくのに精一杯だった。

 そのためアルマ・アカデミア入学時でも年齢より少し下の学力しかなく、高校一年レベルのクラスに振り分けられることになったのだ。

 結果的には、それが架達と出会うきっかけになったのだから運が良かったと言えよう。


 ちなみに三年経った現在、依衣の学力はクラスで断トツである。

 年齢を偽っていたのは、諜報活動を続けているという、他の諜報員へのアピールだった訳だが、こうして表立って協力することになった以上それも無意味だろう。


(古賀先輩も尖堂先輩も。特に変化はなさそう。授業中は一先ず安心して良いかしら)


 現在、四時限目の途中。

 一番後ろの窓際という教室全体を見渡せる席を定位置としている依衣は、これまでずっとクラスメイトの一挙手一投足を観察していた。

 特に照と優太、そして空席となっている架と蒸籠の席の近くに座る生徒を。


 元々、狙われるとしたら午後からの戦闘訓練くらいだと思っていた。

 この時間は教官が複数人付くが、通常授業のように学力ごとのクラス分けなどはなく、全校生徒合同で行われる。意外なほどに自由に動き回れるのだ。

 まあ、午後は照、優太の二人と行動を共にすると決めているので、午前授業を乗り切ってしまえば山場は越えたと言って良い。


 照と優太が小耳に挟んだ情報にも勇気づけられた。

 架率いる第一部隊だけでなく、第二、第三、第四部隊も今のところ枠を失っておらず、そればかりか挑戦権を持った何人かは返り討ちにされたらしい。

 流石は各国のリーダーが選び抜いた精鋭。

 出鼻を挫かなければ、全員揃って宝樹都市カルカソンヌに辿り着く未来もあったのかもしれない。


(って。私まで絆されてどうするの)


 信頼関係というのは、日々の積み重ねがとても重要だ。

 小さな信頼の積み重ねが、確固たる信頼関係を築き上げていく。

 だからこそ架達とは、パラディースに行くまでの一週間で急激に仲良くなれた。


 逆に他の潜入部隊、特に第四部隊のメイファンなんかは、最初に失った信頼の分、どうしたって警戒する。

 その信頼が回復していない内にこちらから歩み寄るのは間違っている。

 というのが依衣の主張なのだが、これでは架のことを言えないではないか。


(集中集中。今は午前授業を乗り切ることだけを考えないと)


 気を取り直してクラス全体の観察を再開する。

 数分が経った。

 教壇前の照の席の周辺は、依然として何も起こっていない。

 照は自らも気を張っているし、もし誰かが何か企んでいたとしてもそう易々と近づけさせないだろう。


 その隣の隣。教室の入り口の真横にある優太の席。

 こちらも特におかしな様子は見られない。

 強いて言うなら、優太が授業内容に悪戦苦闘していることくらいだ。


(そして、私。……ま、狙われるとしたら古賀先輩でしょうけれど)


 優太の交友関係は広すぎる。

 それも、深くも浅くもない微妙な距離感の友人が多いというのだから困りものだ。きっとありとあらゆる情報が外に漏れているはず。


 今度は優太を重点的に見守ろう。

 そう思って視線を移したときだった。


(……? 今のは……)


 黒板を見ながら机の中に手を忍ばせた。

 別にそれだけならなんてことない動作だが、机に手を入れた瞬間の優太の反応が気になる。

 少し首が下がったのだ。

 まるで予想外の出来事があったかのように、一瞬机の中に意識を向けていた。


(何かを見つけて……取りだした? 何か罠の類い? それとも手紙? ……ここからじゃ見えない。尖堂先輩なら)


 位置的に、照なら優太を見るだけで何をしているのか確認することができる。

 依衣はすぐさま携帯を操作し、照にメールで知らせようとしたが、



「すんません。ちょっと、トイレ行って来て良いっすか?」



 突然そんなことを言い出して、優太が教室から出て行ってしまった。

 これはおかしい。

 何故なら、依衣達は事前に話し合っていたから。

 授業中でも、一人になるような行動は絶対に取らないようにと。


 本当に言葉通り、尿意を我慢できなくなって?

 いくらなんでもそれはない。優太とて子供ではないのだ。授業の前にトイレに行っておくくらいの思考はある。

 腹痛に苦しんでいたようにも見えなかった。

 照も優太が出て行った扉を信じられないと言った様子で睨み付けている。


(……これが挑戦権を持つアカデミア生の策略だとしても。数分で決着が付くとは思えない。本当にただトイレに行っただけの可能性もある。三分経って帰ってこなかったら私も)


「すみません。ちょっと具合が悪いので保健室に行かせて下さい」


 依衣が考えるよりも早く照が行動に出た。

 同じ潜入部隊に所属する二人が立て続けに授業を抜け出したら、何かあると周りに勘付かれてしまう。

『勝負を見られてしまう』。

 これはどんな情報が漏れることよりも危険だ。


(とはいえ。尖堂先輩が行ってしまった以上、私が何を考えても無意味ね)


 こうなっては依衣も行くしかあるまい。

 勝負になるのなら、人数が少ないことはデメリットにしかならない。

 しかし、挙手しようとして気付いた。

 自分は何と言って授業を抜け出せば良いのか。


(……守護精、お願い)

 直後に返ってきたのは、近年稀に見る拒絶の意志だった。


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