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二人一役の調停者  作者: 襟端俊一
第二章 開始
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「勝負は二対一。ただし、こっちは依衣の分の枠も賭ける。俺に勝ちさえすれば、お前等は晴れて潜入部隊の仲間入りだ」

「「!」」


 架は依衣から抗議の声が上がることを覚悟していた。架が敗北した瞬間に潜入部隊から外されてしまうのだから当然だ。

 しかし。


「残念ね。せっかく架先輩の言っていた鉄扇を取り入れてみたのに」


 予想に反して、依衣は素直に引き下がってくれた。それどころか、小声で「羨望術ゼーンズフトはなるべく使わないように」と、少しなら使って良いというお墨付きまでもらってしまった。

 こういう、男の引けない一線というものを理解してくれる依衣は、きっと物凄く希有な存在に違いない。

 一分ほどの話し合いを経て、彼等は再びこちらに向き直った。


「舐められてるみてーで少し癪に障るが……俺等の一番の目的は潜入部隊の枠を二つ取ることだ。あんたの提案、受け入れるぜ」

「そうだね。遠慮なく、本気で行かせてもらいます」

 もう片方の敬語を使う彼も刀を抜く。


「今更ですが自己紹介を。僕は桑名裕樹くわなゆうき。こっちの彼は市ノ瀬信二いちのせしんじです」

「必要以上の暴力は禁止されてる。ここはお互い、返してろうぜ」


 小さく頷き、刀を持った三人が刀を返す。

 刀を返す。

 つまりは、峰。

 その状態で戦えば、必然的に斬撃はなくなり、峰打ちの応酬になる。


 デメリットはある。

 架の叢雨もそうだが、曲刀というのは刃で斬ることを前提とした造りになっている。峰を向けて構えると重心がずれ、いつもとは感覚がまるで違う。何より抜刀術が使えない。

 とはいえ、斬る寸前に刀を返すなんて芸当は今の架にはできないし、同じアカデミア生同士、内輪もめで重傷を負うのは向こうも勘弁だろう。

 勝負は勝負でも、これは男同士の勝負。

 決着さえつけばそれで良いのだ。


「一応、十枚あるか確認するか?」

「必要ないよ。それとも、そこまで小さい男なのか?」

「……へっ!」


 口角を釣り上げた信二が向かってくる。

 一切の迷いのない、清々しいとすら感じる走り込みからの正面斬り。

 架はそれを、右袈裟斬りで弾き、すぐさま逆袈裟斬りで攻撃に打って出る。

 が。

 架は一旦距離を取らざるを得なかった。


「……、」


 信じられないことに、死を予見するパウルが発動したのだ。

 直後に放たれたのは、分身と見紛うほどに息の合った動きを見せた裕樹による痛烈な突き。

 それも、架の首を狙った正真正銘殺意が込められた一撃だ。

 峰による攻撃も充分殺傷力を秘めているが、突きは例外。

 確実に殺しに来ている。


 それでも、架は何も言わなかった。

 以前の自分なら。

 今、彼等と同じ立場に立っていたとしたら。

 やりかねない。


「貴方相手なら、これも充分必要な暴力です」

「そういうことだ。あんたを殺しちまったら、俺達は失格どころか退学。あんたの力量、信じてるぜ」


 このとき、架は大きな思い違いをしていることに気付いた。

 目の前にいるのが以前の自分なら。

 何を言っても声は届かない。

 届くとしたら、それは力のみ。


 復讐の果てに得た力じゃない。復讐を越えて得た力で彼等を圧倒することで、ようやく耳を傾けてくれる可能性が生まれる。

 勿論、それは羨望術などではなく。

 今の架の、純粋な力そのもの。


「分かった。見せてやるよ」

 叢雨を腰にあてがって、左手を制服の袖で覆った左手で峰を掴む。


「今の俺の……本気って奴を」

「上等ぉ!!」


 今度は中段の構えからの、左袈裟斬り。

 立て続けに逆袈裟斬り、右胴斬り、左胴斬りと日本刀を振り回してくる。

 架は一切刀を振るわず、後ろに隠れた裕樹の動きを見逃さないように信二の猛攻を躱し続ける。


 彼等のコンビネーションは単純だ。

 信二が注意を引きつけ、裕樹が突きを狙う。

 元々一対一で戦うつもりだったこともあるだろうが、勝利に目が眩んで一撃必殺に拘りすぎている。

 ならば架が狙うのは、必然的にその一点のみ。


「喰らえ!!」


 あまりにも架が躱し続けるので、信二も痺れを切らしたのだろう。全体重を掛けた全力の正面斬りを放ってきた。

 今までの小手先の攻撃とは違う気迫の篭もった一撃。

 無防備でいれば、文字通り一刀両断にされていたであろう攻撃に、架はつい意識を逸らしてしまう。

 その隙を、裕樹はちゃんと見ていてくれた。

 彼もまた、その一撃に全てを懸けていたのだ。

 全身全霊の突きが、来る。


「え」



 だが、残念ながらその隙は誘い。



 来ると分かっている攻撃なら、突きに限らず容易に対応することができる。

 こと突きに至っては、その殺傷力に反してとても隙が大きい。

 だからこそ突きを主とする武器は、大抵それ専用の特殊な形状をしている。


 だが日本刀による突きは、一撃で仕留められなければ完全に無防備になる。

 彼等のように二人いることのメリットを考えず、どちらも全力で攻撃しては互いをフォローしようがない。

 それこそが、真の隙。

 疑似抜刀術で一閃する。


「うっ!?」


 峰による強烈な打撃が裕樹の脇腹を抉る。

 彼が蹲るのと同時に、残された信二が攻撃を放ってくるも、先程と比べて遙かに見劣りする拙い袈裟斬り。避けるまでもなく、架が叢雨を振るうだけで信二は刀を手放してしまった。

 見頃を過ぎた菖蒲田の一画に、一振りの日本刀が落下する。

 裕樹は戦える状態にない。

 信二は武器を失った。


「お疲れ様」


 依衣の労いの言葉は、そのまま決着が付いた証明となった。

 叢雨を鞘に納めて先に進もうとするが、


「待て!!」

「……、」


 足を止め、声のする方を振り返る。

 信二は勝敗に文句をつけるつもりではないらしい。手放した日本刀を拾いに行く訳でもなく、痛みに耐えているもう一人の彼を気遣いながら、それでも架を呼び止めたのだ。


「あんた、何で変わっちまったんだよ。妹を殺されたんだろ? 犯人を見たんだろ!? 自分の妹と全く同じ顔の犯人を!!」

「っ」


 当たり前のことだが、戦争のきっかけとなったあの事件は彼等も知っている。

 以前依衣に指摘された通り、我慢しているだけというのが真実だ。

 妹を殺された恨みは未だ残っている。

 どれだけ吹っ切ったように見せても消える訳がない。


「俺も同じだ。同じなんだ! 犯人までは見てねぇけど、俺は姉貴を殺された!! 裕樹だってそうだ。面倒を見てくれてた親戚の兄ちゃんを殺されてる。この恨みがそう簡単に消える訳ねぇ!! あんたに何があったんだよ!!」

「……復讐は、したんだ」


 信二は口にするのも辛い過去を話してまで架の心境の変化について聞いてきている。

 正直に、全てを話すしかないだろう。


「え?」

「したつもりだった。けど生きてたんだ。そのとき俺は、安心して泣いちまった。自分の妹を殺した犯人が生きてると分かって、安心してたんだ」

「架先輩……」

「だから復讐はやめた。やめるしかなかったんだ。お前等の復讐を止めるつもりはないけど……これだけは忠告しておく」


 信二と、そして蹲りながらもこちらを見つめている裕樹に向けて、伝える。

 大切な人と全く同じ容姿の人間を、殺すということ。

 その意味を。


「あれはもう、ほとんど本人だよ。それを殺すってことは、大切な人を二度失うようなもんだってこと……覚えておけ」


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