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二人一役の調停者  作者: 襟端俊一
第一章 小さな内乱
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 依衣や照と同様に、頭の中であれこれ考えるタイプの渡橋架にとって、分からないことというのは本当に怖い。


 パラディース人のパウル然り、羨望術然り。

 そして架は、何も分からないまま流されるというのが嫌いだ。

 だから無理矢理正座させられている今の状況も不愉快極まりない。照達の剣幕があまりにも強烈だったため思わず条件反射的に正座してしまったが、内心では不満が溜まりに溜まっている。


 説明は求めた。

 何故自分は皆から責められているのかと。

 だが照達は「本当に覚えてないの?」の一点張りで、架が何を忘れているのか、何をしたのかを頑なに喋ろうとしない。

 それでは例え架に何かしらの記憶があったとしても答えようがないというのに。


「なあ。何で俺まで正座させられてるんだ?」

「ついでよ」

「とばっちりじゃねーか……はぁ」


 隣で同じように正座させられている優太はシュンと顔を伏せて溜息を吐く。

 この様子だと、別に優太に罪はないらしい。

 つまり問答無用で謝らせなければ気が済まないようなことを、たった一人で架がやってしまったことになる。


(記憶……記憶か。朝、訓練してたのは覚えてるんだけど……それがなんで校舎になんて来てるんだ。時間も経ってるみたいだし。あんな手作り感満載の厩舎あったか?)


 まだ未完成なだけで、完成すればそれなりに見えるのかもしれないが。

 まあ、今はそんなことを聞ける状況じゃない。

 まともに取り合って貰えないことを承知の上で、架はもう一度自分が何をしたのか質問してみることにした。

 後ろ手にしてソワソワしている蒸籠ではなく、半眼でこちらを睨む依衣でもなく。

 真ん中で腕を組んで架を見下ろしている照に。


「あの、さ。俺が何かしちゃったってのは何となく分かったけど。それが何なのかを教えて貰えないと、反省も謝罪もできないよ」

「それは言えないの! 察しなさいよ! 私、蒸籠に呪い殺されかけたんだからね!?」


 これまた意味不明な事実が明らかになった。

 どんなカオスな出来事が起これば蒸籠が照を呪い殺すなんて事態に発展するのか。


「て、照ちゃん酷い。まるでお化けでも見たみたいに」

「事情話すのが遅れてたらまず間違いなく私は殺されてたわよ!!」

「そんなことないよ。えへへ」

「その笑顔が怖い!!」


 架は完全に置いてけぼりである。

 架が何かしたのなら、蒸籠の怒りは照ではなく架に向かうはずだ。

 心当たりがない訳ではないが、それがどう繋がるのか分からない。


「二人共、怒りをぶつける相手を間違っているわ」

「……そうね」


 依衣の一言で、三人の結束は一瞬にして元通り。

 再び針のむしろに座らされているかのような居心地の悪さが架を襲う。

 かと思いきや。


「とはいえ……架先輩の言葉も一理あるわ」

「そ、そうだよね」

「ちょっと!? 蒸籠はともかく、依衣まで架に甘くなってどうすんのよ!」


 またしても言い争いが始まる。

 架が抱いたそれぞれの印象はこうだ。

 照は純粋に架に怒りを覚えている。

 蒸籠も同じようだが、その性格上あまり責められずにいる。

 依衣は一歩引いているというか、この場に居る誰よりも冷静だ。


「だってそうでしょう。何の感情も込められていないごめんなさいを貰っても誰も納得しない。世の中には知らなかったで済まされないこともあるけれど、架先輩の場合はきっと完全に被害者よ」


 加害者だと思っていたら、今度は被害者になった。

 架にも、段々と大まかな経緯が見えてくる。

 架は何かをしでかしたが、それは架の意思でやったことではない。

 第三者が関与している。

 架の記憶がないことからも事態の深刻さが窺える。


「その顔……ふふ。架先輩も、ようやく事の重大さが理解できたようね」

「ああ。いい加減、何をしたのかだけでも教えてくれよ。どうも話し合わないといけないことがあるみたいだ」

「……私と依衣が、架に大切なものを奪われたのよ」


 顔を赤らめてそんなことを言う照。

 この時点で何となく察してしまったが、それが事実なら取り返しが付かない。

 間違っていて欲しいと敢えて的外れなことを言ってみる。


「何か盗んだとか……もしかして、壊しちゃったり? それなら弁償して」

「返せないものなのよ!!」

「……っ」


 最悪だ。

 例え幼馴染みでも、共に死線を乗り越えた仲間であっても。

 許されることと許されないことがある。

 そして架のしたことは、どう考えても許されないことに属するだろう。

 何より、自分で自分が許せない。

 気付いたときには、痺れる足で立ち上がってこう宣言していた。



「自首してくる」



「「「「!?」」」」


 目指すのは、アルマ・アカデミアの外。

 小さな交番でも警察署でも良い。

 罰を受けなければ。

 架は既に人を殺しているが、それに関しては全て受け止めた上で前に進むと決めている。

 これに関しては別だ。

 仲間を傷付けてしまったことに、言い訳なんて意味をなさない。


「ま、待った! あんた何か勘違いして」


 照に肩を掴まれるも、振り向かずに歩を進める。

「止めないでくれ。俺はパラディースと地球の橋渡しをするって約束までしたのに……よりによって性犯罪に手を染めるなんて……っ」

「せ、性犯ざ……って違う! そこまではされてないから! キスまでだからー!!」


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