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二人一役の調停者  作者: 襟端俊一
終章 その名の意味
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 ほんの数分処置が遅れていたら助からなかったかもしれない。

 生と死の狭間にいた渡橋紡を救ったのは、気絶していたキュランダ異界門の常駐兵達だった。

 彼等はクランクヘイト兵を連れてきた際に、渡橋架から妹には何も伝えるなと固く命じられていた。

 そもそも渡橋架にそこまでの発言権はないのだが、カルカソンヌの責任者でもある渡橋紡が彼の妹ということもあり、指示には従うようにしていた。破るつもりもなかった。

 不幸なことに、そんな彼等が連行していたのは渡橋紡と同じ幟天使ゼーラフ

 一介の兵士が太刀打ちできるはずもない。

 為す術無く気絶させられ、その間に捕らえていた人間にまで逃げられた彼等は、渡橋紡に頼るしかなかったのだ。

 現状の最大戦力である幟天使に。


 しかし、お咎め覚悟で向かった家で発見したのは、既に戦闘不能にされていた渡橋紡の姿。クランクヘイト兵に反撃することなど忘れ、彼等は渡橋紡の命を救うことに尽力した。

 何とか一命を取り留めて一週間後。

 渡橋紡はようやく目を覚まし、常駐兵達の話を聞いて何が起こったのかを知った。

 自身の命よりも大切な家族と、大切な友人の死。

 当然、冷静ではいられない。


 感情に身を任せ、すぐにカルカソンヌ内にある厩舎から自分のガリミムスを連れ出した。そのままガリミムスの背に跨がってブダ地下迷宮を通り、いつか皆で発見したあの泉に半日と掛からず辿り着いた。

 向こう側の入り口がどうなっているかなど渡橋紡には分からない。

 罠や待ち伏せを警戒したのではなく、ただただ先制攻撃を仕掛けるためだけに常備している植物の種を大量に放り込み、羨望術ゼーンズフトを使った。

 結果的にそれが清正の井戸を囲う壁を破壊することに繋がり、渡橋紡は単身アルマ・アカデミアに乗り込むことに成功する。

 集まってきたクランクヘイト兵を蹴散らして要求を伝えた後は、息つく暇もなく再び羨望術を行使しようとした。


 だがそのとき、ある記憶が蘇る。


 それは一週間前の出来事。

 生死を彷徨う要因となったあの瞬間だ。

 こうは考えられないか? と渡橋紡は自問自答する。

 自分を斬ったのは、間違いなくクランクヘイトの渡橋架だ。

 実の妹を殺されて、その復讐を果たすためにやって来た。

 そこまでは納得だ。

 覚悟していたことだったから。

 ただ、それは自分の兄が死んだという証拠にはならない。

 吸収されたのが自分の兄とは限らないのだ。


「斬られた私を見て怒ったお兄ちゃんが……やったんだ。だから、吸収されたのはお兄ちゃんの死神トートで、私のお兄ちゃんは生きてるんだ。きっとそうだ」


 カルカソンヌには居なかった。

 居たら怪我を負った妹の傍から離れないはずだ。

 きっと死神を斬っただけでは飽き足らず、直接攻め入ってしまったのだ。

 自分と同じ幟天使となって。


「私はここにいるよ。だから危ない事しないで、一緒にお家に帰ろう?」


 密林の風景を背に、渡橋紡は満面の笑みを浮かべて兄の帰還を待つ。

 

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