6
「貴重な情報をありがとう。良い夢を」
依衣の言葉通り、眠るように倒れるパラディース兵。
ブダ地下迷宮の遙か南方まで連れてこられた黒渦依衣は、同行していたパラディース兵を根こそぎ薙ぎ倒していた。
彼等のブルーメ・ゲヴェアーは全て破壊してあるが、簡単に復帰できないほどには痛めつけたので、当分目を覚ますことはないだろう。
(カルカソンヌで戦える者は十三人。内、幟天使【ゼーラフ】一人とその仲間二人が現状の最高指揮官。協力者が手を回しているなら、その三人は恐らく先輩達の……)
胸騒ぎを強引に抑え込み、依衣は来た道を戻り始めた。
もう少し様子を見て相手の出方を窺う予定だったが、つい先程通り過ぎた檻の中に、アカデミア生が数人閉じ込められていたのを見つけてしまったのだ。
檻の前まで戻ると皆が一斉に詰め寄ってきた。
檻は三つあって、部隊ごとに収監されている。
顔ぶれを見るにこれは偶然で、単に国別に分けられただけだ。
殺すときに分かり易くするために。
皆相当動揺しているのか、母国語で喋るため依衣には全く理解できない。
そんな中、唯一第四部隊の声だけが日本語で届いた。
「あんた!! 何、どうやって外に……いや、それよりも! これ、開けてよ!!」
「メイファン……と言ったかしら、貴方」
「そう、そうよ!」
「残念だけど、貴方だけは助ける必要性を感じないわ」
依衣はキッパリとそう言い放った。
「な――」
「私は清純先輩ほどお人好しではないから、本音を言えば誰も助けたくないけれどね」
「ふざけるな!! てめぇ等が最初から別の異界門のことを教えてればこんなことにはならなかったんだろうが!!」
「その機会を自ら放棄したのは誰だったかしら。私達は初めから協力するつもりだった」
あのときの真実を説明する依衣。
皆、当然日本語は聞き取れるため、自然と自分達の愚かさを理解したようだ。
同時に、強引な手段で道を切り開こうとしたメイファンに敵意が向けられる。
「な、何簡単に騙されてやがる! そんなもん、後からなら何とでも言えるだろうが!? あの後アタシ等がどんな目に遭ったのか思い出せ! 全部が全部、コイツ等のせいよ!!」
「信じる信じないは貴方達の自由。どちらにせよ彼女以外は助けるから」
依衣はパラディース兵から没収しておいたランタンを近づけて格子を無力化し、第二、第三部隊全員を解放した。
出て来たは良いが、十人中四人が足を引きずっている。
(応急処置はされている。けれどガリミムスの背に乗せられた状態だとしても、モンテ・ペルデュード、パンノニア平原、キュランダという険しい道程はとても耐えられそうにない。必要以上に情報を集めておいて正解だったようね)
依衣は指でブダ地下迷宮の遙か先を指し、
「この先をずっと南に進むとキュランダに出られるわ。そこから東に少し進めば、貴方達が通って来た異界門があるわ。歩ける人は負傷者に手を貸して、できるだけ進んでおいて。私はまだやることがあるから一緒には行けないけれど、別ルートから戻って必ず迎えに来る。後……これは私の携帯食の残りと、雪解け水のストック。考えて飲んで」
持ち物のほとんどを各リーダーに渡す。
拉致被害者の末路を聞かされていたのかもしれない。二人共恐怖から解放された安心感で顔はクシャクシャだったが、力強く頷いてくれた。
第二、第三部隊を先に行かせ、残った第四部隊が閉じ込められている檻に近付く。
「どうしようかしら。同じ檻にいる以上、開けたら貴女も出て来てしまうでしょうし」
「……っ!!」
「きゃ!」
依衣が本気なのを理解したメイファンは強行策に出た。
傍にいたファリンの首を絞めて人質に取ったのだ。
言うことを聞かなければこいつを殺すぞと。
よりによって、一番傍にいたであろうファリンを。
「さあ、早くここから出せ!!」
「め、メイファン……」
そのとき、残った三人の内の一人がメイファンの背後に忍び寄った。
そして、
「ぐっ!?」
手刀一発でメイファンの意識を奪い、中国語で何かを囁いた。
依衣には理解できなかったが、恐らくは「やりすぎ」といったところか。
問題児が倒れ込んだのを見て、すかさず依衣が中の四人を解放する。
皆が檻から出てくる中、唯一ファリンだけが足を止めてこちらに視線を向けた。
「あ、あの。メイファン、も、連れて行って、良いですか」
「……好きにしたら? ここからはもう、貴女達の問題だわ」
「あ……は、はい!」
必死にメイファンの体を持ち上げようとするファリンの姿に、他のメンバーは溜息を吐きつつも手を貸し、そのまま南を目指してブダ地下迷宮を進んでいった。
(何処の国にもお人好しはいるものね。さて……私は先輩達を探さないと。随分と遠くまで来てしまったし、見つけるまで体は預けるわ。私の可愛い守護精【ニュンフェ】)
直後。
依衣の体は宙に浮かび、目にも留まらぬ速さでブダ地下迷宮の探索を開始した。




