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二人一役の調停者  作者: 襟端俊一
第四章 黒渦依衣
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「私は三日三晩泣き続けた。『入れ替わり』の任務も忘れて、ただただむせび泣いた。涙と声が枯れた後は、ずっと震えていたわ」

「そこから……どうやって立ち直ったんだ?」

 架は堅く瞳を閉じたまま依衣を促した。


「最初は、全てを話して死のうと思ったわ。謝って許して貰えることじゃないし、そもそも信じてもらえるかどうかすら怪しかったけれど。とにかく罰が欲しかった。要は楽になりたかったの。罪悪感から解放されたかった」


 罪深さを知り、罰せられることを求めた依衣に帰る場所はなかった。

 何せ生まれ故郷であるパラディースでは、依衣のした行為はむしろ褒め称えられてしまう。


「でもね。毎日毎日献身的に面倒を見てくれる自分の死神の家族と接している内に、気付いてしまったのよ。この人達の愛情は決して私に向けられているものじゃないけれど、この人達の視点になって考えたら……私は娘以外の何物でもないんだって」

「まあ、そうだな」

「もし真実を話して、この人達がそれを信じたら……この人達は同時に失うことになる。本当の娘と、偽物の娘を」


 依衣の死神の家族からすれば、本当の娘の死を知らないのだから必然的にそういうことになる。

 そういうことに、なってしまう。


「本物の娘は、どうやっても取り戻すことができない。返せない。でも、偽物の娘はここにいる。それが分かったとき、私の道は決まった」

 依衣は顔を上げて架の方を振り向き、目を合わせたまま続けた。



「罪悪感に苛まれながら、最後の時まで黒渦依衣を演じきる。それが私の生きる道」



 最後。

 即ち、依衣の死神の家族が天命を全うするまで。

 そして役目を果たした後、依衣は死を持って償うつもりなのだ。

 止めたいとは思っても、止めようとは思わなかった。

 架の復讐と同じだ。

 人に言われて変わるようなものじゃない。

 二週間前までただのクラスメイトだった架には言う資格すらない。

 少なくとも、今はまだ。


「……話してくれて、ありがとうな」

「架先輩は罪な男ね。話すつもりなんてなかったのに」

「でも俺達と一緒に来るって分かってたなら、それなりの覚悟はしてただろ?」

「いいえ? 突然誘われて、あれでも随分驚いたわ」

 その台詞に架は違和感を覚えた。


「理事長からの推薦があったようなもんだったぞ」

「そう……架先輩が私を選んだのはそういうことだったのね」

「じゃあ、本当に依衣は知らなかったのか。俺はてっきり、理事長が依衣の事情を知っていて、俺達に協力させるために推薦したんだと思ってたけど」

「そこは間違いじゃないわ。私の与り知らぬ所で勝手に話が進んでいただけで」

「あの理事長……俺が依衣を選ばなかったらどうしてたんだ」


 恐らく架達は戸沼幸太に敗北し、そのままカルカソンヌに連行されて死神トートを待つ身となっていた。

 結果発表の際に正規の軍隊として扱うと忠告されていたが、情報の共有という最低限の責任すら果たしていない理事長には呆れるばかりだ。


「そのときはそのときで何とかなっていたと思うわ。協力者なら他にいるから」

「……何だって?」

「潜入時期を考えればいないはずがない。拉致した人間がカルカソンヌに集められていることも含めて、誰かが情報を提供してるのは確実だもの」

「潜入時期って……何か特別なことでもあるのか?」

 ミズオを休息地として使えるくらいのメリットしか架には思い浮かばない。


「地球に住んでいる人が知らない、神聖な行事があるわ。そのためにパラディースの住人は九割が家を離れてる。カルカソンヌにも、最低限の人員しか配置されていないはずよ」

「九割!? 地球と同じ人口だとしたら数十億人だぞ……一体どんな行事だよ」

「『星謝祭』と言って、星に感謝の意を示すの。それぞれの地域には『星謝祭』ができるポイントがあって、大抵道程は険しいから入念に準備して向かう。丁度、今は大移動の最中ね。理事長は誰かにそのことを教えてもらった上で潜入時期を決めたのよ」

「だとしたら……その協力者はカルカソンヌに残ってるかも?」


 アルマ・アカデミアにとって有益な情報を教えてくれる協力者が居るなら、潜入中の架達にも手を貸してくれるかもしれない。

 リスクを回避するために『星謝祭』とやらに参加している可能性も否めないが。

 いずれにせよ、カルカソンヌの警備が薄いのは有り難い。

 攫われた他の部隊を救出することも不可能ではないし、復讐だって果たしやすくなる。


「紡の死神もその行事に参加してると思うか?」

「特別な理由でもない限り参加しているはずだけれど、理事長が手を回しているんじゃないかしら。先輩達の目的は知られているのでしょう?」

「……行ってみるしかないか」

 架は空に向かって伸びをしつつ立ち上がった。


「依衣はもう寝ろよ。見張りは俺が引き継ぐから」

「架先輩こそ」

「俺は平気だって。依衣が」

「二人で寝れば良いでしょ?」


 先の見えない遠慮合戦を終わらせたのは、バレバレの盗み聞きを続けていた照だった。

 ここぞとばかりに蒸籠と優太も家屋から出てくる。


「いや、気持ちは有り難いけどさ。お前等こそ、ずっと聞いてたんだから寝てないだろ」

「き、聞いてにゃいわよ!!」

「良いの? 清純先輩。私と架先輩が二人きりで寝ても」

「そ、それは駄目!!」

「えぇ? 蒸籠、そりゃ前言撤回も甚だしいぜ」

「困ったわ。なら、こうするしかないわね」

「「「「???」」」」


 結局。

 五人はたき火の前でくっつきながら寝ることになった。

 依衣を挟んでいるのは蒸籠と照の二人。

 その隣に架、優太という並び順で、ガリミムス達も傍に居る。

 面子こそ違うが、その光景はパラディースに迷い込んだあのときの光景を思い起こさせる。

 それが少しだけ寂しく、悲しかった。


「グスン……俺だけ女の子の温もりがねぇよぉ……」

「……、」


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