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二人一役の調停者  作者: 襟端俊一
第三章 理外の果ての戦い
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 鞘に納めたままの叢雨の先端を前方に向け、戸沼幸太を見据える。

 命懸けの戦いというにはあまりにも不格好だが、相手の力が未知数な現状ではこれがもっとも効果的な対策だ。

 再びミズオの敷地内に入り、架は戸沼幸太の下に向かって走り出した。

 架が近付いているのにも拘らず、戸沼幸太は一切回避行動を取ろうとしない。

 それどころか無防備に両手を広げて祈るように手を合わせようとしている。

 その仕草に違和感を覚え、架は急ブレーキを掛けて立ち止まった。

 直後に目の前で派手な破壊音が轟く。


「やっぱりか!」

「へぇ、やるじゃねぇか。俺の『ゼーンズフト』を躱すとはな」


 聞き慣れぬ言葉を気にしつつも、前方の空間を回り込むようにして再び架は走り出す。

 それでも尚、戸沼幸太は動かない。

 今度は右の掌を水平にして手刀のように縦に振り下ろす。

 たったそれだけの動作で、架の足下の地面が地割れを起こしたように抉られてしまった。


「ちっ。もっと訓練が必要か」


 架が懐に迫ったかと見るや、ようやく戸沼幸太は後ろにジャンプして回避行動を取ったが、両手を前に突き出して攻撃も仕掛けてきた。

 しかし架も、予め叢雨の先端を前方に向けることで警戒している。

 見えない壁が体に直撃する前に躱すことができた。

 戸沼幸太の両手に気を配りながらも、一旦距離を取って様子を見る。


「上手く逃げるもんだな。お前等の仲間は簡単に捕まえられたってのに」

「そいつらはどうした? もう食ったのか」

「ははは。あいつ等は日本人じゃなかったからな。食える奴を探すのが大変なのさ」

「……成る程」


 食うという表現の真意は分からないが、食える人間は限られている。

 恐らくは、もう一人の自分。

 日本人じゃないから探すのが大変という発言も架の推測を裏付けている。

 極めつけは戸沼幸太が言った先程の台詞だ。


「お前、もう一人の自分を食ったのは最近なんじゃないか」

「何故そう思うんだ?」

「訓練が必要な程未熟な、その『ゼーンズフト』って力。そいつはもう一人の自分を食うことで得たんだろ。違うか」

「……へぇ。頭良いな、お前」


 声色が、変わった。

 刹那。


「がっ!?」


 戸沼幸太の右手がバットをスイングするような動作をした途端、架の右脇腹に見えない壁が直撃した。

 家屋の一つに激突する寸前、叢雨を地面に突き立ててどうにか勢いを殺したが、体がひしゃげるような一撃を受けて堪らず架はその場に倒れ込んでしまう。

 戸沼幸太はその隙を逃さない。

 両手を天高く掲げてそのまま真下へと振り下ろす所作から、架への強烈な追撃を放つ。

 ハンマーを叩きつけるような鈍い音と共に、架の体は大地に沈んだ。


「一丁上がり」


 だが。

 勝利を確信した戸沼幸太の言動は、架の耳にしかと届いていた。


「撃て!!」

「!?」


 死角に回り込んでいた照と依衣が桜の引き金を引く。

 見えない壁は戸沼幸太の両腕によって操られている。

 一つずつであれば、片方を防御に使われてしまうため狙撃しても意味は無い。

 架を潰すために両腕を使っている今こそが好機。

 気配を消して戸沼幸太を観察していた二人がそれに気付かぬはずがない。


「く、そが……っ」


 乾いた地面の上に膝から崩れ落ちる戸沼幸太。

 二発の銃弾は、肩と足首を確かに貫いた。

 パウルが発動して咄嗟に体を捻ったのか、或いは敢えて二人が外したのか命を奪うまでには至らなかったが、自衛隊が太刀打ちできなかったパラディース兵に命中させたのだ。アルマ・アカデミアの生徒が戦力になることの証明にもなる成果と言って良い。

 照と依衣が架の下に駆け寄る。


「架先輩、平気?」

「何とかな。コートがいくらか衝撃を吸収してくれたから……打ち身程度で済んだよ」

「成る程、刀を杭にして防いだのね。でも、どうして気付かれなかったのかしら」

「多分だけど……あいつの目には壁が見えるんだ。だから壁を叩きつけた後、壁が邪魔をして俺が見えなかった。この通り、納刀した状態だったのに刀身はほとんど地面に沈んだからな。隙間は小さかったし、勘違いしてもおかしくない」

「そっか。少しずつ、あの力の正体が分かってきたわね」

「気を抜かないで尖堂先輩。彼、相当お冠みたい」


 蹲っていた戸沼幸太がゆっくりと体を起こす。

 だが出血量を見れば分かる。

 こうなればパウルを恐れる必要もない。

 あの足では死を予見しても思うように回避行動が取れないし、見えない壁のからくりも解明されつつある。


「てめぇら……覚悟はできてるんだろうな……!!」


 ファイティングポーズを取って震えだす戸沼幸太。

 傷は深いはずだが、戦意は全く衰えていないようだ。


「……これ以上は傷を広げるぞ」

「たかだか鉛玉二発当てたぐらいで調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」


 戸沼幸太が勢いよく左右に両手を広げる。

 直後だった。



 轟音と共に、戸沼幸太の左右の景色が真っ二つに抉られた。



 今までと同じ、見えない壁による打撃。

 しかし今回は規模が桁外れだった。

 攻撃は終わらない。

 戸沼幸太の両腕の先に繰り出された巨大な見えない壁が、中央の空間を挟み込むようにして移動を開始したのだ。

 ミズオに点在している家屋や枯れ木を薙ぎ倒して尚その速度が落ちることはなく、戸沼幸太が使役していたであろうガリミムスまでもが巻き込まれている。

 既に正面は家屋の残骸で埋まっていてとどめを刺すこともできない。

 このままでは押し潰されてしまう。

 架達は見えない壁が届かない距離まで逃れようと全速力で走り出したが、迫り来る壁の方が明らかに速い。障害物がなくなれば速度は更に増すだろう。


「照! 依衣! 二人は俺の手に乗って跳べ!! この壁、雪原の先までずっと続いてる。どうやったって間に合わない! 逃げられるとしたら上からだ!!」

「架はどうすんのよ!?」

「さっきみたいに刀を挟んで耐える!」

「この壁、木や家まで薙ぎ倒してるのよ!? そんなナマクラ折れちゃうって!!」

「な、ナマクラ!? これは架空の刀を現代の技術を結集させて再現した夢の日本刀で」

「知らないわよ刀馬鹿!!」


 ぎゃあぎゃあ言い争いをしながら走る照と架。

 その二人を半眼で見つめながら並走していた依衣は、小さく嘆息して足を止めた。


「これも非常事態と言えるのかしら」

「諦めるなよ!? ほら、疲れたんなら抱っこしてやるから! それともおんぶか!?」

「とても魅力的な提案だけれど、お構いなく」


 依衣は緩やかな動きで蝶の形をした和紙製のピアスを片方だけ外し、右の掌に乗せる。すると命を宿したようにピアスが羽ばたきだし、押し寄せる壁と壁の間でピタリと静止した。


「依衣? お前、何を」

「駄目、もう間に合わない!!」


 照の言葉などお構いなしに、依衣は不可思議な行動を続ける。

 空中で静止しているピアス目がけて、懐から取り出した扇子を投げつける。

 投げられた扇子はピアスに触れた瞬間、一緒になってパラシュートのように落下し、少し前方の地面に着地する。

 扇子の上に、ピアスが乗った形で。


橋立はしだて


 依衣が呟いた途端、押し寄せていた見えない壁が急に動きを止めた。

 いや、正確には今も変わらず壁は迫ろうとしているのだが、何かが邪魔をしてこれ以上進めない感じだ。


「……え? 何、どうして止まったの?」

「依衣が、やったのか」

「今は私を信じて清純先輩達と合流して。後で説明するから。全てね」


 前を向いたままの依衣は、地面に落ちたピアスと扇子を触れることなく自らの手に収め、再び同じ手順を行った。

 今度は扇子が見当違いの場所に飛んで行ってしまったが、


高飛たかとび


 またしても何かしらの言葉を呟き、とてつもない跳躍力で見えない壁の上を軽々と飛び越えてしまう依衣。

 残された二人は、しばらく呆然としたまま動くことができずにいた。


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