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二人一役の調停者  作者: 襟端俊一
第三章 理外の果ての戦い
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 躊躇無く発砲するつもりだった。

 誰一人として引き金を引かなかったのは、声が聞こえたからだ。


 待て! という優太の声が。


 架には待つ理由が分からなかった。

 パウルを持つパラディース兵を一回の狙撃でどうにかできるとは思っていないが、隙を見せればブルーメ・ゲヴェアーで撃たれるかもしれない。

 ブルーメ・ゲヴェアーの種子には様々な毒性がある。

 一発貰うだけでも致命傷になり得るのだ。

 だから架は、一瞬遅れたものの優太の言葉を無視して桜の引き金を引いた。

 冷たい銃声が集落に響く。


「馬鹿、架! 待てっつっただろ!?」


 優太の声は架に聞こえていなかった。

 弾が当たらなかった。

 それどころか届きもしなかった。

 架の放った銃弾はターゲットに当たる前に弾かれてしまったのだ。

 まるで、そこに見えない壁があるように。


「架! いいから銃を下ろせ!!」

「……どうして止めたんだ」

 敵から視線を逸らさずに、架が優太を問い詰める。


「覚えてないか? あいつの顔。去年同じクラスに居た奴だ! 三年になる前に行方不明になった、戸沼幸太とぬまこうただよ!!」

「……、」


 髪はボサボサで、体格は中肉中背。

 身長は架より少し低い程度。

 炎の向こう側にいる人影の顔を観察するも、架の記憶の中に符合する人物は居なかった。

 優太は架と違って人当たりが良く、クラスメイトともすぐに仲良くなっていた。架の知らない生徒と親交を深めていても不思議はないが、


「冷静になれ優太。同じ顔でも、あれは敵だ」

「お前こそ冷静になれよ!! 行方不明になったってことは、こっちに連れ去られて無理矢理働かされてるのかもしれないだろ!?」

「仮に本人がそう説明してきて、優太は信じられるのか? 俺には無理だ」

「……!」


 優太が言った可能性は、パラディース兵なら誰もが仕掛けられるだまし討ちの常套手段でもある。

 同じ容姿のパラディース兵がいつの間にか入れ替わり、我が物顔で日常に溶け込んで身近な人間を攫っていく。

 そんなことは幾度となく繰り返されてきたのだから。


「どっちも冷静になりなさいよ。わざわざ待ってくれてる敵さんに悪いでしょ」

「ん? 話は終わったのか?」


 戸沼幸太? は準備運動のつもりなのか、両手両足をぶらぶらさせている。

 一見するとブルーメ・ゲヴェアーで武装しているようには見えない。

 そのことが蒸籠の警戒を少しだけ解いた。


「あ、あなたは戸沼幸太君、ですか?」

「無駄よ、清純先輩。確かめる方法はないわ」

「そーそー、そこの小っこい子の言う通り。つーか、こっちも下手な小細工なんてするつもりねぇから教えてやるよ」

「何……?」



「クランクヘイトに居たもう一人の俺は、この俺が食ってやった」



「「「!?」」」

「「……、」 」


 人が人を食う。

 もしこれがそのままの意味であれば、今までの拉致被害者は全員同じ運命を辿ったことになる。

 このときの架は別の意味で恐怖していたが、すぐにその考えを打ち消した。


「そんな訳だからよ。真ん中の奴みたいに、遠慮無く殺しに来てくれて構わないぜ」

「く、食った、だと……? ふざけるなあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

「! 駄目よ古賀先輩!!」


 依衣の声を無視し、優太は背中に携えたクレイモアを抜いて一直線に走り出してしまった。

 殺意剥き出しで周りが見えていないのか、正面で燃え上がるたき火を物ともせずに踏み越えていく。

 遅れて架と照もサポートに回ろうと走り出すが、予想外の事態が起こった。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおがっ!!!???」


 架の放った銃弾が弾かれた辺りで、優太が何かにぶつかった。

 全速力で何かに激突した優太は、見えない壁に寄りかかるようにして意識を失ってしまった。


「へっ。もう一人の俺のダチだっただけあるな。そういう単純馬鹿は好きだぜ?」

「「優太!!」」

「安心しろって。ちゃんと返却するからよ!!」


 戸沼幸太は右手をグッと前に突き出す動作をした。

 すると、倒れていた優太がブルドーザーで押し出されるように架達の方に向かってくる。

 燃え上がるたき火を巻き込まんばかりの勢いで。


「まずい!」


 すんでの所でたき火を蹴散らすことに成功するも、逃げるタイミングを失った架はスピードを増した見えない壁に巻き込まれてしまった。


「な、何なのよこれ!? 壁!?」

「俺が知るか!!」


 起き上がった架が照と一緒に押し寄せる見えない壁の前に立ちはだかる。

 蒸籠と依衣も加勢するが、やはりビクともしない。

 むしろどんどん押されていき、最終的にはミズオの外の雪原にまで押し出されてしまった。

 架達が通った跡には、雪かきをしたような綺麗な歩道が出来上がっている。


「無理に押し戻そうとしなくても、古賀先輩を担いで横に逃げれば良かったのに」

「気付いてたなら言ってくれよ……」

「そ、そうよ。こっちは訳分かんない攻撃にしどろもどろだったんだから」

「……何だったんだろう、あれ。ブルーメ・ゲヴェアーみたいに改良した植物なのかな」

「目に見えない植物か。有り得ない話じゃないけど」


 パラディースでは架達の常識など通用しない。

 それは重々理解しているが、人間の目に見えない上、銃弾すら弾いてしまう壁状の植物を、直接手で触れることなく自在に操るなんてことが可能なのだろうか。

 これは品種改良で生まれた植物兵器というよりも、パウルのような異端の力に近い気がする。


「優太は駄目ね。完全に気を失ってる。後先考えずに突っ込むから……って、架? 何刀持ってるのよ。パウルに加えて見えない壁があるんじゃ、接近戦は厳しいでしょ」

「そうとも限らないさ。見えない壁があるからか、あいつは回避行動を取ろうとしない。俺が桜で撃ったときもだ。つまりパウルは発動してない」

「それは壁があるからじゃないの? 例え殺意を察知しても、確実に防げるなら死の未来なんて見えないだろうし」

「壁を防御に使ってるときはパウルが発動しない。なら、さっきみたいに壁を攻撃に使ってるときは? 多分パウルは発動するだろうけど、攻撃に意識を集中させれば反応は鈍くなる」

「……具体的に、どう戦うつもりなの?」

「俺があいつの注意を引きつける」

 未だ一歩も動こうとしない戸沼幸太に視線を送り、架は一歩前に踏み出た。


「刀で前方に壁がないかを確認しながら突っ込む。照と依衣は、その間に裏から回り込んであいつをじっくり観察してくれ。で、俺が合図したら狙撃。蒸籠は優太を頼む」

「分かった。架も、あんまり無茶しちゃ駄目よ」

「試す価値はあるかも。流石架先輩ね」

「ゆ、優太君のことは任せて!」

「ああ。こっちもやるだけやってみるさ」


 集落に目を向け、刀を構える。

 得体の知れない力を持つ新手の敵を相手にした、架達の先の見えない戦いが始まろうとしていた。


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