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二人一役の調停者  作者: 襟端俊一
第三章 理外の果ての戦い
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 視界を遮る吹雪が晴れたのと、夜を彩る満天の星空が現れたのは同時だった。

 星明かりに照らされて遙か先まで見通せるようになった雪原の大地で、架達は煌々と燃え上がるたき火の炎を目にする。その周囲には、過去に人が住んでいたと思われる原始的な家屋が立ち並んでいる。

 それにも増して目に付いたのは、家屋の一つに繋がれている一頭のガリミムスだった。

 左手を上げ、立ち止まるよう皆に指示する。


「居るな。少なくとも一人は」

「アカデミア生は居ないみたいね」

「で、でも。家の中にいるかも」

「清純先輩、それはないわ。あの悲鳴を聞くに、アカデミア生は敗戦した。十五人ものアカデミア生と交戦して勝ったのだから、敵もそれなりの人数を揃えているはずでしょう。しかも、私達よりも先回りするにはガリミムスの足が不可欠。最低でもガリミムス十数頭と人間二十人以上。あの集落に、そんな大所帯が隠れられると思う?」


 無情な事実を突き付ける嫌な役目は依衣が代わってくれた。

 蒸籠には勿論だが、依衣にも申し訳ない。こんなことなら期待させるようなことを言わなければ良かった。


「しゅん……」

「そ、そう落ち込むなよ蒸籠。あそこに居ないってことは、カルカソンヌ? って所に連れて行かれたんだって。どのみち俺達もそこに向かうんだし、助けられるさ」

「それも目の前の敵をどうにかしてからだけどな……」


 遠くの炎を見つめながら思考を巡らせる。

 ガリミムスが一頭残っていることを素直に受け入れれば、あそこで待ち構えているのはたった一人。

 しかし相応の実力者であることは疑いようがない。

 架達の情報を掴んだ上で待ち伏せしているのだから。


 パラディース兵が厄介なのは、幼い頃より戦闘技術を叩き込まれてきたことではなく、パラディース人が持つ特別な『力』を使いこなしていることにある。

 一般市民ならただの危機回避能力だが、兵士が使えばこれほど有用な『力』はない。

 その『力』はパウルと呼ばれている。

 百年以上前に、サッカードイツ代表の国際試合の結果を予見したタコの名前が由来となっているこの力は、死の未来を予見するという。

 突発的な事故死は勿論、人の手によってもたらされる死も。

 物や人の殺意を感じ取っていると言われており、自衛隊が太刀打ちできなかったのもこの力によるところが大きい。

 拳銃よりも遙かに強力な、ブルーメ・ゲヴェアーという武器を持っていることも彼等の脅威の一つだろう。


 ただ、パウルも万能という訳ではない。

 死の未来以外は予見できないので、殺そうとせずに戦うのが一番効果的だ。

 アルマ・アカデミアでも、対処法として、殺傷能力の低い攻撃で身動きが取れないほどに弱らせるという戦い方を教えている。

 残酷に聞こえるが、それ以外の対処法がないのも事実。

 戦うなら実践するしかない。

 

「どうする。こっそり近付いて、桜で狙い撃つか?」

「馬鹿。パウルを忘れたの? 銃なんて持って近付いたらモロバレよ」

「じゃあ丸腰で近付けってのかよ。それこそ無謀だろ」

「パウルは死の未来を予見する。つまり殺傷能力の高い武器だと、手に持つだけでアウトかもしれない。本気で狙撃するなら、ギリギリまで近付いて持った瞬間に撃つくらいじゃないと駄目。そこであんたに質問。西部劇のガンマンみたいな真似、できる?」

「無理!」


 清々しいまでの開き直りっぷりだった。

 だが射撃テストの成績が良かった架とて、そんな撃ち方で狙いを定めることはできない。


「架先輩はどうしたいの?」

 依衣からの質問を受けて、架は少し考え込む仕草を見せた。


「……俺達のことは敵に知られてる。これはもう確定情報として考えてもいいよな?」

「いいんじゃない? 他の部隊が私達を庇う理由なんてないし。だからこそああやって待ち伏せしてるんでしょ。一人しかいないんだとしたら私達も舐められたもんね」

「私達が複数いると知った上で一人で待ち伏せしているのだとしたら、相当腕に自信がある証拠。普通なら罠を張って待つのが定石だけれど、その心配はなさそうね」

「ただの自信過剰なら良いんだけどな。……どっちにしても、休息を取るにはどうにかするしかない。まずはターゲットを見つける。見つけたらばらばらに近付いて、全方向から狙撃。撃つタイミングは俺が雪玉を投げて合図する。それで良いか?」

「「「了解」」」

「了、解」

 一人だけ消極的に答えたのは蒸籠だ。


「蒸籠は無理しなくて良い。パラディース兵相手じゃ五人も四人も同じだ」

「ううん、私もやる。やれるよ」


 蒸籠の決意を秘めた瞳をジッと見つめ、架は優しく頷いた。

 緊張しているのは皆同じだ。

 何せ人間相手に命懸けの戦いをするのはこれが初めて。

 アルマ・アカデミアの訓練と命の懸かった実戦が一味違うのは、ガリミムスとの一騎打ちで思い知った。

 恐竜でさえあそこまで違うのだから、人間との戦いは想像もつかない。


 手綱を引いて、架を先頭に五人は集落まで歩みを寄せる。

 スローペースの歩みで発覚したのはガリミムスの疲労度だった。

 全力疾走しているときは分からなかったが、こうやってゆっくりと歩いているだけで既に息切れを起こしている。

 やはり休息は必要だ。

 薪をくべただけの質素なたき火を取り囲む藁作りの家屋に接近し、架達はガリミムスから降りて手綱を枯れ木に結びつけた。

 ガリミムスが全力で引っ張れば倒れてしまいそうだが、今までの従順な態度を見るにその心配はないだろう。

 家屋の中に誰もいないことを確認して、架は小声で口を開いた。


「これから、一軒ずつ家屋の中を確認していく。移動中は俺が前方、蒸籠と依衣は後方、優太と照はそれぞれ左右に気を配って」



「その必要はねぇよ」



「「「「「!!」」」」」


 声の方を振り向いた瞬間。

 架達は一斉に桜を手にし、その銃口を炎で揺らめく人影へと向けた。


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