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合流地点では、既に一騎打ちを制して帰った架、照、依衣の三人が忙しなく手を動かしていた。
三人が作っているのは、ガリミムスに装着するための木の皮とつる植物で作った簡易手綱だ。
「ただ待っているだけというのもね」、という依衣の提案で作ることが決まったのだが、肝心の材料と製法を知らない架と照は先程から依衣に頼りっぱなしである。
「架先輩、手が止まっているわよ。手先は器用なのでしょう? それとも、それは女性相手に限った話なのかしら」
「ぶっ!? と、突然何を言い出すのよあんたは!」
「あら。尖堂先輩も身に覚えがあるの?」
「私じゃなくて蒸籠が……じゃなくて!! ボーッとしてないで架も反応しなさいよ!!」
「え? あ、ああ。ごめん」
教えてもらった作業行程は思うように進んでいなかった。
原因は分かりきっている。
蒸籠と優太の帰りが遅いせいだ。
未だ尾てい骨に鈍い痛みが残っている架に言わせれば、無傷でピンピンしている照と依衣は異常なのだ。
「……信じて待つって言ったのは架よ? ここで私達が助けに行ったら、蒸籠は『信じてもらえなかった』って思うでしょ。あの子は人一倍感じやすいの、そういうの」
「それは分かってるけど……」
「大丈夫よ! 依衣だって平気だったんだから」
一人黙々と作業を続ける依衣に視線を送る。
手綱の製作は佳境に入っていて、依衣はいつの間にやら架の作りかけをぶんどって最後の一つに取り掛かっていた。
これが完成すれば全員分が揃うことになる。
「ごめん、手間かけさせて。……依衣はどうやって勝ったんだ? ガリミムスに。あ、邪魔なら別に」
「架先輩はおかしなことを聞くわね。拾ったシュヴェルトグラスで一太刀入れて勝ったに決まっているでしょう。ガリミムスが三頭いることが何よりの証拠だと思うけれど?」
「依衣って、刃物の扱い上手かったか? 体術テストは合気道で受けてたよな」
「そんなに根掘り葉掘り聞かれると、違うところも掘られてしまいそうで怖いわ」
「……分かった。もう聞かない」
何とも返答に困る言葉に架は顔を逸らした。
「架って、その手の冗談に弱いのね。ふふっ、ちょっと意外かも」
「優太が心配で心配で仕方がない誰かさんには言われたくないな」
「んな!?」
架は仕返しとばかりに敢えて黙っていたことを告げた。
優太を心配しているのは架も同じだが、照は少しベクトルが違う。
もっとも、それは過去の話。
今も恋愛感情から来ているものなのかまでは分からない。
紡の事件を境に、恋をする余裕などなくなってしまったから。
「青春してるわね、尖堂先輩」
「あ、あんたこそ。妖精さんとのお喋りはもう良いの? 大分ご無沙汰なんじゃないの」
「話す必要がなければ話さないし、話す必要があれば話すわ。最近は先輩達といることが多かったから機会に恵まれないわね」
「さも当たり前のように言わないでよ……頭痛がしてくるから」
架に続けて照も煙に巻かれた後、程なくして手綱は完成し、早速装着させてみた。後はガリミムスを引き連れた二人が戻ってくるのを待つだけだ。
「うん、中々様になってきた。よしよし」
照の手招きに応じ、ガリミムスの一頭は撫でて貰える低さまで頭を下げた。
恐ろしいくらいの懐き具合だ。
見たところ目立った傷もないし、余裕を持って一騎打ちを制したことが窺える。
「尖堂先輩、待ち人が来たみたいよ」
依衣が指さす方を見ると、そこには優太を乗せたガリミムスがいた。
背中の上でぐったりしていて、怪我を負ったのかと全員が心配して駆け寄ったが、優太は自力でガリミムスから降りてくる。
「ようやく酔いが覚めたぜ……」
「な、何だ。ピンピンしてるじゃない」
「当たり前だろ。余裕で俺の勝利だったぜ。いやー見せたかったなー、俺の勇姿はぶ!?」
武勇伝をひけらかそうとした優太をガリミムスの鼻先突っ込みが止める。
「おかしいわね。普通に勝って力関係を示せば、こんなぞんざいに扱われることはないのだけれど」
「あんたのことだから、どうせ卑怯な手使って勝とうとしたんじゃないの?」
「それ以上の詮索は勘弁してくれ……後生だから……」
絞り出すように懇願してきた優太の姿に、三人はことの顛末を何となく理解する。
優太の相棒に手綱を装着させてからは、それぞれが落ち着きなく時間を潰した。
途中、架と優太、更に依衣までもが見に行こうと提案したが、照が頑なに拒むためそれも叶わなかった。
架が戻ってから、既に一時間近く経過している。
シュヴェルトグラスで一太刀入れるだけの勝負が、これほど長引く理由は一つしか考えられない。
「駄目だ。俺は行くぞ」
架はそう言い捨てて、蒸籠のために作った手綱を持ってガリミムスに跨がった。
「ちょ、ちょっと待って架! 後少し、後少しだけ待って」
「いくらなんでも時間切れだ!! 俺はリーダーとして、みんなの命を預かってる。責任があるんだ。これ以上は待てないよ」
「……行くか」
「私は架先輩の指示に従うわ」
優太と依衣も次々にガリミムスに飛び乗って手綱を握り締める。
「ストップ!! そんなに言うなら、私が一人で行く!」
「おい、そりゃおかしいだろ。蒸籠を心配してるのはお前だけじゃないんだぞ」
「んなこと分かってるわよ! でも駄目なの!! あの子の戦いは見せられないの!」
「……照が隠したい蒸籠の秘密とやらは、蒸籠の命よりも大切なものなのか?」
「!!」
「行くぞ。全員でだ」
照がガリミムスに跨がったのを確認して、架は前を向いた。
目指すのは当然、散開した際に蒸籠が向かった先。
吹雪に隠れた雪原の向こうだ。
と。
いざ進もうとした全員の視界に、架達と同じシルエットをした何かが映った。
ガリミムスに跨がった、清純蒸籠。
誰一人として近付こうとはしなかったのは、蒸籠が跨がっているガリミムスの変わり果てた姿を見たたからだろう。
白い羽毛が所々血に染まっていて、その傷を隠すように全身を包帯でグルグル巻きにされている。
散開する前には確かにあったはずの獣脚類恐竜の威厳や誇りは完全に失われており、どんよりとした表情からは哀愁すら感じさせる。
「えへへ。この子の調教と手当に時間掛かっちゃった。心配かけてごめんね?」
白のダッフルコートに派手な赤い染みを作った蒸籠は、何かを吹っ切ったようなとても晴れやかな表情でにっこりと微笑んできた。
架達が苦笑いを浮かべるしかなかったのは言うまでもない。




