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二人一役の調停者  作者: 襟端俊一
第三章 理外の果ての戦い
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 アルマ・アカデミアには五棟の校舎があり、その全てに理事長室が存在する。

 無論、理事長が五人いる訳ではなく単に防犯上の都合だが、本人はそんな意図とは無関係に楽しんでいる節があった。


 例えばある校舎の理事長室は、レコーディングが行える程の機材と楽器類が揃ったスタジオになっているし、漫画喫茶のようにありとあらゆる漫画が揃っていたりもする。

 要は理事長の私室と化している訳だ。


 中でもとりわけ異彩を放っているのが何もない理事長室である。

 椅子はおろか家具一つなく、照明器具すら存在しない。

 あるのは窓と扉のみで完全な空き部屋となっているのだが、何故か理事長は足繁くこの部屋に通っている。

 そして、今日もその部屋には秘書を連れた理事長がいた。


「渡橋君達は無事ですかねぇ」

 隣に控えている秘書に聞こえるように呟く理事長。


「でなければ困ります。あれだけお膳立てをしたのですから」

「それはそうなんですが。不測のザンネンな事態というのは得てして起こるものですし」


 アルマ・アカデミアが渡橋架率いる第一部隊のためにしたお膳立ては、主に三つある。

 清正の井戸の鍵を渡したこと。

 潜入時期の調整。

 協力者の確保。

 もっとも、それら全てが理事長の思う通りに作用するとは限らない。

 不測の事態とは、つまりそういうことだ。


 実際、理事長が清正の井戸の鍵を渡したのは、『第一部隊だけが安全にパラディースへ潜入できるようにするため』だったが、渡橋架は他の部隊にも教えようとしていた。

 結果的に理事長の思惑通りになったものの、明らかに考えが食い違っている。


「復讐者なら体良くステキに利用できると思っていましたが……」

「時間も経っていますし、何より彼等は子供ですから。本当の意味では、復讐というものを理解していないのでしょう。だからこそ、目的以外のことにも目を向けられる」

「他の三人はそうでも渡橋君は違いましたよ? 秘めたる憎悪は紛れもなく本物。ステキです」

「或いは、その三人の存在が彼を押しとどめているのかもしれませんね」


 秘書はそう言って、腕時計で時刻を確認する。


「彼等がパラディースに潜入してから五時間ほど経ちました。順当に行けば、今頃はキュランダを抜けてパンノニア平原を歩いているかと」

「他国の鼠を助ける、なんてザンネンな寄り道をしている可能性は?」

「どうでしょう。潜入前のいざこざがなければ充分あり得る話ですが、現状では不信感が拭えきれないのでは? それに、戻ってきたという報告もありません」

「鼠には鼠なりの面子がありますからね。表向きは拉致被害者の救出でも実際は違う。各々の目的も果たせずに逃げ帰ったのでは、国としての立場がない」

 理事長は冷たい床の上に寝そべって、天井を見ながら言う。


「最低でも、何かしらのステキな情報を入手しないと帰れない。鼠も大変ですね」

「その点で言うと第一部隊はより過酷ですね。表向きの目的と、彼等独自の目的。その両方を成し遂げなければ帰ってこられない」

「表の方はあってないようなものですがねぇ。ふわ……ぁ」


 理事長は小さく欠伸をして目を瞑った。

 その表情からは何の感情も伝わってこないが、秘書には分かっていた。

 この人は、潜入している生徒達のことなど何とも思っていない。


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