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二人一役の調停者  作者: 襟端俊一
第二章 足を手に入れろ
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 キュランダ前まで戻った架は、向き合うようにしてガリミムスの一頭と対峙していた。

 かつて地球に生息していたガリミムスと同種であれば、チーター並みの速度で獲物を追える脚力の持ち主だ。

 そんな恐竜が、普通に走っただけの架に追いつけないわけがない。

 分散して戦うという架達の意図を理解しているのだろう。

 笹の葉のような形状のシュヴェルトグラスを突き付けて戦いの意思を伝えると、ガリミムスは首を縦に振って頷いてきた。


「凄いな。お前、頭良いんだな」

「グル!」


 逞しい尾を雪の大地に叩きつけるガリミムス。

 完全に臨戦態勢だ。


「悪いけど……挑発には乗れないぞ」

 右手に持ったシュヴェルトグラスを左腰に添え、左手で右手首を握る。

 架が得意としている剣術。

 中でも、特に好んで使っている抜刀術は、鞘との摩擦抵抗で力を溜めて切っ先が離れる瞬間に引き抜くことで、両手持ちで扱う日本刀では不可能な剣速を実現できる。

 慣れない内は刃が潰れてしまうが、架は訓練によって型を完璧に身に付けている。


(左手を鞘代わりにしても大した効果は得られない。けど型だけでも抜刀術にしておけば思わぬ反撃を受けても対応しやすい)


 本来、抜刀術は相手に悟られていてはあまり効果がない。

 しかし敵の攻撃が来ても初手を瞬時に切り替えて受け流し、二の手で攻撃に転じることができる。


「グルルル……」

 架が出方を窺っていると見るや、ガリミムスは堂々と距離を詰めてきた。

 シュヴェルトグラスの短い間合いに、後少しで入る。


(今だ!!)

 左手をバネにして瞬時に剣を振るう。

 抜刀術における、抜き附けという技法。

 が。

 架の放った斬撃は、ガリミムスが急激に体を回転させたことで空しく空を切った。

 同時に迫ってくる、ガリミムスの太い尾による横薙ぎの一撃。

 架も負けじと高く飛び上がって避けるが、ガリミムスの方が一枚上手だった。

 真下を通過すると思われたガリミムスの尻尾が直角に方向転換し、架の体をピンポン球のように跳ね上げたのだ。

「痛っつ!!」


 尻を強打して、そのままガリミムスの頭上数メートルまで昇っていく架。

 直後のガリミムスの行動は、架に命のやり取りを実感させるものとなった。

 ガリミムスは架の落下地点を予測し、少しだけ移動して空に向かって大きく口を開けた。



 まるで、マシュマロキャッチをするかの如く。



「この……っ!!」


 落下中、強引に体を捻ってどうにかガリミムスの牙から難を逃れる。

 途端に響き渡るガヂッ!! という牙と牙がかち合う音。

 手をついて着地した架は肝を冷やして体勢を崩しかけた。

「あ、危なかった。こりゃ、信じて待つなんて言ってられないな」


 野生のガリミムスが、まさかフェミニストなんてことはないだろう。

 男であれ女であれ敗北は死を意味する。

 架は今一度神経を研ぎ澄まさせ、抜刀術の構えを取った。

 今度はガリミムスも学習しているため、躊躇無く尻尾による攻撃を繰り出してくる。先程の変則的な尻尾攻撃とは全く違うフルスイングだ。

 架はそれを躱す。

 馬鹿正直に真上に跳ぶジャンプではない。

 高飛びで言うところのベリーロールのような、前方に向けて回転するジャンプで。

 その回転を利用し、抜刀術に遠心力を加えて一気にシュヴェルトグラスを振るった。


「グォッ!?」

 驚いて硬直するガリミムス。

 尾の付け根から流れ出た血が真白の大地に滴り落ちる。

 架の放ったシュヴェルトグラスの剣閃が、確かに届いた証だった。


「これで条件クリア……だと良いけど」


 瞬時に立ち上がって距離を取り、再びシュヴェルトグラスを構える。

 アルマ・アカデミアで教わったことなど、所詮は人から与えられた知識に過ぎない。

 果たして、結果は。


「……グル」


 ガリミムスが静かに頭を垂らす。

 それを見た架は、大きく息を吐いて傷口の応急手当を始めた。


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