第五話 ……なんか怪しいなあ
おはようございます……。
寝起きでちょっとボケっとしているけど。うん、大丈夫。パンツ履いている安心感にほっとする。
はっはっは! パンツさえ履けば、わたしは無敵! なーんてね。
ベッドからむっくりと起き上がった途端にノックの音がした。
「おはようございます、聖女様」
「おはようございます、聖女じゃないです」
聖女じゃないと告げたけど、本名を名乗る気はない。
ほら、どこかの世界では真実の名は相手を縛るとかあるじゃない。名乗った途端に支配とかされたら嫌だから、名乗りはしない。
あー……偽名とか考えていたほうが良いかな? でも嘘を見破る魔法があるんだから……、あ、偽名じゃないけど本名じゃない、あだ名……、うーん、名前の英語読みとかにしようかな。あ、あれがあった。
「聖女じゃないので、わたしのことはコーラルと呼んでください」
わたしの名前はコーラルです。そう告げれば嘘になる。
でも、コーラルと呼んでください。これなら嘘にはならない。
「かしこまりました、コーラル様」
「さあ、朝ごはんをお願いします! メイドなのか侍女なのか分からないけど、お姉さんたち!」
用意されたのは山盛りのフルーツと野菜。それから果汁を絞っただけのジュース。あとは紅茶。
ううむ……穀物とか肉類はないのかね? 朝だからなのかしら、それとも聖女たるもの不浄な肉は食べてはならないとかなのかしら?
まあ、とりあえず、果物に毒を仕込むのは無理だよね……。果汁はわからないけど。
警戒してもどうしようもないので、ありがたくいただく。
モグモグしながらお姉さんたちに聞いてみる。
「で、この世界の聖女ってなにするの? どんな仕事をこなさないといけないの?」
情報収集は大事です。
あとでターロックとかいう王子や魔法使いたちとかと交渉しないといけないんだろうから、この国の情報はあればあるだけ良いはず。
「うちの世界の『ジャンヌ・ダルク』様は、神の啓示を聞いて、フランスという国を戦争で勝利に導いたけど。わたしは体力的に、馬に跨って騎士と一緒に進軍なんて無理」
例を挙げて聞いてみたら、エプロンドレスのお姉さんたちは、驚いたように首を横に振った。
「聖女様を騎士扱いはいたしません!」
「あ、そーなの?」
じゃあ何をするんだろーなーって思っていたら。食後に白の魔法使いとかのお爺ちゃんたちがやって来てわたしに言った。
「聖女様には、聖なる泉にて祈りを捧げていただきます……」
「聖なる泉?」
「はい。聖女様が祈りをささげることによって、世界は安寧を取り戻すのです」
なんかあやしーなー……と思いつつも、わたしはこのお爺ちゃんたちのように嘘を見破ることはできない。
信用はしないけど、一応、話は聞いておくことにする。
「わたしは聖女じゃないけど。祈りをささげるのも修業の一巻? 聖女の力を発揮するために必要なの?」
「いえ……。この世界の召喚されたということは聖女であるということです。素質を有していれば泉……、いえ、聖なる木が反応を見せるでしょう。聖なる木と繋がれる……それができるのが聖女です」
「ふーん。逆に言えば、その泉とか木が何の反応も見せなかったら、わたしは聖女じゃないってことね?」
聖女じゃないと分かれば、元の世界に戻してもらえるかもしれない……なんて、希望的観測よねえ。あんまり希望は持たないようにしておこう。
「わかった。とりあえず、聖女じゃないと証明するためにも泉とやらに向かってみるのもやぶさかではないですよ」
ほっと胸を撫でおろす魔法使いたち。
だけど、わたし、引き受けると断言したわけじゃないからね? 向かってみるのもやぶさかではない。「やぶさかではない」は前向きな肯定ではあるけれど「条件付きでやってもよい」という意思を示すときにも使える言葉なんだよねー。
「じゃあ、もうちょっと詳しい業務内容を聞かせてください。泉に向かうのはいいとして、泉とやらまでは遠いんですか? 道中に危険はありますか?」
「いや、泉は大聖堂の裏手にあるので、危険はない」
大聖堂とやらがどこにあるのかは分からないけど、危険はないんだな?
言質は取ったぞ?
「では、次の質問です。泉に祈るのは一回につき何時間とか何分間とか、どのくらいかかるんですか?」
「それは……その聖女の持つ力によりますな」
「じゃあ丸一日とか一週間連続とか? その場合の食事とかどうするんです?」
「泉に入っているときに食事は必要ないのです」
「へ? 食べさせてくれないってこと?」
「いえ、聖なる力が充満している場所なので、食事も水もなしに何日も何時間でも過ごすことができるのです」
……なんか怪しいなあ。




